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マギクラフト・マイスター  作者: 秋ぎつね
81 新技術開発篇
3064/4343

81-05 ショットピーニング

 アーノルトの説明は続く。


「『魔導樹脂(マギレジン)』で魔結晶(マギクリスタル)の欠片を包み込み、全体に『変形(フォーミング)』を掛けて形を整える、このとき、加える魔力を意識的に多めにするんです」

「それはなぜですか?」


 グローマ・トレーが質問を挟んだ。


「『変形(フォーミング)』の余剰魔力によって魔結晶(マギクリスタル)の欠片それぞれが一定の方向に向くのです」

「それって、結晶構造が揃うことに似ていますね」

「そうです。それを意図しています」


 つまるところ、劣化版『結晶化(クリスタリゼーション)』といえようか。

 魔導樹脂(マギレジン)の中で魔結晶(マギクリスタル)の欠片の向きを揃えることで擬似的な結晶化をする、というわけだ。

 『結晶化(クリスタリゼーション)』を使えない現場において、それに近い効果を狙ったということになる。

 当然、同じ属性の欠片を使うことが望ましい。

 もちろん劣化版なので、本物の『結晶化(クリスタリゼーション)』よりは大分効果は劣る。

 だが単に『融合(フュージョン)』を使うよりも数倍の効率アップが見込めるのだ。


「そうやって固めた『魔結晶(マギクリスタル)入り魔導樹脂(マギレジン)』は、中に混ぜられた魔結晶(マギクリスタル)の品質に比例したグレードになるんです」


 おおよそ、内包する魔結晶(マギクリスタル)の2ランク落ちくらいのグレードになるという。


「それは素敵ですね!」


 その効果に食いついたのはやはりカチェアだった。


「当時がどうだったかはわかりませんが、今でなら100万トールくらいする魔結晶(マギクリスタル)をその10分の1の費用で作れるということになります」

「そのくらいになるんだね。……まあ、大きさがかなり大きくなるけどね」

「それでもこれはすごい技術です!」

「欠点もあるよ? 包んでいるのは『魔導樹脂(マギレジン)』だから熱に弱いし」

「そこは使い方次第ですね」


 こうして、戦時中に開発された技術を現代に応用するという、有意義な伝授がなされたのであった。


「アーノルトさん、もうありませんか?」


 あくまでもコストダウンに貪欲なカチェア。


「そうだなあ……ああ、金属素材の強化法はどうだろう?」

「うん、聞いてみたいな」


 これには仁も乗り気である。

 アーノルトが知っているなら、ありきたりな方法ではないだろうと期待した。


「金属に限らないけれど、分子構造を強化すれば丈夫になるわけです。その強化方法は幾つかあるわけですが、戦時中に開発された方法が1つあるんですよ」

「うん」

「一般的な金属が『加工硬化』を起こすことは知られています。それを人為的に、金属全体に、しかも均一に行うのです。もっとも、鎧とかゴーレムの外装のようなものにしか使えませんが」

「それは?」

「完成した製品に、あらかじめ用意したアダマンタイトの小さな球をぶつけるんです。表面は少し凸凹になりますが、硬くなって傷つきにくくなります」


「……ショットピーニングか」

「おや、ジンは知っていたんだね」

「一応な」


 ショットピーニングとは冷間加工の一種である。

 無数の硬い球を高速度で金属表面に衝突させる(この球をショットという)加工だ。

 そのため金属表面は梨地なしじ状となってツヤがなくなる。

 が、表面の硬さが増し、また表面の圧縮残留応力が作用し、金属疲労に対しても効果がある。

 この他、耐摩耗性や放熱性なども向上する。

 さらに材料依存性が少ないことから応用範囲は広い。


「ジンも知っていたのかい。残念だな」

「いや、知っているだけだから。使ったことないから」


 実際、現代日本にいた時に業務の一環として知識はあったが、実際に加工したことはなかった。

 そしてこちらに召喚され、『魔法工学師マギクラフト・マイスター』となってからも。


「使い所が限られるけど、いいな、これ」

「ああ。たとえばゴーレムの外装を1割薄くできるなら効果的だ」


 エイラとグローマは『ショットピーニング』の使い所をさっそく考え始めていた。


*   *   *


 そこへ、『航空研』室長のロア・エイスカーが駆け込んできた。


「アーノルト殿、ジン殿! ……ああよかった、ここにいらしたか」

「おや、ロアさん」

「先程、これまでにない推進機が発見されたと正式発表されました。そして、アーノルト殿とジン殿がお詳しい、とも正式に」

「え、ええ、まあ」

「よろしければ、これからお話を伺わせていただきたいのですが。最高管理官には許可をとっております」

「……あ、そうですか」


 そうまで言われては断りづらい。

 『ゴー研』の方も、アーノルトから聞いた技法を検証したり応用を考えたりし始めていたので、仁とアーノルトは『航空研』へと移動した。


「みんな熱心だね」

「そうだな」

「それに『ゴー研』と『航空研』って仲がいいんだね」

「いや、ちょっと前まで仲が悪かったんだがなあ」


 航空機とゴーレムの組み合わせで開発を始めたおかげで仲がよくなったみたいだ、と仁はアーノルトに事情をかいつまんで説明した。


「なーるほど、面白いものだね」


 そんな話をしているうちに『航空研』の会議室に着いた。


「ようこそいらっしゃいました、ジン殿、アーノルト殿」


 そこには『航空研』の主だったメンバーが揃っていた。先ほど食堂で顔を合わせたメンバーもいる。

 室長のロア・エイスカーはもちろん、副室長のゾラ・ヒンメル、パイロット適性の高いタイナー・ビトー、赤毛のイーナ・コウキ、それにシエル・アジュール。といった面々だ。


 改めて自己紹介を済ませると、さっそく技術談義となる。


「ロケット推進の原理は皆知っていますが、このエンジンはちょっと違うようですね?」


 通常のロケットは『燃焼室』で『燃料』を『燃焼』させ、その燃焼ガスを噴射して反動を利用するものだった。

 空気を入れた風船や、圧縮空気を詰めたボトルなどが、『ロケット』の原理を説明するために使われている。


 だが今回紹介されたのは少し違う。

 『燃焼』ではなく『爆発』を利用しているのだ。

 これは現代日本では『デトネーションロケットエンジン』とか『パルス・デトネーション・エンジン』などと呼ばれている。


 通常のロケットエンジンでは『燃焼』が重要であって、『爆発』は起きてほしくない現象であった。

 が、『デトネーションエンジン』では『制御された爆発』を利用するのだ。


 純粋な科学では、爆発のために水素と酸素を燃焼室へ送り込む必要があり、その制御にも細心の注意を払う必要がある。

 だが、魔法は?

 『魔力爆発マナ・エクスプロージョン』は伝説級の魔法だが、『火の爆弾(ファイアボム)』は火属性魔法中級の上、適性のある者なら誰でも使える。

 この場合、爆発しているのは変化した『魔力素(マナ)』。つまり『燃料タンク』はいらないし、酸素も必要がないわけだ。

 つまりコンパクトにできる。

 そして精密な『魔導式(マギフォーミュラ)』により、完璧に制御されれば……。


 それが今回紹介されたロケットエンジンなのである。

 『航空研』の面々は、推進機として期待を寄せているのだった。

 いつもお読みいただきありがとうございます。


  本日9月2日(木)は14:00に

  異世界でホムンクルスになっていたのでスローライフを目指す

  https://ncode.syosetu.com/n8402fn/

  を更新します。

  こちらも応援のほどよろしくお願いいたします。


 20210902 修正

(誤)その制御にも最新の注意を払う必要がある。

(正)その制御にも細心の注意を払う必要がある。

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― 新着の感想 ―
[一言] イメージ的に近いのは、やっぱ核パルスエンジンですかね? 極小の核爆発を、高レートで起こして反動で推進するっていう ジ「そして義兄どのがチェレンコフな光をまとうまでがセット」 礼「先日やって…
[一言] 予算ありますからねー、コストダウンできるこういった戦時下の技術への食いつきがいいですねカチェア
[一言] >実際に加工したことはなかった。 まぁもっとえげつない(表面だけでなく全体を圧縮しちゃう)圧縮加工法を開発しちゃったしなぁw >『燃焼』ではなく『爆発』を利用しているのだ。 まぁ細かい…
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