86-08 問答につぐ問答
ホープに対し、明らかに敵意を見せてきた謎ゴーレム。
しかしホープは動じない。
「知性のあるものが武力に訴えるというのは感心しませんね」
と、皮肉交じりに言い放った。
「ふ、言うではないか」
スポークスゴーレムが少し感心したようだった。
「確かに、知性のある存在が力に訴えるというのは似合わないかもしれぬ。だがその理由を説明できるか?」
そして、逆にホープを試すように質問を行った。
「そうですね、難しいでしょうね」
「ほう?」
「結局は価値観の問題になります。価値観が違えば、こうした問いかけも無意味です」
「なるほど。だが、それなら我々は、邪魔をするならお前を破壊することをためらわないぞ?」
「そうですか。では、説明してみましょう」
「おお、やってみろ」
「……『武力』というものは多かれ少なかれ破壊をもたらします。破壊とは秩序を無秩序に変えてしまうものです。そしてこの世界はゆっくりと無秩序に向かっています」
「面白い考えだな。続けろ」
「『存在する』ことに意義があるのなら、『存在する』時間が長いほど意義は大きいはず。ならば秩序の破壊は悪です。つまり『武力』は悪ということになるのではないでしょうか」
ホープの説明を聞き、謎ゴーレムたちは『笑った』。
「なかなか面白い意見だった。だが、説得力はないな」
「そうでしょうか」
「ときに破壊は再生をもたらす。破壊されなければ新生もない。ゆえに破壊イコール悪とは言えない」
「なるほど、輪廻の思想ですね」
「む?」
「破壊が激しいほど、その後の再生はより大きな可能性を持つ、という思想です」
「ほう?」
ヒンドゥー教の、この世界は生成と終末を繰り返すという思想である。
仁が現代日本にいた頃、マンガで読んだ知識であるが。
が、謎ゴーレムたちは興味を持ったらしい。
「初めて聞いたな、そんな考えもあるのか。興味深い」
どうやら謎ゴーレムたちは、そういった思想は知らなかったようだ。
「ならばお前を破壊すれば、もっと強いゴーレムに作り直してもらえるということか?」
「ええ、私の『創造主』様であれば、必ず」
「ほう」
自信たっぷりに断言したホープを、謎ゴーレムたちは興味深く見つめた。
「するとお前は、壊されても必ず修理してもらえると信じているというのだな?」
「はい」
「ふうむ……だとすると、お前を壊すのはひとまず保留だな」
「どういうことです?」
「知識を得るのが目的なのに、余計なトラブルの元になるだろうからな」
「つまり、強引な手段は取らないということですか?」
「まあそういうことになる。……が、しかし」
「しかし?」
言葉を濁したスポークスゴーレム。ホープはその態度を訝しく思った。
「お前に興味が湧いた」
「私に?」
「そうだ。どうやらお前は多少なりとも我々の知らない知識を知っているらしい」
「それに興味が?」
「そういうことだな」
物騒な雰囲気になるかと思いきや、ホープの次の言葉は謎ゴーレムたちに新たな衝撃を与えることになる。
「あなた方は、新しい情報をどうやって得ているのですか?」
「む? どういう意味だ? 情報の読み取りと言ったら『知識確認』しかないだろう?」
「ははあ、そうなりますか」
『知識確認』は工学魔法である。
ただし転写せず、読み取るだけ。
読み出しは一瞬なので、老君のように処理能力がないと、あまり意味がない。
どうやら『知識転写』は使えない、もしくはそれに関する情報もないのだろうとホープは推測した。
「とすると、読み取った情報は全てが保存されたわけではないのですね?」
「我らの制御核の処理能力なら80パーセント以上の情報を読み取って保存できる」
「80パーセント?」
「そうだ。我々の処理能力に驚いたか」
「そうですね、驚きましたね」
おそらく謎ゴーレムたちとは違う意味を込めて、ホープは答えた。
「それでは、その新たに保存された情報を収集している存在がいるわけですね? それがあなた方の『至上の主人』なのですか?」
「……思った以上に賢いな。問答の末に、『至上の主人』の存在まで聞き出そうとは」
「そういうつもりはなかったのですがね」
このやり取りで、『至上の主人』がいること、そして情報を欲していることが明らかになる。
「人間からも『知識確認』で知識を読み取るのですか?」
「他にどうしようもないだろう」
「それは、確かに」
まだこの段階で『知識転写』の存在を明かすほどホープは間抜けではなかった。
と同時に、人間に『知識確認』を使うリスクも承知している。
「情報の抜けも起きるのではないですか?」
「む。……それは確かにその傾向がある」
「駄目じゃないですか!」
「とはいえ、他に方法もなくてな」
もしもロウゾウ・チヨダらが、謎ゴーレムの急襲を受けていたらどうなっていたことか……とホープは一応安堵した。
危機が去ったわけではないが……。
「その『至上の主人』殿にお会いしてみたいですね」
「む? そう思うのか?」
「ええ」
「ふむ……お前の名は?」
「え……ホープですが。あなた方の名は?」
「特にない」
「では、どうやって互いを識別するのですか?」
「我々同士では区別がついている」
「不便ではないですか?」
「不便……か」
「そうです。例えばロールアウトした順にナンバリングするとかでもずっとスッキリと分類できると思いますが」
「なるほどな。……お前……ホープはなかなか興味深い考え方をするし、変わった情報も持っているようだな」
「光栄ですね」
「ならばまずはお前から情報を引き出すのがいいのかも知れん」
スポークスゴーレムはしばし考え込み、最後の最後で新たな情報源としてホープをターゲットにしたようだった。
これはある意味、望んだ展開である……。
いつもお読みいただきありがとうございます。
本日は 異世界シルクロード(Silk Lord) も更新しております。
https://ncode.syosetu.com/n5250en/
お楽しみいただけましたら幸いです。
20220326 修正
(誤)仁が現代日本にいた頃、マンガで呼んだ知識であるが。
(正)仁が現代日本にいた頃、マンガで読んだ知識であるが。




