84-11 閑話141 東の辺境にて
こちらではあけましておめでとうございます。
本年もよろしくお願い致します。
『2』代目魔法工学師、二堂仁が没した後のこと。
大陸暦3748年、ゴルバート・マルキタスは懐古党を二分して『魔法連盟』を創設した。
そして優秀な魔法技術者と……蓬莱島=仁の関係した諸々を執拗に狙い始めたのである。
大陸暦3763年、ゴルバート・マルキタスは魔力模倣機を完成させる。
それを使って仁の魔力パターンを再現し、第5列のメルダとリリを捕縛。解析し、蓬莱島のポジションを知った。
大陸暦3764年、マルキタスは蓬莱島を手に入れんと手を打ってきた。迫りくる危機を察した蓬莱島の魔導頭脳老君は、まずアキツを大サハラ沙漠地下へと避難させた。
マルキタスに捕らえられ、利用されるのを防ぐためである。
大陸暦3765年、老君は礼子の退避用のカプセルを準備。また、仁ファミリーの子孫をオノゴロ島に避難させた。
そして蓬莱島は封印される……。
* * *
だが、あえてオノゴロ島に避難しなかった一派がいた。
彼らは自らの力でマルキタスの干渉を退けると主張し、庇護されるのを拒んだのだ。
老君は、そんな彼らも守ろうとしたのではあるが、蓬莱島を封印したため、それも叶わなくなってしまった。
そんな彼らは、唯我独尊、己の道を歩いていった……ようだ。
* * *
彼らの『初代』の名前は伝わってはいない。
『初代』は仲間であり家族である5人とともにセルロア王国東部へと移り住んだ。
『リーバス地方』と呼ばれる山地、その東の外れ。
最東端の村『クェント』の少し北。
南西に向かって開けた谷筋で、縮尺の小さい(広域を表した)地図では描かれていない小さな沢のある場所。
水の便がよく、北側が山なので寒風が遮られる、そんな土地に彼らは居を構えた。
家の建築は、同行させたゴーレムが行ってくれた。彼らは蓬莱島仕様に近いゴーレムだったので全く問題はなかった。
そしてマルキタスに探知されないよう、『魔法障壁』も展開した。
食料は自給自足。これもゴーレムがやってくれた。
とはいえ、調味料や一部の生活必需品は買い出しに行かねばならなかったが。
そうした『遠征』は、スペックを落としたゴーレムに任せた。
わざわざスペックを落としたのは、目立たないように、である。
蓬莱島仕様に準じた(同じではない)スペックではこんな辺境では目立ちすぎるからだ。
幸い、お金は潤沢に持ってきたので、辺境であるがゆえに割高な品々も問題なく購入できている。
とはいえ、使っていればいつかはなくなるわけで、それを避けるため5人は細々とではあるが技術を売ることにした。
「ジン様がカイナ村でやっていたように、我々もクェント村に少し貢献しようではないか」
「それはいいな」
「賛成だ」
5人の意見は一致し、魔法工学を駆使し、少しだけクェント村を援助し始めた。
荒れた山道を整備し、砕石を固めた『マカダム舗装』にした。
崖崩れの起きやすい場所の岩を『接着』や『融合』を使い、固定した。
『掘削』を使い、溜池を掘って水の確保をした。
家々の補修をし、大風に耐えられるようにした。
「おお、ありがとうございます!」
感謝してくれる村人。
代わりに彼らは自分たちのことを他所に言いふらさないよう頼んだ。
その約束は100年以上守られた。
彼らは自ら『魔法探求者』と称していた。
* * *
そして大陸暦3900年。
『魔法探求者』の指導者は1名、高弟は3名、一般の弟子は7名いた。
残念ながら、現在の指導者の血筋には『仁ファミリー』の関係者の子孫はいなくなっていたが。
長い年月の間に途絶えてしまったのである。
だがそれでも、初代の思想は連綿と受け継がれていた。
『人々のために』
『平和のために』
この2つである。
難しい言葉を使わず、あえて平易な言葉で表現した理念は、クェント村の村民に受け入れられ、村出身の弟子も多くいた。
まあ、多いといってもこれまでに5人いたという程度であるが。
それ以外の弟子は噂を聞いてはるばるやって来た者たちばかり。
『魔法探求者』は『来る者は拒まず、去る者は追わず』をモットーに活動を続けていた。
* * *
大陸暦3902年。
『魔法連盟』が瓦解し、魔法技術者に対する迫害や攻撃がなくなって2年近く。
辺境のこの地にも、その噂は届いていた。
「世の中が正常になったようですね、師匠」
「うむ」
高弟の1人が指導者である『ロウゾウ・チヨダ』に話し掛けた。
「伝え聞くところによると、『3代目魔法工学師』が『魔法連盟』をどうにかしたらしいですが」
「さすが、というしかないな」
「ですね」
また別の高弟もロウゾウ・チヨダに尋ねる。
「師匠、我々はここにいていいのでしょうか?」
「どういう意味だ?」
「はい。……受け継ぎ、高めた技術を魔法工学師にお伝えしなくていいのかな、と思いまして」
だが、その質問に、指導者ロウゾウ・チヨダは首を横に振った。
「ふむ。……必要なかろう」
「そうでしょうか?」
「我らが『2代目』の子孫たちと袂を分かって久しい。もはや血も繋がっていない。我らは我らだ」
「わかりました」
「ですが」
「どうした?」
「……10年前に別れた同志たちのことが少し気がかりなのです」
「奴らか……」
『魔法探求者』も一枚岩ではなかった。
10年前……大陸暦3892年、まだ仁がこちらの時代に再び現れる前のこと。
高弟2人が、ロウゾウ・チヨダの方針に反対し、出ていってしまったのだ。
『ただ守るだけでは平和はこない』と言って。
1人は次の指導者とみなされていただけに、『魔法探求者』の痛手は小さくはなかった。
「今頃、どこでどうしているやら」
「言うな」
「……はい」
見上げた空は青くどこまでも続いており、ロウゾウは、出ていった2人もどこかで同じ空を見上げているだろうかと思っていた。
いつもお読みいただきありがとうございます。
20220317 修正
(誤)閑話140 東の辺境にて
(正)閑話141 東の辺境にて




