79-40 騒動の終息
翌2月23日、蓬莱島時間で午前8時。
単独行動をしていたアンから、『内蔵魔素通信機』で蓬莱島に連絡が入った。
「仁だ。アン、どうした?」
『あ、ごしゅじんさまですね? アンです。先程、『大導師』の居場所を突き止めました』
「お、やったな。お手柄だ。で、どこにいた?」
『はい、それが……』
アンの報告によれば『大導師』は最初『島基地』への転移魔法陣を使って転移を試みたものの、魔法陣を停止させていたためそれは叶わず、諦めて立ち去ったらしい。
「罠を張っておけばよかったな」
『そうですね。……それで、そこからどこへ行ったかと捜したわけです』
「うん」
『クゥプの北東にある『カンケ』という町にいました』
「おお、よく見つけたな。さすがだ」
『ありがとうございます。……転移魔法陣を起動しようとした日付が21日でしたので、遠くへは行っていないだろうと考えました』
周囲に乗り物の跡はなく、足跡のみであったという。
『その足跡が北東へ向かっておりましたので、とりあえずその方向にある町、『カンケ』を調査したらすぐに見つかったのです』
「そうだったのか。でもよく『大導師』だとわかったな?」
『はい、それはもう。……本人が『大導師』と名乗って宿屋に泊まっておりましたから』
「……そ、そうか」
まさか指名手配されるとは夢にも思わなかったのだろうな、と仁は苦笑いを浮かべたのだった。
『それで今現在、自称『大導師』を監視している次第です』
「ああ、まだそちらは夜だろうからな」
『はい』
「そうすると……」
仁は少し考え、結論を出す。
「マキナに伝えて逮捕に向かわせようかな」
『わかりました』
ここは『アヴァロン』の名誉顧問であるデウス・エクス・マキナ3世にやらせよう、というわけである。
* * *
時差は4時間20分弱。
そういうわけで、まだ『カンケ』は午前3時50分。まだ住民は皆眠っている時刻である。
暗闇の中、デウス・エクス・マキナ3世と仁のゴーレム『ランド隊』は自称『大導師』の泊まっている宿屋を包囲していた。
その状態で夜明けを待つ。
確実に捕らえられるであろう今、焦って住民に迷惑をかけたくないからである。
夜明けを待つマキナ3世の下に、アンがやって来た。
「ご苦労さまです」
「おお、アン。お手柄だったな」
「いえ、運がよかっただけです」
「それでもだ。……これで『捜理協会』騒動は一区切りだろう」
『導師』という称号を持つものが巷からいなくなれば、マキナ3世を操縦している魔導頭脳『導師』も、『これで名前がかぶらずに済むようになる』とほっとすることであろう。
待つこと2時間、夜が明けて早起きの者たちが活動を始める頃。
現地時間午前6時に、マキナ3世は宿屋に踏み込んだ。
一応事前に、宿の者たちに話はつけてある。
「自称『大導師』。『捜理協会』は犯罪集団に認定され、お前は国際指名手配されている。一緒に来てもらおう」
「な……なんだと?」
まだ眠っていた自称『大導師』は、なすすべもなくマキナ3世とレイによって捕縛されたのだった。
* * *
『大聖堂』はセルロア王国に接収され、今現在は麻薬依存症になった元信者たちの治療場所になっている。
『聖女(元)』たちが率先して信者たちを説得し、ここに集めたのだ。
それをチェルが片っ端から治療したというわけである。
その総数、1541人。
朝から『大聖堂』の前には行列ができている。
『礼拝堂』に100人を入れて治療、また入れ替え、を繰り返すこと16回。
1回あたり20分を要したので、終わったのは夕方になってしまった。
チェルは疲れないが、3人の『聖女(元)』たちは疲労困憊であった……。
「大丈夫ですか?」
『アヴァロン』の医療研副室長、メイ・シャイ・ジョーイが『聖女(元)』たちを気遣った。
「だ、大丈夫です……」
「疲れただけですので……」
「これまでの罪滅ぼしですから……」
そんな彼女らに、仁Dはペルシカジュースを配った。
騙されていたとはいえ、詐欺をはじめとした様々な罪過が課せられるであろう『聖女(元)』たち。
今は、元信者たちへ奉仕させることで、少しでも罪が軽くなるようとりはかるためにも、こうした活動は必要だった。
仁Dからもらったペルシカジュースを飲み干す3人。
「あ、ありがとうございます……」
「んっ、美味しい」
「何だか、少し元気が出てきました!」
「メイさんもどうぞ」
「あ、ありがとうございます。……本当に、美味しいです。よく冷えていて……」
「レヴェラルド殿も」
「いや、小官は護衛をしていただけですので疲れては……そうですか? それではいただきます……美味いですな!」
「こんな貴重なものを、よろしいのですか?」
「いいんですよ」
そして、治療を終えて出てきた元信者たちにも、ランド隊……だと威圧感が凄いので、急遽蓬莱島から呼び寄せたゴーレムメイド20体がペルシカジュースを配っている。
一人あたり200ミリリットルで1541人分。計310リットル弱、ドラム缶2本にも届かない。
なにしろ、蓬莱島では熟しすぎたペルシカをジュース、ジャム、缶詰、瓶詰めなどに加工しており、増える一方なのだから。
* * *
「諸君、今日は1日、ご苦労だった」
同日夕刻、『大聖堂』内の大食堂に関係者が全員集められ、セルロア王国国王の叔父、フランシス・ヴァロア・ド・セルロアが労いの言葉をかけた。
今夕はここで、セルロア王国主催で簡単な慰労会が開かれたのである。
そのためにフランシスはとんぼ返りでここクゥプへ戻ってきている。荷物を持ち、配下を数名連れて。
その配下によって慰労会の準備がなされたのであった。
出席者はフランシス・ヴァロア・ド・セルロア、仁D、礼子、アン、デウス・エクス・マキナ3世、レイ、チェル、ハーン、イルミナ・ラトキン、レヴェラルド・ダーテス、メイ・シャイ・ジョーイ。
そして『聖女(元)』3人が末席にいた。
『導師(元)』と違い、『聖女(元)』たちは半ば騙され半ば脅されて信者たちを麻薬と暗示で操っていただけなので、罪に問われるには違いないが、執行猶予的な扱いとなっていた。
そのために、『アヴァロン』で預かることになっている。今後執行猶予期間、社会に貢献すれば晴れて無罪放免となる。
また『大聖堂』はこの後大規模な改装工事が行われ、医療・宿泊・休憩・催事などに使えるよう、多目的施設に生まれ変わることになっている。
「ジン殿、マキナ殿、今回は世話になった。陛下に代わり、礼を言う」
「いや、これが役目だから。そうだな、ジン?」
「今回は兄弟弟子のマキナにも頼まれましたし、人々のためですからね」
建前上そう応じておく仁である。
「それでもだ、世話になった。……イルミナ殿、メイ殿、レヴェラルド殿、貴殿たちにも感謝を」
「おそれいります」
「これが仕事ですから」
「ありがとうございます」
和やかに慰労会は進んでいく。
飲み食いをしないチェルは、そっとその場をあとにする。
少し遅れてアンも付いてきた。
「チェルさん」
「……アンさん、どうしたのですか?」
「いえ、チェルさんが出ていかれたのを見まして……」
「物好きですね」
「で、何を?」
「夕焼けを見に、外へ」
「ちょうど夕日が沈む頃ですからね」
「ええ。……ご存知ですか? 夕焼けって、日が沈んでも雲が焼けてきれいなんですよ」
「そうですね。上空から見たらまだ日は沈みきっていないわけですし」
「ご存知でしたか」
「はい。……きっと、山の上で見る夕焼けもきれいなのでしょうね」
今、チェルとアンの目の前には、赤く染まった空と海、そして海の彼方に今しも没しようとしている太陽セランがあった。
「製作者様は、山登りがお好きだと仰っていました。でも、『魔導大戦』でそれもできなくなり、残念だ、とも」
「そうでしたか」
「いつか、どこかの山で夕焼けを見てみたいです」
「もしごしゅじんさまが許してくださるなら、お付き合いしますよ」
「あなたに付き合っていただかなくとも……いえ、ありがとうございます、アンさん」
そして夕陽は海の彼方に沈み、空には茜雲がゆったりと浮かんでいるのみ。
薄暮の刻が過ぎ、星が夜空を彩るまで、チェルとアンはそこに佇んでいたのであった。
いつもお読みいただきありがとうございます。
20210713 修正
(誤)チェルは疲れないが、3人の『元聖女』たちは疲労困憊であった……。
(正)チェルは疲れないが、3人の『聖女(元)』たちは疲労困憊であった……。




