79-34 作戦開始
2月22日、両面作戦が決行された。
現地時間午前7時、仁の『ハリケーン』は『ファナ農場』の上空100メートルに停止している。
「まずこちらのゴーレムを下ろし、農場を包囲させます」
「うむ」
作戦の総指揮は仁D。
説明を聞いているのはセルロア王国国王の叔父、フランシス・ヴァロア・ド・セルロア57歳。元近衛騎士団総帥だ。
国王に代わり、この作戦の顛末を見届けるために同行している。それに彼の付き人が1人。
国王ボザール・ヴァロア・ド・セルロアは自らが同行したがったのだが、周囲に止められ、渋々ながら代行として叔父の同行を許したのである。
フランシス・ヴァロア・ド・セルロアが見ている前で、20体の『ランド』……ランド71から90までが、ロープによる降下を行っていった。
部外者が見ていなければ『力場発生器』を使って飛び降りられるのだが、今回は仕方がない。
人間なら身が竦んでしまうような100メートルという高度も、ランド隊はものともせずに皆あっという間に地上に降り立ったのである。
「ううむ、お見事である」
「お褒めの言葉、光栄です」
「農場を包囲させます」
「うむ」
眼下に広がる『ファナ農場』の広さはおよそ1ヘクタール。円形に近い畑を、目隠しの林がぐるりと取り囲んでいる。
これにより地上からの観察は不可能。
また、上空から見たとしてもそれが『ファナ』であるということはそうそう見抜けないであろう。
さらに、林の中には東西南北とその間それぞれに1体ずつ、計8体のゴーレムがいて、侵入者を拒んでいた。
「このゴーレムは戦闘用と思われます」
仁Dはフランシスに解説している。
「つまり?」
「侵入者を押し止めるのではなく、力ずくで排除しようという可能性があります」
「凶悪だな」
「はい」
そしてランド隊が全員配置についたという合図が来た。
「いよいよ作戦を開始します」
「うむ」
『アヴァロン』代表としてイルミナ・ラトキンが『ファナ農場』の差し押さえに向かうことになっている。
護衛としてランド91が付く。
またハーンも同行し、時と場合によってはファナの所有権を主張することになっていた。
こちらは『ハリケーン』搭載の『タウベ改2』で降下した。
「いざとなったら私たちが行くのだな」
「はい」
仁Dとフランシスは当面『ハリケーン』にいてバックアップを行うことになる。
その『ハリケーン』のモニターには、地上の様子が映し出されており、そこには『タウベ改2』から降り立つイルミナ・ラトキンの姿があった。
* * *
同時刻、クゥプ。
『捜理協会』の『大聖堂』の出入り口は黒いゴーレムに封鎖されている。
デウス・エクス・マキナ3世のゴーレム、『スペース』たちだ。
「地下に抜け道があるかと思ったが、そんなものはなかったな」
『アリストテレス』の中でマキナ3世が呟いた。
「マキナ殿、『スペース』殿たちは全員配置に付いたようですが」
「うむ。では我々も行くとしようか」
「ええ」
こちらは、デウス・エクス・マキナ3世、従騎士レイ、『世界警備隊』陸戦隊隊長のレヴェラルド・ダーテス、医療研副室長のメイ・シャイ・ジョーイ、その護衛の『スペース10』、そしてチェルの6人が『大聖堂』へ向かう。
『アリストテレス』から『ダヴ』で降下するのだ。操縦は『スペース10』が行う。
「行くぞ」
「おう」
「はい」
短いやり取りのあと、『ダヴ』は『アリストテレス』を離れ、地上へと向かった。
着陸したのは『大聖堂』前の広場。
『ダヴ』は地上にいた『スペース20』に預け、マキナ3世たちは地上に降り立った。
朝ではあるが、参拝に来た信者や、散歩をしている住民が『ダヴ』とそこから降りてきた6人を見て仰天する。
「……内部に、麻薬依存症の者、確認」
検知距離10メートルの『脳波検査機』で『大聖堂』内を調査、確認。これで調査をする大義名分ができた。
「部外者に構うな。行くぞ」
「おう」
「はい」
マキナ3世たちは正面から突入していった。
* * *
一方、『ファナ農場』。
事前に調べておいた、関係者が使っていると思われる細い小路を進んでいくイルミナ・ラトキン一行。
特に遮る者もなく、農場へと辿り着いた。
「これは……」
「間違いなくファナです」
一面に広がる『ファナ』。
高さは1メートルほどで、茎は直立。葉はモミジに似て、より大きな掌状葉である。
この葉を採取し加工することで麻薬が得られる。この麻薬もまた『ファナ』と呼ばれる。
植物『ファナ』の葉1キログラムから0.5グラムほどの麻薬『ファナ』が採れる。
ちなみに麻薬『ファナ』としては成人1人あたり0.1グラムが適量という。
「これだけのファナが栽培されていたら、いったい幾人を中毒にさせられることでしょうか」
憤るイルミナ・ラトキンの前に、ゴーレムを連れた農夫が現れた。
「あんたらは一体何だ? ここは我々『捜理協会』が所有する畑だぞ?」
不用意な一言。
その言葉は『ファナ』を栽培しているのが捜理協会であるということを裏付けてくれた。
「私は『世界警備隊』の者です。この麻薬の元になる畑を差し押さえます」
「げっ!」
いきなり植物の正体をばらされ、しかも差し押さえると言われた農夫はびっくり仰天。
身を翻して逃げようとした。
「不正を自ら認めるようなものですよ?」
が、追おうとしたイルミナの前に、連れていたゴーレムが立ちはだかった。そして襲いかかってきたのである。
「きゃああ!」
まさか問答無用で襲われると思わなかったイルミナは不意を突かれてしまった。
だが護衛のランド91は微塵も油断していなかった。
襲ってきたゴーレムの腕を抑え、その動きを封じる。
そして地面へと押さえつけたのである。
同時に、ハーンは逃げ出した農夫を追った。
その前に、林の中に配備されていた戦闘用ゴーレムが道を塞ぐ。
「邪魔だ」
ハーンは邪魔をするゴーレムを払いのけようとした……が、その腕はゴーレムに止められてしまったのである。
「む? 思ったよりも力があるではないか」
仕方なくハーンは足を止め、戦闘用ゴーレムと向かい合った。
「邪魔をするなら容赦しない。道をあけろ」
だが戦闘用ゴーレムは無言のまま、ハーンに襲いかかってきたのであった……。
いつもお読みいただきありがとうございます。
20210707 修正
(誤)周囲に止められ、渋々ながら代行として叔父の同行を許したでのある。
(正)周囲に止められ、渋々ながら代行として叔父の同行を許したのである。
(誤)「このゴーレムは戦闘用と思わます」
(正)「このゴーレムは戦闘用と思われます」
(旧)
この葉を採取し・・・・・・その後・・・・・・・が得られる。この麻薬もまた『ファナ』と呼ばれる。
(新)
この葉を採取し加工することで麻薬が得られる。この麻薬もまた『ファナ』と呼ばれる。
詳細な加工法の描写はやめました。
(旧)葉はモミジに似た掌状複葉だが、葉柄の部分まで切れ込んでいる。
(新)葉はモミジに似て、より大きな掌状葉である。
ファナの描写を変更します




