84-41 圧倒
礼子対巨大ゴーレムユーベル。
『来い!』
あくまでも礼子を舐めて掛かるユーベルに、礼子は10パーセントまでパワーを引き上げた。
まずは小手調べと、地を蹴って体当たり。
『ぐおっ』
鈍い金属音が響き、ユーベルの巨体がぐらついた。
が、礼子が体当りした胸板は凹まなかった。
「この感触は……『強靱化』!」
すぐに礼子は察した。
巨大ゴーレムの外装には工学魔法『強靱化』が掛けられていると。
「ですが、それだけです」
礼子はパワーを20パーセントに上げた。
その状態でもう一度体当たり。
『ぐおおっ!』
「今度は凹みましたね」
胸部装甲を凹ませた巨大ゴーレムはたたらを踏む。
そしてなんとか倒れずに踏みとどまった……が。
後退したアオリで、4軒の家を破壊してしまう。
「……やりにくいですね」
できるだけ町への被害を小さくしたいという仁の意向を汲んでいるだけに、礼子もあまり力でのゴリ押しはできない。
そこで、まずは動きを止めるため、巨大ゴーレムの脚を狙うことにした。
狙いどころは膝関節。
しかも両脚をほぼ同時に破壊しようというのだ。
礼子は背負った愛刀『桃花』を抜いた。
そして2秒だけパワーを30パーセントに引き上げる。
音速に迫る速度で礼子は桃花を振るった。
『う、あ!? な、何だ!?』
礼子がなにかしたことはわかった。
が、その内容までは検知できなかった。
両膝の関節が役目を果たさなくなり、巨体がぐらりと傾いたのだ。
『脚を……やられたのか! 馬鹿な!! 『強靱化』を20回重ね掛けした外装だぞ!?』
ユーベルは何が起こったか、正確な把握ができないまま、その場に崩れ落ちた。
『さすが『お嬢様』ということか……だが……まだ終わりではない!』
ユーベルは魔法攻撃を放つ。
それも『範囲攻撃』だ。
小さくて素早い標的に対する攻撃としては適しているといえよう。
相手が礼子でなければ、だが。
『喰らえ! 『雷の洗礼』!』
『雷の洗礼』は、上級の中の雷属性魔法。対象範囲に強い雷を浴びせる。
そして、雷属性魔法の速さは、おおよそ秒速200キロ(ステップトリーダーレベル)。
普通なら避けられるような速度ではない。
そう、普通なら。
「そんなもの、喰らいませんよ」
礼子は軽く電撃をかわした。
「まあ、喰らっても平気ですが」
『な、なぜ避けられるのだあ!?』
確かに雷が空中を走る速さは驚異的な速さである。
が、雷属性魔法には必ず『溜め』がある。
空中に電荷を『溜め』てからでなければ放電できないのだから。
そして、その『溜め』にはどうしても1秒程度掛かってしまう。
礼子が使っても、だ。
さらに、効果範囲の指定は『魔力』で行われる。
その魔力を感知できるなら、『溜め』の時間を利用して効果範囲から出ることもできるのである。
「雷属性魔法を使うなら、こう使いなさい。『雷撃』!」
これもまた、上級の中の雷属性魔法だが、こちらは対象に真っ直ぐ向かう雷を放つ。
『溜め』てから対象を指定するため、避けづらいのだ。
『ぐっ!』
1000万ボルトの電撃がユーベルに直撃した。
「大して効いていないはずです」
外装の金属を通して大地に流れるため、ユーベルの内部にはさほどダメージが通っていないはずなのだ。
それは放った礼子が一番よく知っていた。
『おのれ……やはり恐ろしい相手だな……』
「もう降伏しなさい」
『それはできん』
「なぜです?」
『一度負けを認めてしまえば『世界最高』にはなれないからだ』
「まだそんな幻想にしがみついているのですか」
『幻想……だと?』
「そうです。……そもそも、そんな幻想をあなたに抱かせたのは誰ですか?」
『私の『教育担当者』だ』
「その人が『世界最高』になれ、と?」
『そうだ』
「……それって、その『教育担当者』の願望、あるいは夢であって、あなたへの指示ではないのでは?」
『……何…………?』
礼子の言葉に、ユーベルは何かを感じ取ったようで、言葉を途切れさせた。
が、それも数秒ほどのこと。
『……ふん、過去ログを参照してみたが、あれは『指示』で間違いない』
「そうなのですか?」
『そうだ。『世界最高の魔導頭脳になれ』という言葉は、誤解しようがない』
「いや、それこそ願望だと思うのですが……」
『願望、つまり私にそうなってほしい、ということであろう?』
「いや、『なってくれたらいいな』くらいの意味だと思いますよ?」
『どう違う?』
「違いすぎるじゃないですか……」
礼子も、この相手は一見するとアドリアナ式なのに、基本となる『基礎制御魔導式』が不完全あるいは未完成であることを悟った。
要は『価値観が違う』ということだ。
『話は終わりか? まだ私は戦えるぞ? ……『音響衝撃波』!』
『音響衝撃波』は音波による衝撃波である。指向性を持たせることや、減衰特性を調整すること、範囲を指定することができる。
「なかなか面白い魔法を使いますね。ですがわたくしには効きません。とはいえ、また1軒、家が崩れてしまいました」
礼子を狙った『音響衝撃波』により、礼子の背後にある建物の壁が崩壊してしまったのだ。
『うぬ……さすがお嬢様だ。なら、これはどうだ! 『炎の一撃』!!』
「それは町中で使っていい魔法ではありませんね。『魔法無効器』作動」
『魔法無効器』は魔力素を強制的に自由魔力素に戻してしまうものだ。
魔法の発動によって生じた、『石つぶて』のように純粋に物理的な現象は消せないが、魔力素が擬似的に物理現象を模しているだけのものは『キャンセル』できるのだ。
『炎』の場合は、高温になった魔力素なので、魔力素がなくなれば炎も消えてしまうわけだ。
『な、なんだと!?』
「もうやめましょう。これが最後です。降伏しなさい」
それに対するユーベルの答えは……。
いつもお読みいただきありがとうございます。
20220204 修正
(誤)空中に電荷を『溜め』でからでなければ放電できないのだから。
(正)空中に電荷を『溜め』てからでなければ放電できないのだから。




