80-01 置き土産
大陸暦3902年2月25日、セルロア王国王城で臨時会議が招集された。
出席者は、まず王族が国王ボザール・ヴァロア・ド・セルロア、その叔父フランシス・ヴァロア・ド・セルロア、王弟マルセル・ヴァロア・ド・セルロア。
宰相ダイン・セーメ・ド・パース、法務相ラルゴス・リーパーグ、魔法技術相セリイン・コクダン・メメント、総務相ダイト・キニエ・ラルア、諜報局長アロン・ファアル・ゼータ。
そして近衛騎士団長テニン・カネワンの9名である。
国王が絶対的に信頼できると判断した者たちだけでの秘密会議だ。
「さて、集まってもらったのは、大げさに言えば我が国の危機をどうするか、ということについて話し合うためである」
どういうことですか、という疑問を差し挟むものはいない。
既に皆、王の叔父フランシス・ヴァロア・ド・セルロアの報告書を読んでいるのだ。
その中には、『セルロア王国の中枢にも『公平党』の一員が入り込んでいる』というものもあった。
もちろん、非公式な情報である。
が、信頼性は非常に高いものであった。
「一昨日『捜理協会』が『アヴァロン』や『魔法工学師』、それに『デウス・エクス・マキナ3世』らの働きによって事実上壊滅したことは周知のことである。が、その下部組織、あるいは派生団体が『公平党』である。そちらの脅威はまだ残っている」
溜め息と共に国王ボザールが告げた。
「狂信者というものは厄介なものですな」
近衛騎士団長テニン・カネワンは腕組みをしながら顔を顰めた。
「陛下、そ奴らの名はわかっているのですか?」
宰相が尋ねる。
が、国王は首を横に振った。
「わからぬ。なんとはなしにこ奴らか、という者たちはいるがな」
「ふむ……万が一冤罪だったらまずいですな」
「ならば、何か炙り出す手立てはないものでしょうかな?」
「それこそがこの会議の目的の1つだ」
「ふむ……」
皆、考え込んで言葉をなくす。それほどまでにことは重大で、解決は難しいのである。
「『アヴァロン』に相談すれば、何か解決策を教えてもらえるかもしれんが、今は我が国だけで何とかしたいのだ」
国王ボザールが真剣な顔で言う。
「困難に突き当たった時、すぐどこかに頼ってしまうような国にはしたくないのだ」
「は、陛下」
「お気持ちは痛いほどよくわかります」
そして会議は続いていく……。
* * *
クゥプでは、後始末が佳境に入っていた。
その中心は『大聖堂』のリフォームである。
工事をしているのは『職人』41から70までの30体。
建前としてはデウス・エクス・マキナ3世のゴーレムということになっている。
『職人』30体が行っているので、作業はとんでもない速さで進んでいた。
「おおー、なんかすげー」
「こっちの方が雰囲気いいわね」
「町の役に立ってくれるんだとさ」
野次馬が感心した声を上げている。
『大聖堂』がみるみるうちにその形を変えていくのは圧巻なのだ。
ピラミッドによく似た外観に尖塔が生えていたのだが、その尖塔がなくなり、ピラミッドに窓が開き庇が出来、小屋根が付いた。
外壁の色が変えられ、明るい色になって雰囲気が和らいだ。
今後は、『多目的ホール』として地域の役に立つのである。
「麻薬依存症患者ももうほとんどいませんね」
『アヴァロン』の医療研副室長、メイ・シャイ・ジョーイが、クゥプ住民の名簿を見ながら確認するように言った。
「ええ、ようやく終息ですよ」
『旧ディナール王国』の自動人形、チェルが答えた。
チェルは『麻薬ファナ』による依存症の治療ができるため、ここクゥプに留まっていたのだ。
麻薬依存症患者はクゥプだけでなく、周囲の町にも少数だがいたからである。
また、ごくごく軽い患者……観光でクゥプを訪れ、1度だけファナを嗅がされた者も大勢いるが、1度であれば依存症にはならないので、治療対象外としている。
そうやって切り分けないと、いつまで経っても作業が終わらないのだ。
もちろん一区切り付いた後に依存症患者が発見されたならいつでも治療を行う準備は進めている。
具体的には、チェルの治療法と同等の効果を発揮する魔導具を仁が開発しているのだ。
「健康を損なった人は32人、今は各家庭にいてもらっていますが、明日にはこの『多目的ホール』がほぼ完成しますので、病院施設に入院してもらいましょう」
「なかなか素早い対応ですね。『アヴァロン』はいい組織です」
「ありがとうございます、チェルさん」
「いえ。わたくしたちにも利益があることですので」
チェルの言う『利益』とは、『ルトグラ砦地下』の再整備を仁とマキナ3世が請け負ってくれることになったからだ。
特に『第1地下』の『イザーク』と呼ばれる魔導頭脳の改良。
(あの魔導頭脳は酷すぎましたからね……)
であるから、仁もしくはマキナ3世に再構築してもらえればチェルとしても安心なのである。
(『第2地下基地』も見てくれるということでしたし、それに……)
そしてもう1つ、『島基地』をどうするか、という問題があった。
(あちらは未完成すぎますので、場合によっては『アヴァロン』に管理を委ねたほうがいいのかもしれませんね……まあ、わたくしに決定権はないのですけれど)
そうした決定権を有するのは、今の状況ではチェルの同僚である魔導頭脳のみである。
チェルもその魔導頭脳も同じ技術者……『アーノルト』によって作られ、互いに互いが暴走しないように監視しあっているのだ。
それは礼子と老君の関係にちょっと似ている。
(このごたごたが終わったら、ジン様かマキナ様の拠点を見学させてもらえないでしょうかね……)
そんなことを想うチェルなのであった。
* * *
蓬莱島でも、仁が後始末に頭を悩ませていた。
「ああもう、『アヴァロン』に丸投げできたら楽なのにな」
『御主人様、それではトマックス殿の負担が大きすぎます』
「わかってるよ。だからマキナ名義でいろいろ手助けしているんじゃないか」
『捜理協会』の置き土産は厄介なものばかりであった。
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本日7月15日(木)は14:00に
異世界でホムンクルスになっていたのでスローライフを目指す
https://ncode.syosetu.com/n8402fn/
を更新します。
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20210715 修正
(誤)「健康を残った人は32人、今は各家庭にいてもらっていますが、
(正)「健康を損なった人は32人、今は各家庭にいてもらっていますが、




