85-08 同行者
5月7日の朝、仁の乗る『ハリケーン』は『アヴァロン』の空港を発った。
目指すはロイザートである。
「急いで出てきたからな……」
特にゴウやルビーナがなんと思っているか、気になる仁である。
だが、老君はちゃんと手を打っていた。
『御主人様、エルザ様を通じて事情は説明してありますのでご心配なく』
「そうだったか。助かるよ」
『いえ』
とにかく、ロイザートに戻るやいなや文句や愚痴を聞かされることはなさそうだと、仁は胸を撫で下ろした。
* * *
「さて、これからどうするかな」
『御主人様、何かお悩みですか?』
『ハリケーン』内で仁が考え込んでいると、老君が気遣って声を掛けてきた。
「ああ。例の『子孫たち』について、ちょっとな」
『『仁ファミリー』の傍系子孫とそのお弟子さんたちのことですね』
「そうそう。……トモシデ・ヨダからちょっとだけ聞いたけど、彼らの師匠筋の人たちがまだどこかにいるはずなんだ」
『それは、確かに』
「今回、トモシデ・ヨダたちが危うかったからな。その師匠筋も見守らなくて大丈夫かなと思ってさ」
『仰ること、わかります』
「かといって、独立独歩の道を歩んでいる連中だからなあ」
過保護なのもいただけない、と仁は言った。
『そうですね、難しい問題です』
「だろう?」
老君もそれには同意のようだ。
だが、さすが老君、1つの妥協案を提示する。
『ここは、旅行者のふりをしてご自分の目でご覧になってはいかがでしょうか?』
「それはいいんだが……ん? もしかして老君、彼らの居場所を見つけたのか?」
『はい、御主人様。昨夜遅くに発見しました』
「そうだったのか」
報告するタイミングを見計らっていた、と老君は言った。
『御主人様がお喜びになるかどうかわかりませんでしたので』
余計なことをするなと言われたらどうしようと思った、と老君。
「そうか、気を使わせたな」
『いえ』
「……で、場所は?」
『はい、セルロア王国の最東端と言ってもいい場所です』
「ウラウの町よりまだ東か」
『はい』
「トモシデ・ヨダたちはそこから西へ行ったわけか」
『そうなります』
「うーん……」
仁はセルロア王国の地図を見つめ、唸った。
「……そんなところへ行く物好きなんてほとんどいないだろう?」
『それはそうですが、一部の学者でしたら』
「例えば?」
『地質学者や考古学者、民俗学者ですね』
「……それに近いというとサキとグースか」
『そうなりますね』
つまり、サキとグースが『調査』という名目でその辺を訪れるならそれほど常軌を逸した行為ではないというわけである。
「それに同行する友人、あるいは学生ということにすればいいわけか」
『はい。……その線で訪問なさるのがよろしいのではないでしょうか』
多少無理矢理ではあるものの、悪くない理由づけだと仁も納得できた。
「よし。……まずはサキとグースに聞いてみよう。2人は今、どこにいる?」
『はい、御主人様。蓬莱島でデータを纏めていらっしゃいます』
「それは都合がいいな」
ちょうどマリッカの誕生日で蓬莱島に戻ったので、この機会に溜まっているデータ類を整理しているらしい。
なので仁は『ハリケーン』の転移門を使って蓬莱島へ転移し、そのまま資料室へと向かった。
「おーい、サキ、グース」
「おや、ジンじゃないか」
「戻っていたのかい?」
「いや、2人に相談があってな」
「へえ? なんだい?」
「仁からの相談か。面白そうだな」
ということで、お茶を飲みながら仁は2人に説明をした。
「ふうん、『仁ファミリー』の子孫か……」
グースが興味深そうに言った。
「どうやら血縁者はもういないらしいんだけどな。それでも技術を受け継いで伝えている人たちがいるらしい」
「その様子を見に行きたいわけか」
「くふ、なるほど。実際に会って話をしてみようというんだね」
グースとサキは仁の意図を理解してくれたようだ。
「もちろんいいとも。そのあたりは行ったことがなかったしな」
「くふ、地質調査というのもいいだろうね」
「それはよかった」
そんな打ち合わせをした後、仁は『ハリケーン』に戻る。
そろそろロイザートに着く頃だからだ。
* * *
「おかえりなさい、ジン兄」
「おかえりなさいませ、ジン様」
「ジン様、おかえりなさい!」
エルザ、ダイキ、ゴウが出迎えてくれた。
聞けば、ココナとルビーナ、アマンダ、メルツェは町へ買い物に出ているという。
それも、仁の好物を買いに、ということらしい。
ありがたいなと思った仁であった。
* * *
そして昼過ぎ、帰ってきた4人を加え、全員揃ってのティータイム。
「ジン様、早かったのね!」
「夕方かと思いました……」
「これでも急いで帰ってきたんですけど」
「お出迎えできず、失礼しました」
「いやいや、気にしなくていいよ」
煎茶を飲みながら仁が柔らかな声で言った。
「何時に着く、ってはっきり言わなかったからな」
「……『ハリケーン』の速度を舐めてたわ……」
「はは、そりゃ光栄だな」
そんな他愛もない話の後、仁は今回の騒動について説明した。
メルツェにも聞かせて問題ないレベルで、だ。
「そんな事件が起きていたんですね」
「ファミリーの子孫……他人事ではないですね」
「でもまあ、血縁ではないのが救いかな?」
「それでもやっぱり、技術の成果が人を害するのは嫌ですね」
そんなゴウの意見に、仁は頷く。
「そうだな。その気持を忘れるなよ」
「はい!」
「話は変わるが……」
そして仁は、セルロア王国東部行きを告げる。
「そこにも、もしかしたら、技術を伝承している人たちがいるんですか?」
「かも、だけどな。友人のサキとグースも一緒に行くんだ。どうだ、行ってみるか?」
「はい!」
「ルビーナは?」
「もちろん行くわよ!」
「よし。メルツェも行くよな?」
「連れて行っていただけますか?」
「もちろんだ。見聞を広げるいい機会だ」
「……よろしくお願いします」
こうしてセルロア王国東部地方行きが決まったのであった。
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