79-33 捜査前夜
『脳波検査機』の使い方を数名に説明し終えた頃、チェルとハーンが最高管理官の執務室へ戻ってきた。
デウス・エクス・マキナ3世とレイも一緒だ。
「おお、チェルさん、ハーン殿、いかがでしたかな?」
「ええ、有意義なひとときでした。ここ『アヴァロン』がこの世界の最先端を行くということが理解できたようです」
「それは何よりでした」
そしてチェルはテーブルの上に載せられた『脳波検査機』を見つけ、
「まあ、もう完成したのですか? しかも10台……11台も!」
「ええ、1台は有効距離が10メートルで、小型の10台は有効距離が5メートルです」
「ああ、なるほど! 小型化の方を優先なさったのですね。さすが『魔法工学師』ですわ」
「ありがとう」
これで準備はいいだろうかと仁Dがチェルに尋ねると、
「できましたらあと1つ、お願いしたいことが」
「何だ? 俺にできることならいいぞ」
それを聞いてチェルの顔が明るくなる。
「そうですか! ……ええとですね、わたくしの『リミッター』を解除していただきたいのです」
「リミッター?」
「はい。今の私は平均的な人間の女性の1.5倍くらいの身体性能しか出せておりません。リミッターを解除すれば、今の20倍の性能を発揮することができます」
「ほう」
「その分、ボディへの負担も大きいのですけれど」
「そういうことか。……だけど、修理のために停止して再起動したら、俺の魔力パターンが登録されてしまうぞ」
その場合、自動的に仁D……仁がマスターもしくは至上の主人扱いになってしまう。
「いえ、停止せずとも解除できるのです」
「そうなのか?」
「はい」
チェルができる、というので、仁Dはリミッター解除をしてやることにした。
場所は『ハリケーン』の中。
マキナ3世と従騎士レイも立ち会っている。
「あらためて聞くけど、リミッター解除の条件は?」
「はい。パスワード『今日の花を摘む』を入力後、再度『明日の日を想え』の入力。その後わたくしが『解除』と宣言すれば解除されます」
「それでいいのか?」
「はい。音声のみで解除できます。ただし、パスワードの入力の方は自分や、ハーンではできません」
「それはなぜだ?」
「勝手にリミッター解除ができないようにです」
「いや、そうではなく……ああ、他者の魔力パターンでないと無効なのか」
「そういうことですね」
ただし、製作者だけは例外のようだが。
そのシステムを知り、仁Dを通じて聞いていた仁は少し感心した。
(ハード的ではないリミッターか……セキュリティも2重になっているし、興味深いな)
が、今はチェルのリミッター解除である。
ここで礼子が口を開いた。
「……チェルさん、リミッターが解除されたあなたが、わたくしたちを襲わないという保証は?」
「お疑いはごもっともです。が、パスワードを唱えた方を襲うことはできません。……それにつきましては、制御核を参照していただいても構いません」
「わかった。信用しよう」
「いいのですか?」
「礼子もいるしな」
礼子なら、リミッターの外れたチェルであっても、問題なく無力化できるであろうから。
「よし。……『今日の花を摘む』……『明日の日を想え』」
「『解除』」
仁Dのパスワード詠唱に続き、チェルの解除宣言がなされる。
「……どうだ?」
「……………………無事、解除に成功。ジン様、ありがとうございます」
チェルは仁Dに礼を述べた。
「これで本来の性能を発揮できます」
「……それはいいが……20倍って言ってたけど、ボディが保つのか?」
「なんとかなります」
仁Dが見たところ、特に骨格が強度不足に思えてならないのである。
フルパワーでの戦闘を行ったら、まず間違いなく骨格が歪むと思われた。
おそらくそれは製作者の技量不足ではなく、『魔導大戦』末期の資材不足によるものであろう、とも。
(まあ、チェルが直接戦闘するような機会はないだろうからな……)
と思い直す仁であった。
* * *
その日は、残り時間を作戦準備に充てた。
「これで、『脳波検査機』の使用方法もわかったかな」
「大丈夫です」
『大聖堂』への突入班、陸戦隊隊長のレヴェラルド・ダーテスと医療研副室長のメイ・シャイ・ジョーイも使い方をマスターしていた。
『ファナ』農場担当のイルミナ・ラトキンも、念の為に操作を覚えている。
そうした道具類の準備はもちろんのこと、捜査の手順も確認し、詳細を詰めていく。
今回は少数精鋭による奇襲が基本なので、意識の徹底は比較的楽だ。
仁D、礼子、イルミナ・ラトキン、ハーンが『ファナ』農場担当であるが、関係者が逃亡しないよう、農場の周囲を固める役目の者が必要になる。
「それは、自分の方で手配しますよ」
「お願いいたします、ジン殿」
仁は『ランド隊』を呼び寄せ、農場の周囲に配置するつもりでいた。
そして『大聖堂』班。
「『大聖堂』の裏口や非常口には『アリストテレス』からゴーレムの『スペース11』から『スペース20』を出して配備しよう」
「おお、それは助かります」
「それに、万が一のことを考え、『障壁』系の魔導具と『麻痺銃』を携帯しておいたほうがいいな」
特に医療研副室長のメイ・シャイ・ジョーイは戦闘力皆無なので、要注意だ。
「レイ、彼女のことは気にかけてやってくれ」
「わかりました」
一応、従騎士レイにメイ・シャイ・ジョーイのことを頼んでおくが、それでもまだ少々不安がある、とマキナ3世は感じた。
「トマックス閣下、彼女にも俺のゴーレムを1体付けようと思うが、どうかな?」
「そうしてもらえれば安心ですな」
「よし」
こうして、メイ・シャイ・ジョーイには『スペース10』が護衛に付くことになったのである。
* * *
午後6時、チェルは世界警備隊本部屋上にいた。
「海に沈む夕日はきれいですね……」
「ええ」
「わたくしの製作者様は、山の上から見る朝日と夕日が好きだ、と仰っていました」
「そうですか」
「でも、海の夕日も素敵です」
隣にはアンがいて、共にはるか西の海に沈む夕日を見つめていた。
「ジン様はどうなさっています?」
「ごしゅじんさまでしたら、セルロア王国国王陛下のところに向かわれました」
「ああ、作戦の事前許可と同行者の案内ですね」
「ええ」
穏やかに暮れていく作戦前夜であった。
いつもお読みいただきありがとうございます。
20210706 修正
(誤)チェルとハーンが最高管理間の執務室へ戻ってきた。
(正)チェルとハーンが最高管理官の執務室へ戻ってきた。
(旧)
が、今はチェルのリミッター解除である。
「よし。……『今日の花を摘む』『明日の日を想え』」
(新)
が、今はチェルのリミッター解除である。
ここで礼子が口を開いた。
「……チェルさん、リミッターが解除されたあなたが、わたくしたちを襲わないという保証は?」
「お疑いはごもっともです。が、パスワードを称えた方を襲うことはできません。……それにつきましては、制御核を参照していただいても構いません」
「わかった。信用しよう」
「いいのですか?」
「礼子もいるしな」
礼子なら、リミッターの外れたチェルであっても、問題なく無力化できるであろうから。
「よし。……『今日の花を摘む』……『明日の日を想え』」
20210904 修正
(誤)が、パスワードを称えた方を襲うことはできません。
(正)が、パスワードを唱えた方を襲うことはできません。
(旧)ただし、パスワードの方は自分や、ハーンではできません」
(新)ただし、パスワードの入力の方は自分や、ハーンではできません」




