81-04 戦時技術
「なるほどな、アルミナじゃなくコランダムを使うのか」
そばで聞いていた仁もその発想には感心した。
「いや、戦時中の物資不足の時の発想だから、あまり褒められたものじゃないよ」
「そんなことはないさ。……戦争が生み出したものを平和利用する、いいことじゃないか」
「そうか……そうだな」
「そのコランダムに何か微量元素を添加したら、もっと強化幅が増えるんじゃないか?」
「え?」
仁が言ったのは『マギ系』素材に共通する原理であるが、アーノルトは初耳だったらしい。
「ミスリル銀を1パーセントくらい添加したコランダムで試して見たらどうかな?」
仁はカチェアにそう聞いてみると、
「実験するくらいの素材は研究室にあります」
との答えが返ってきた。
「よし、それじゃあやってみようじゃないか」
俄然エイラが乗り気になる。
「そうだな、まずは実験だ」
グローマも言い出し、そのまま研究所へ。仁とアーノルトも一緒だ。
礼子とチェルももちろん後に続いた。
「まずはコランダムですね」
透明な酸化アルミニウムの結晶。
比重はおよそ4。融点は摂氏2050度。
モース硬度はダイヤモンドに次ぐ9。
そこへ、重量比で1パーセントのミスリル銀を添加するのだ。
「『添加』」
仁が工学魔法でミスリル銀を添加してみせた。
「おお」
「綺麗ですね……」
微量の銀は鉱物の色にはあまり影響を与えないことが多いが、ミスリル銀は少し違うようで、淡いレモン色の結晶となった。
「一発で成功かな」
こうしたマギ素材を作りなれている仁はひとりごちた。
そしてとりあえずこの『マギ・コランダム』の物性を調べてみることにした。
デフォルトの性質はほぼ、元のコランダムと同じ。
これは予想されたことである。
問題は、魔力による強化がどれくらい可能か、である。
この『魔力強化』は仁ではなくエイラが行った。
仁では、通常よりも強力な効果が加わりそうだからだ。
「ふん、これはなかなか……」
「およそ、5倍の強度が得られていますね!」
「十分だな」
「でも破壊特性がね……」
硬度は最初から十分。
問題は『靭性』、つまり『粘り強さ』だ。
また、『破壊特性』も重要になる。
例を上げると、力を加えていった場合、ガラスのように限界を超えるといきなり割れてしまうのか、それとも元に戻らない変形を(塑性変形)起こすのか、ということになる。
鉄の場合は弾性限界といって、力を加えるのをやめれば元の状態に復帰する限度がある。それを超えると粘土のように(塑性)変形し、力を除いても曲がったままになる。
ガラスと鉄、どちらの性質が好ましいかは用途によって変わるが、ゴーレムの骨格に使う素材としては、鉄のようにいきなり破壊されず『粘る』ほうが好ましいと考えられる。
「それは金属じゃないと無理だろうな」
「だよなあ」
「僕もそう思う。とはいえ、強度的には十分じゃないか?」
戦闘用ではないので、想定した以上の力が掛かることは稀であろう、と思われる。
そこで安全係数を十分に取れば、実用レベルだろうとアーノルトは言ったのだ。
人間の骨も、曲がらず折れるわけであるし。
「確かにな。あとはこれを発泡させて、比重を下げればいいわけだ」
「それは我々でやれそうだ。ジン、アーノルト、ありがとう!」
エイラが満面の笑顔で仁とアーノルトに握手を求めた。
「いやいや、お役に立てたようで何よりだよ」
そんなアーノルトに、カチェアがおずおずと声を掛けた。
「あの、アーノルトさん、もしかしたら、その、戦時中の技術で、今に活かせるものがもっとあるんじゃないでしょうか?」
「え? あ、そうか」
言われてみれば、な顔になるアーノルト。
仁も興味があるので、
「それは確かにありそうだよ。せっかくだからまとめて、報告書にしようじゃないか」
と提案したところ、カチェアが大乗り気。
「そうですよ! 是非まとめましょう」
「こういうのって、カチェアは好きだよな」
苦笑いを浮かべながらエイラはテーブルに着いた。
「いいね。是非聞きたいよ」
そしてグローマ・トレーも。
「よし、それじゃあ始めよう」
仁が仕切って、話し合いが始まった。
「ではアーノルト、お題を」
「……といってもなあ……急には思いつかないよ」
「そりゃそうだろうな。じゃあまず、高価、あるいは希少な素材についての代替品はどうだろう?」
仁が指定すると、アーノルトは何か思い当たることがあったようだった。
「ああ、それなら2つある。1つはアダマンタイトだ」
「ほう?」
アダマンタイトは単体金属としては世界最硬の金属だ。そして重い。
産出量も少ないため、使い所が限られる。……蓬莱島を除く。
「炭素量1.2パーセントの炭素鋼に焼入れを施し、そこに『強靱化』を掛けるんだ」
「なるほど」
『強靱化』は分子間の結合力を上げる工学魔法なので、硬くなると同時に靭性も向上する。
「これで、ノーマルのアダマンタイトの3分の1から2分の1くらいにはなるかな」
「鋼の比重は7.9くらいでアダマンタイトは19.3だから、重量あたりの強度でいえばそこそこ代用になるな」
「そうですね。これは有用です!」
「よかった」
アーノルトは役に立てたことでほっとしたようだ。
「もう1つは魔結晶です」
「あ、それも不足しそうですものね」
「ええ。でも、削った屑とか粉とか、破片とか、あるいは原石にくっついていた残りとか、とにかくどんなものでもいいので集めます」
「それを1つにするっていうんじゃないだろうな?」
仁なら『融合』と『結晶化』を使って一体化し、さらに『純化』で品質を上げることができるが、それは誰にでも可能なことではない。
戦時中の技術としては、比較的誰にでも(魔法工作士であれば)使えるものがメインとなる。
「1つにするといっても、『魔導樹脂』を使ってね。そうした小さすぎる魔結晶を魔導樹脂で固めるのさ」
「『融合』は使わないのか?」
「使わない。……ジンは気が付いていないかもしれないが、普通に『融合』を使うと、結晶構造がひどく乱れるんだよ」
「なら『結晶化』を使えば……あ……」
「そう。『結晶化』なんて一般の魔法工作士が使えるわけないだろう?」
「そういうものか」
「そういうものさ」
アーノルトに言われた仁はそういうものか、と納得した。
そして説明に耳を傾けるのであった。
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