84-09 閑話140 フィリシャスの想い
『魔導大戦』の最中、『諧謔』のフィリシャスは悩んでいた。
たった一人の肉親であり、最愛の妹、デルフィナ。
そんな彼女がおかしくなった。
そして、おそらくはそれと同じことが、同胞たちにも起こっていたのだ。
「ローレン人との戦争など……馬鹿げているのに」
恨みは恨みを呼び、憎しみは憎しみを生む。
そして果てしない殲滅戦へと両種族を駆り立てるのだ。
この戦いを見て、フィリシャスはそう分析していた。
「そして、それは仕組まれた争いだ」
フィリシャスは『隠れ家』や『秘密基地』を作ると共に、ゴンドア大陸西側の鉱山も調査していた。
もちろん個人での作業なので小規模ではあるが、幾つかの有望な鉱山を発見していたのである。
「こうした資源と引き換えに食料を買えるのに……」
『奪う』ことしか考えていない今の同胞は、どう考えても正気ではなかった。
そこで、数名を選んで密かに『異物検出』の魔導具を使用してみたところ、デルフィナと同様、脳に異物があることがわかる。
「これはもう、間違いないな。……脳の異物が狂気の原因だ」
そして推測ではあるが、その異物は被害者を操るものらしい。
「……くそ」
おそらく自分が『福音』の氏族領に行っている時に、デルフィナがやられたのだろうと思うと、やるせない思いに駆られるフィリシャスであった。
だが、今の自分には何もできそうもなく、その無力さに悲しくなる。
その異物を安全に取り出すことさえ、できそうにないからだ。
「いつか、解放してやるからな……」
そう心に誓ったフィリシャスであったが……。
『魔素暴走』が起こったのである。
範囲内の空間に存在する自由魔力素を光に変えてしまうこの現象は、ローレン人とゴンドア人の大半を巻き込み、帰らぬ人としてしまったのである。
その中にはデルフィナも含まれていた。
そして、フィリシャスも……。
* * *
《……俺は……》
『魔導大戦』終結から10年後、地下にある『秘密基地』で1つの意識が目覚めた。
それは精巧な魔導頭脳である。
そこに存在する人格の名は『フィリシャス』といった。
彼は、自分が襲われた時のことを考え、人格データを魔導頭脳に託していたのであった。
ただし、魔導頭脳としての判断が論理的であるよう、感情や自己保存本能などに制限が掛かってはいたが。
《……今は何年だ……? 時計も一時的に止まっていたようで、わからないな……》
『魔素暴走』により、魔力で動いている時計も一時的に停止していたために、正確な年月日がわからなくなってしまっていたのである。
《……急激な自由魔力素濃度の低下が起こったらしいな。予想していたとおりだ》
フィリシャスはそうした兵器が開発されることを恐れていたのだが、現実にそれは大勢の命を奪ったようである。
《想像……漠然と予想はしていたが、止めようがなかった。それが残念だ》
魔導頭脳は、まず情報を集めることにした。
幸い、直属の配下のゴーレム10体は問題なく起動した。
が、同胞の様子を見るために各地に放った偵察用のゴーレムは1体も反応がなく、魔導頭脳はそれらは全てロストしたものと判断した。
《仕方ない。今の私には時間がたっぷりある。焦らず慎重にやろう》
自分のボディ、そしてデルフィナのボディを作って自動人形となることも考えたが、納得の行く出来のものを作ることは出来ないだろうと保留にした。
《……『魔法工学師』並みの技術があればよかったのだが……》
だがそれは望んでも叶わぬこと。
魔導頭脳は、もし将来、そうした技術者が現れたなら……と、未来に一縷の望みを託し、デルフィナのデータを厳重に保管、管理することにした。
まず人格・知識データを5つに分割して魔結晶に保存し、5体のゴーレムに保管させた。
また、容姿のデータをそのうちの1体に保存する。
配下のゴーレムは10体いたので、残る5体にもバックアップとして同じデータを保管させる。
《これでよし。このデータを再結合して展開できるなら、少なくとも私やデルフィナ以上の技術を持っているといえるだろう》
さらに10体のゴーレムに、パスワードと解除キーの設定も行っていく。
その解除キーは、ゴーレムとは無関係の『隠れ家』に設定しておく。
人間だった時に建造し、作りかけのまま放置してしまった施設だ。
もう今の魔導頭脳には必要のない『隠れ家』。それを再利用することにしたのである。
《これらの設定を全てクリアできた者がいるなら……その人物に賭けてみるしかない》
魔導頭脳は、いつか……未来に現れるその『誰か』に賭けることにしたのであった。
* * *
いつか現れる『かもしれない』誰か。
そんな不確定な未来にのみ、頼るつもりはない魔導頭脳は、もう1つの方法も試してみることにした。
それは、『自分をより高める』ことである。
魔導頭脳には、生物と比べたら無限にも等しい時間がある。
その時間を使って、『工学魔法』の技術を高めていき、いつか『魔法工学師』に比肩する……いや、超える技術を身につけることを目標とし、魔導頭脳は日々を過ごし始めた。
魔導頭脳であるから疲れることはない。
昼も夜もなく、何時間、何日、何ヵ月、何年もぶっ通しで研究を続けることができる。
その過程で判明した有用な情報は適宜記録媒体である魔結晶に保存していった。
* * *
研究の過程で、魔導頭脳は幾つかのゴーレム、自動人形を製作していった。
大半は不満足な出来故にリサイクルされたが、幾つかは使いみちがあるかもしれないということで保存された。
《こんな出来でも、デルフィナを守ることくらいはできるだろう》
3体の巨大ゴーレムはそのまま残すことにした。
《こいつらもまずまずの出来だ、ここに残しておこう》
技術系のゴーレム20体は、施設の維持管理のため残しておくことに決めた。
《あとは、私の代わりにここを監督するゴーレムを作っておくか》
魔導頭脳はそのとおりにした。
自分が操縦できるが、基本的には自律性を持つ管理ゴーレムである。
《よし、お前の名前は『フィル』だ》
「はい、私は『フィル』です」
《いいか、万が一、『デルフィナ』の頭脳を持つゴーレムか自動人形がここに来たら、この施設のすべてを委ねようと思う》
「はい」
《その日が来るといいな……》
魔導頭脳は施設の最下層にあって、いつになるかわからない、妹との再会を夢見続けた。
調査隊がこの地、『ガスマダ島』を訪れたのはそれからおよそ100年後である……。
いつもお読みいただきありがとうございます。
本日は 異世界シルクロード(Silk Lord) も更新しております。
https://ncode.syosetu.com/n5250en/
お楽しみいただけましたら幸いです。
20220317 修正
(誤)閑話139 フィリシャスの想い
(正)閑話140 フィリシャスの想い




