88-03 助力
『アーノルトさんは凄いですね』
蓬莱島では、老君が『波長変換ゴーグル』の開発について絶賛していた。
スペックについて、ではない。
それを開発するための指導ぶりに、である。
『持っている知識と技術をうまく組み合わせて昇華させる……これは教導者の器ですね』
その手法を参考にしたいと、老君は記録、分析していたのであった。
* * *
その『波長変換ゴーグル』であるが、その日のうちに機能試作が完成。
『こそ泥ゴーレム』で確認するわけにはいかないので、暗闇で赤外線ライトを照射して、それが可視光に変換されて見えるかどうかで判定。
結果は成功であった。
仁が昔……日本にいた時代……に映画か何かで見た『暗視ゴーグル』あるいは『ナイトビジョン』くらいの外観で収まったのである。
蓬莱島で作れば、少し分厚い眼鏡くらいになるであろうが、それはそれ。
現状の素材と技術でこれだけのものを作り出せるアーノルトに、老君は感心したのであった。
* * *
6月16日、『波長変換ゴーグル』の目処が立ったため、フランツ王国西部のデマトフ鉱山とクライン王国北東部のピグモルド鉱山の2箇所への調査団の派遣も決まった。
そしてエリアス王国の『ドーサ鉱山』には、調査団ではなく『世界警備隊』からの派兵が行われる。アレオ・ヨカ・ナイツはこちらに参加する。
隊長はジョルダ・カーター。彼は世界警備隊アヴァロン勤務第2飛行船部隊の隊長を務めている。
今回は飛行船を追うことも考えてのことだ。
「試作品のゴーグルが3つ、か」
量産品は生産が間に合わなかったので、試作品で対処することになる。
これは時間を優先したためである。いつ『謎の飛行船』がスタートするかわからず、それを逃した場合に『次』があるのか不明だからだ。
「1つでも使いようですからね。3つもあればなんとかなるでしょう」
アレオ・ヨカ・ナイツが、隊長のジョルダ・カーターに助言した。
「そうだな」
「自分たちは偏光フィルターでやりくりしましたから」
「そうだったな」
ここは、エリアス王国へ向かう飛行船の内部である。
移動は短時間ではあるが、いい具合に空いた時間となるので認識のすり合わせを行っている。
こうした打ち合わせは十分に行っておくべきだとジョルダ・カーターは思っていた
「1つだけ、懸念があるんです」
「ほう? アレオ、それは何だ?」
「謎の飛行船の速度です」
「速度?」
「はい。小型でなおかつ、我々の知らない装備を持っているということは、速度も速いのではないかと」
「む、なるほど」
その可能性はある、とジョルダ・カーターも認めた。
「では、どうする?」
「開発中の『フェニーチェ』。あれが使えれば……」
『フェニーチェ』の最高速度は時速400キロ、今彼らが乗っている飛行船は最高速度時速150キロ。
アレオが危惧するのも無理はなかった。
「しかし、ないものは仕方ない。手持ちの手段でベストを尽くすだけだ」
「はい」
「だが、その懸念は『世界警備隊』本部に伝えておこう」
そういう事になったのである。
* * *
老君は『世界警備隊』本部に入った連絡内容をアーノルト経由で聞いた。
『確かに、あの飛行船は時速300キロくらいは出ていましたね……今の『世界警備隊』の飛行船では追いつけません』
そういう点で、アレオ・ヨカ・ナイツの危惧は正しかったといえる。
『これはどうしましょうか……やはりデウス・エクス・マキナの出番でしょうね』
そして老君は手を打つ。
飛行船はプレアデス諸島の1つである『アルキオネ島』の西端へ向かっていることはほぼ確実なのであるが、やはり『世界警備隊』にも自然な形で見つけさせたいと考えていたのである。
* * *
デウス・エクス・マキナ3世はいつものようにアポイントメントなしで『アヴァロン』を訪問。
「おお、マキナ殿が支援してくださると?」
「うむ。ジンからもちょっと聞いたが、『魔結晶』の流通に大きな影響がありそうだからな。放っておけないと思った」
「ありがとうございます」
マキナはトマックス・バートマンから現状を聞く。
そして即座に問題点を指摘する。
「うーむ、だとすると相手の飛行船がどのくらいの速度が出せるものかわからないのだろう?」
「それは、確かに」
「ジンの弟子が開発した航空機の量産は?」
「まだとても間に合いません」
「そうか……」
「量産試作を使うことは?」
「武装が皆無ですので……」
「使うことに問題はないんだな?」
「はい」
「なら、使うしかないだろう。戦闘を行うわけじゃないし」
「ですが……他にもいろいろと問題が」
「色ならすぐに変えられるぞ。操縦士もうちのゴーレムにやらせればいい」
「……」
トマックス・バートマンはしばらく考えた末に、OKを出した。
「わかりました、お使いください。責任は私が取ります」
「許可、ありがとう。なに、責任は俺が取るさ」
何しろ、乗るのは俺とレイだからな、とマキナは言って笑ったのだった。
「え……それは……マキナ殿!?」
「大丈夫だ。無理はしないし、少しだけ手を加えさせてもらうから。……『障壁』を張れるように、な」
「わ、わかりました」
トマックス・バートマンの許可を得たマキナは元『新技研』のメンバーに会い、『フェニーチェ』を偵察に使うという話をする。
乗るのは自分と従騎士レイだということも。
そのため、『フェニーチェ』に携わった面々からの不満は全く出なかったのである。
そこでマキナは30分ほど掛けて『フェニーチェ』に少しだけ手を加えた。
エンジンの調整、魔素変換器と魔力炉のチューニング、それに機体色を赤から濃いグレーに変更したのである。
「おお……」
「さすがマキナ殿だ……」
見学している関係者はその作業速度と正確さに驚き、感心する。
実際、マキナはこの5倍の速さで作業をすることができるのだが。
とにかく、『フェニーチェ』の改造は終了。
従騎士レイが操縦士、マキナが副操縦士として乗り込む。
操縦のノウハウは事前に『エアリア02』から『知識転写』で教わっている。
「それでは行ってくる」
「お気を付けて」
そしてマキナとレイを乗せた『フェニーチェ』は発進。
たちまちのうちに、見送る人たちの視界から消えてしまったのだった。
いつもお読みいただきありがとうございます。
20220725 修正
(誤)「はい。小型でなおおかつ、我々の知らない装備を持っているということは
(正)「はい。小型でなおかつ、我々の知らない装備を持っているということは




