84-19 懸念
ショウロ皇国で使われているゴーレム侍女について、ゴウが感想を述べていく。
「構成は『簡易アドリアナ型』ですね。人間に近い動作ができ、作りやすく、丈夫です」
「うん、それで?」
「筋肉系はメンテナンスが楽な、金属系でした。ここまでは量産型の特徴だと思います」
「続けてくれ」
「……それに反して、制御核の出来はレベルが違いました」
ゴウの修理したゴーレム侍女は制御核が魔法ノイズで損傷していたので、ゴウとしても詳細な解析をしていたのである。
「うん、それは?」
「まず、書き込みの密度が違いました。次に構文の効率が非常によく、全体的に見て繊細です。ゆえに魔法によるノイズで損傷したものと思っています」
「なるほどな。おそらく、その見立ては正しい。よく調べたな、ゴウ」
「ありがとうございます!」
仁に褒められ、ゴウは微笑んだ。
「それじゃあ次はルビーナだ」
「はい。……ゴウは言わなかったけど、骨格はニッケル鋼。ジン様がこういう時によく使う5半ニッケル鋼じゃないけど」
ニッケルを鋼に添加すると、靭性が増し、特に低温下での性能が向上する(もちろん常温での性能も向上する)。
ここアルスでは、クロムよりもニッケルの方が手に入りやすく、従って利用頻度も高くなっていた。
ちなみに、今現在の主なニッケル鉱石は『紅砒ニッケル鉱』である。つまりヒ素とニッケルを含んでいるわけだ。
さらにいえば、ヒ素は殺鼠剤に使われているが、猛毒なのでご禁制にしようという動きもある。
「ニッケルの含有量は3パーセントくらい。少し少ないけど、これでも十分鋼材の性能アップには寄与しているみたい」
「そうだろうな。靭性と耐摩耗性が向上しているはずだ」
「外装も同じ。で、関節部には何もコーティングされていなかったわ」
「ふむ、あとはないか?」
「もう1つ気が付いたのは、足の裏の構造ね」
「ほう?」
「衝撃を吸収する構造になっていたわ。あれって、歩く時に音を立てないようにとか、運んでいるものをこぼさないようにとか、そういう配慮でしょ?」
「そうだな。ルビーナの判断は正しいと思うぞ。よく見ていたな」
「えへえ、ありがとうございます!」
ルビーナもまた、仁に褒められて満面の笑みを浮かべたのであった。
「ところで、他はないのか? メルツェも含めて」
「他って?」
「なんですか?」
「……」
その答えに、仁は小さくため息を吐いた。
「いや、同年代の友達とかな……」
「いませんね……」
「いなかったわ……」
「いませんでした……」
「そ、そうか」
2人によると、誰も彼も幼稚過ぎて話が合わないということであった。
(うーん、ゴウとルビーナは英才教育というか純粋培養されたというか、『普通』の同年代と遊んだことがなさそうだし、メルツェはそんな2人と付き合いが長くなったしな……)
無理もないか、と内心でため息を吐いた仁であった。
が、そんな席へやって来た者がいた。
「ジン殿、よろしいかな?」
ちなみに、『ニドー卿』と呼ぶとダイキのことになるのでこう呼ばれるのだ。
「あ、ドメール殿」
そして、仁に声を掛けたのはショウロ皇国総務相、シュロトゲン・ドメール・フォン・カバスタン。見かけは平凡だがやり手だ、という印象を仁は抱いている。
「ご無沙汰しておりますな」
「こちらこそ。……ゴウ、ルビーナ、メルツェ。こちらはショウロ皇国総務相、シュロトゲン・ドメール・フォン・カバスタン殿だ」
エルザは、トロム鉱山で落盤事故があった際に救援に駆けつけているため面識がある。ダイキとココナは言わずもがな。
が、子供たち3人は、顔を見たことはあるかもしれないが、面と向かって話をしたことはなかった。
「ゴウ殿、ルビーナ嬢、本日は、当方のゴーレムを修理してくださり、まことにかたじけない」
「あ、いえ、僕たちは別に……」
「……大騒ぎになる前に直してしまおうと思いまして」
「いやいや、なかなかの手際。我々の技術者でもああはいきませんな」
「……あれはいったい、何だったのですか?」
仁が事件について尋ねた。
「端的に言えば、酔っぱらい同士の喧嘩です。たまたま仲の悪い者同士が顔を合わせまして……」
「なるほど」
花見の酔っぱらい客のようなものか、と仁は察した。
どこの国にも、只酒だと思うと飲めるだけ飲んでやれという意地汚い輩がいるものだなあ……とも。
「庭園が傷んだりしませんでしたか?」
「そこは、侍女ゴーレムたちが身を挺して守ってくれましたので」
「そうですか」
「なにしろここは、『大明慈母皇帝』陛下が愛された庭園ですから」
「……そうですね」
後の人たちも、ここを愛してくれているのだなあと、仁は心が温かくなった。
なので、
「後でゴーレムたちを見させていただきましょう。守ってくれた彼らを元どおり、いや、よりよい状態に整備してやらないと」
と宣言したのだった。
もちろん総務相は大喜び。
「おお、ありがとうございます! 是非、よろしくお願い致します」
そして総務相シュロトゲン・ドメールは立ち去っていった。
ちなみに、酔っ払って喧嘩をした2名はお家取り潰しくらいの罰が与えられるはずだが、子供たちの前なのでそれを言うのは控えた総務相である。
「ジン様、この後、ゴーレムを直すの?」
「ああ。……ちょっと気になることもあるしな」
ルビーナの質問に、難しい顔で答える仁。
「気になること?」
「そうだ。……ゴウが言っていたろう? 『制御核の出来が違う』って」
「あ、はい」
「ということはだ。多分、制御核を作ったのは、ゴーレムを作った人とは別人だと思う」
「あ、確かに」
「そこがちょっと気になってな。整備のついでに、確認させてもらおうと思ってさ」
ここでエルザが質問。
「ジン兄なら、そんな回りくどいことをしなくても、調べさせてくれるんじゃ?」
「まあそうだろうけど、確証のないことを確認するために申し入れるというのもちょっとな……」
「……ひょっとして、何か危険があると、思ってる?」
「うん。……とは言っても、直接の危険じゃない。ショウロ皇国のゴーレムに危うさを感じている、と言えばいいかな……」
その表現で、その場にいた者たちにはなんとなく理解できたようだった。
それからは難しい話をすることもなく、春の園遊会を心ゆくまで楽しんだ仁たちであった。
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