84-08 視察
4月11日、仁、礼子、グース、ロードトス、桃子、マリッカ、花子、そしてフィリシャスとデルフィナらは『ガスマダ島』の施設を調査していた。
グースは、以前の約束どおり仁が呼んだのである。
予定では2日後の13日に『世界警備隊』から数名が視察にやって来ることになっているので、それまでの間、見て回ろうというのだ。
グースは、管理ゴーレム『フィル』にいろいろ質問をしている。
「……ふんふん、そうか、やはり当時のローレン人は、1つにまとまったといっても派閥があったんだな……」
ノルド側から見た感想というのは貴重である。
『おそらくは、ですが。フィリシャス様は当事者ではなく傍観者でしたから』
「まあそうだよな。でも貴重な情報をたくさん持っているだろう? もっと聞かせてくれ」
他の面々も、それぞれに施設内を見て回っていた。
* * *
仁はフィリシャスと一緒に巨大ゴーレムを見て回っている。
「『魔法工学師』に見ていただくには恥ずかしい出来なんですが」
と謙遜するフィリシャスだったが、仁はそうは思わなかった。
「いや、いいバランスだと思う。この大きさでパワーと速度、それに精密動作性をバランスよく成立させているものな」
「見ただけでわかるのですか……」
「大体のところはな。……『分析』を掛けてみていいか?」
「どうぞどうぞ。そして忌憚なきご意見をお聞かせください」
「わかった。……『分析』『分析』『分析』」
「え……」
フィリシャスは驚愕した。
というのも、仁は3体ある巨大ゴーレムに1体ずつ3回、連続で分析を掛けていたからだ。
普通なら1体ずつ時間を掛けて調べていくはずなのに、仁は……というわけである。
「材質は軽銀か。全体的に軽量化をしているな」
「ええ。そうしないと慣性が大きく、機敏な動作ができそうもないからです」
「だろうな。だが、相当の強化を行っていて、軽量なのに丈夫だ」
「そこまでわかるのですか……それは当時絶対機密の技術だったのです」
「そうだろうな」
普通の金属を超金属に変えてしまう技術。
それは戦争のあり方にも大きな影響を与えるであろうことは想像に難くない。
フィリシャスとしては秘匿しておきたい技術なのだろう。
「金属原子の結晶構造の隙間を魔力素で埋め、不活性化を掛けるという技術だろう?」
「は、はい」
「実は、同じ方法をローレン人側も行っていたよ」
「なんですって?」
仁は、セルロア王国で見つかった『移動基地』について説明した。
そこで使われている鋼鉄が、ほとんど同じ技術で強化されていることも。
「何と、そうだったのですか……」
「敵味方で同じ頃に同じような技術が開発されたものだな」
「そうですね……」
* * *
また、ロードトス、マリッカ、デルフィナは3人一緒に施設内を見回っている。
案内は『魔導頭脳イーゼル』である。
『デルフィナ様、次はどちらをご案内いたしましょうか』
「ええと……マリッカ様、どこがいいでしょう?」
「そうね、技術系ゴーレムを見せてほしいですね」
「……ということです」
『わかりました』
こんな感じでマリッカの希望をデルフィナが伝え、『イーゼル』がそれを叶える、といった塩梅である。
* * *
そんなこんなで半日が過ぎ、昼食を摂ってからも見て回る仁たちである。
が、午後は組み合わせが違っていて、仁はロードトス、マリッカと。グースはフィリシャス、デルフィナと。
そんな2組に分かれて施設内を見学していた。
「マリッカ、巨大ゴーレムの筋肉組織を見たか?」
「あ、はい、ジンしゃま」
「興味深かったろう? ロードトスはどう思った?」
「そうですね、こういう方法もあるのかと、感心させられました」
「だよなあ」
フィリシャスのゴーレムに使われていたのは、『チューブ式流体変形式動力』とでもいうべきもの。
丈夫な材質でできたチューブに流体変形式動力用の軟質魔導樹脂を詰めておく。
この『人工魔導筋肉』は長さ方向の伸縮だけではなく、太さ方向にも伸縮が可能である。
縮む際には太さが増すように変形することで、より素早い動作を可能にしている。
「ただ、パワーが今一つのはずだけどな」
「そう……ですね」
蓬莱島標準の『魔法筋肉』の3分の2くらいしかパワーが出せない。
これは『チューブ』の変形にパワーを取られてしまうからである。
とはいえ、技術系ゴーレムとしてみたら、十分なパワーであるが。
* * *
グースとデルフィナはフィリシャスに質問しながら施設内を巡っていた。
「こっちが動力室か」
「はい。『魔素暴走』で自由魔力素濃度が低下しましたが、なんとか適応できました」
「なるほど」
「兄さん、資料室みたいな場所はないの?」
「ないんだよ。済まん」
「うーん、残念ね……」
デルフィナとしては『魔導大戦』当時に使われていた技術を確認してみたかったのである。
グースもまた、当時開発された技術がどのくらいあるのか興味があったのである。
彼の考えだと、その時に使われた技術の中には、今の時代にも残っているものがあるかもしれないからだ。
あるいは少し形を変えて受け継がれてきた……というものもあるかもしれず、それにも興味があったのである。
* * *
夜。
仁たちは管理棟にいた。
「お疲れ様」
「いや、楽しかった。いろいろ勉強になったよ」
グースは上機嫌だった。
久しぶりに、アルスで過去の施設を実際に観察できたのだから。
そしてフィリシャスとデルフィナも、
「兄さんとこうして面と向かって話せるなんて、夢みたい」
「僕もさ。今日も1日、楽しかったよ」
新たな身体を得たこと、そして兄妹が再会できたことを実感していた。
「明日は、フィリシャスはノルド連邦へ行くんだろう?」
「ええ、マリッカ様の工房にお世話になる予定です」
「そっか」
しかしそのマリッカは、
「……フィリシャスさん、デルフィナさんもだけど、『様』はやめてください……面映ゆいです……」
「しかし……」
「お願いですから」
「ええと……それじゃあマリッカさん、ということで」
「そうしてください……」
などと『様』付けを拒み、なんとか『さん』で呼んでもらうことになったのであった。
いつもお読みいただきありがとうございます。
20211224 修正
(誤)グースもまた、当時開発された技術がどのくらいあるのか興味があたのである。
(正)グースもまた、当時開発された技術がどのくらいあるのか興味があったのである。




