81-03 相談に乗る
『ゴー研』の面々と話が弾んだため、お昼も一緒に食べることとなった。
一緒に食堂へ行くと……。
「おや、ジン殿」
「ここ、空いてますよ」
「それじゃあ、遠慮なく」
声を掛けてきたのは一足先に食堂へ来ていた『航空研』室長のロア・エイスカー。
「ジン殿、お久しぶりです」
「やあ。ええっと、シエル、だっけ。そちらはタイナー君」
「覚えていてくださって光栄です」
他にもシエル・アジュール、タイナー・ビトーら、『航空研』のメンバーもおり、相席すると大所帯になった。
礼子とチェルは席に着かず、それぞれ仁とアーノルトの斜め後ろに立っている。
「……しかし、アーノルトさんって、お食事ができるんですね……」
「うん、味覚もちゃんとあるから。とはいえ消化吸収の必要がないから、ボディ内で原子に分解したり凝集して他の用途に使ったりするんだけどね」
「他の用途って、なんですか?」
興味があるらしく、カチェアはアーノルトにいろいろと質問をしている。
「例えば糖分を抽出して凝集すれば氷砂糖になるし、塩分なら塩が採れるし」
「あ、そうですよね」
「……本当に、よくできた身体だなあ……」
一方、仁は『航空研』メンバーに質問を受けていた。
「ちらっと聞いたんですけど、これまでにない方式の推進機が発見されたんですって?」
さすが『航空研』室長、ロア・エイスカーはなかなか早耳だった。
魔導ロケットエンジンについては、まもなく公式発表があるはずなので、肯定するくらいはいいだろうと、
「そうなんだよ。もうすぐ公式に発表されると思う」
とだけ答えておく仁であった。
* * *
昼食後、仁とアーノルトは再び『ゴー研』へ。
「今は何を開発しているんだい?」
と仁が聞くと、これにはグローマが答えた。
「水中用ゴーレムだよ」
「ほう」
「もちろん、通常のゴーレムだって水中で行動可能だけれど、開発中のものは人間のように水に浮くボディを目指しているんだ」
「なるほど」
「これからますます海運が発達するだろう。そうなると、海での事故も起きるだろうから、救助隊を派遣することになる。それに使うゴーレムさ」
「そういうことか。平和利用、いいじゃないか」
仁としては大賛成であった。
そんな仁を見て、エイラが相談を持ちかける。
「ただ問題は、『どうやって浮く』か、なんだ。それであたしとグローマが議論しているのさ」
ゴーレムの比重をほぼ1にして水と同じくらいにして『浮く』のか、それとも頑丈、重厚にして『マギウォータジェット』のような推進機で『浮く』のか、という議論だとエイラは説明した。
比重1の方は、『浮く』ために特別何かをする必要はない反面、軽い素材を使う必要があり、強度的に不安が出ると思われる。
推進機使用の方は、推進機が故障したら沈んでしまう欠点があるが、素材に制限はあまりない。
素材としては、海水に強いものを選ぶ必要があるのは共通である。
「救助用には力があったほうがいいだろうから、頑丈に作りたいな」
「あたしはそう思っているんだよな」
エイラは強度優先で、浮くには推進機を使う派。
「でも技術者としては比重1を作ってみたいよなあ」
「ジン殿もそう思うでしょう?」
グローマは余計な推進機を使わずに比重を1にしたい派。
「なんだ、結局ジンはどっちの味方なんだよ?」
仁は笑って答える。
「両方を満足させるものを作りたいよな。エイラだって、『重く』作りたいわけじゃないんだろう?」
「そりゃあね」
「なら、強度と軽さの両立を追求するというのは悪くないんじゃないか」
「可能ならそうしたいけどさ……」
この場合、例えば比重が1.1になってしまってはまずいのである。
何の補助手段も使わずに水に浮けなくてはならないからだ。
「パワーを考えると、どうしても骨格には金属を使いたいんだよな。そうすると必然的に重くなる」
「それは確かにな」
「外装にも金属を使うと、どう工夫しても比重は2くらいになってしまうんだよ」
一応は検討してみたんだ、とエイラは言った。
「救命胴衣は試してみたか?」
「一応な。人間用のでは到底無理だった」
外付けで『浮き輪』『救命胴衣』のような装備を付ける手もあるのだが、人間用では浮力が全然足りないと言うエイラであった。
「な? 難しいんだよ」
「あとは特殊素材しかないか……」
魔力で強化できる系の素材を使えば、軽くて丈夫なものになると思われた。
だが。
「ジンさん、それもちょっと厳しいんです」
と、カチェアから駄目出しが出てしまう。
「量産できること、という前提があるので……」
「それはきついな」
魔力で強化できる素材は大体において高価なのだ。
「だろう? だから議論しているんだよ。……で、ジンの意見は?」
「うーん……」
少し考えた後。仁の答えは……。
「魔力で強化できる、安価な素材を開発すればいい」
であった。
「はあ!?」
「うーむ……」
「そうきましたか……」
エイラ、グローマ、カチェアはそれぞれの感想を短い言葉に乗せた。
「あと足かせになりそうなのは、『開発期間』だな。そっちは?」
「半年、と期限を切られてまして、残り4ヵ月弱です」
「そうか。……素材開発に2ヵ月費やしてもお釣りが来るな」
カチェアからの情報に仁が呟きを漏らせば、
「そんな日程で余裕があるなんて言えるのはジンさんだけです」
と言われてしまった。
そこへ、アーノルトが参加する。
「何? 魔力で強化できる、安価な素材だって? 強化の程度が低くていいなら、あるよ」
「えっ?」
「戦時中は物資が足りないなんてのは日常茶飯事だったからね」
「そ、それで、どんな素材なんですか?」
「石だよ」
「ええ?」
「正確には『コランダム』だね」
「なるほど」
石……鉱物の『丈夫さ』には、『硬度』の他に『靭性』も重要である。つまり『割れやすさ、割れにくさ』だ。
ダイヤモンドはモース硬度が10で『硬度』は最高だが、割れやすい面すなわち『劈開面』を持っており、『靭性』はやや落ちる。
『靭性』が最高クラスなのは『コランダム』(ルビーやサファイアを含む)や『ヒスイ』である。
ヒスイのモース硬度は6.5から7であり、コランダムは9。
つまりコランダムの方が『丈夫さ』では上といえよう。
「コランダムはディナー……いや、今のセルロア王国で結構採れたはずだから、それを魔法的に処理すればいいのさ」
「参考になりました! アーノルトさん、ありがとうございます!」
「アーノルト殿、情報感謝します」
「アーノルト、いいヒントをありがとうな」
カチェア、グローマ、エイラらは口々に感謝の言葉を述べたのである。
いつもお読みいただきありがとうございます。
20210831 修正
(誤)エイラは強度優先で、浮くには推進をを使う派。
(正)エイラは強度優先で、浮くには推進機を使う派。




