79-18 思わぬ提案
アンとチェルの会話をモニタしていた老君は、仁に話しかけた。
『御主人様、チェルさんは御主人様に会ってみたい、と思っているようですね』
「そのようだな」
『ですが、お気をつけください。利用しようという腹づもりかもしれません。データ不足なので断定はできませんが』
「そうか」
『はい。……どうやら『第2地下』を担当した技術者もしくは技術者たちは、『第1地下』の担当とは比べものにならないほど有能だったようですね』
「確かに、そんな感じだな」
『注意を怠らないようにしましょう』
「だな」
* * *
そして『乗合自動車』はクゥプに到着した。時刻は午後5時半。まもなく夜の帳が下りようとしている。
「ここでいいわ」
町外れで『乗合自動車』を降り、アンは約束の1万トールを支払う。
「まいど。それでは、お気をつけて」
『乗合自動車』は走り去っていった。
「今夜はどこかに泊まらないといけないでしょうね」
とアンが言うと、チェルは思いがけない提案を行ってきた。
「ここの南の海上にある島に基地があるはずだから、そこへ行きましょう」
「ご存知なのですか?」
「もちろんよ」
却下する理由もなく、チェルの案内で海岸方面へと向かう。
「ここよ」
迷わず、『島基地』への転移魔法陣のある場所へ案内するチェル。
「知っていたのですか?」
「いいえ。ただ、この魔法陣からは微弱な信号が出ているので、それを感知すれば簡単なことですから」
「微弱な信号が?」
老君はその信号に気が付いていたのだろうか、とアンは思ったが、すぐに疑問を打ち消した。
あの老君が、気付いていないはずはないから。
まして、世界一の魔法技術者、仁もいるのだから。
そして転移魔法陣のある地下室から、一行は『島基地』へと転移したのであった。
* * *
「これは予想外だったな」
『はい、御主人様』
蓬莱島では、仁と老君が顔を見合わせて(比喩)いた。
「あの転移魔法陣が余剰魔力を周囲2キロほどに発信していたのはわかっていたが」
『はい、御主人様。それを感知できるとは、『第2地下』の自動人形は優秀ですね』
もちろん、仁と老君は、転移魔法陣が微弱な魔力波を発していることは知っていた。
が、それを感知できるようなゴーレムや自動人形がいることは予想していなかったのだ。
おそらく専用の受信機を持っているのだろう、と推測する仁であった。
「しかし……『第1地下』と『第2地下』で、それぞれに所属するゴーレムや自動人形の性能はばらついているな」
『そうですね、御主人様』
そして仁と老君は、『島基地』の観察を続けるのだった。
* * *
「予想よりも荒廃していますね」
「ここは『ルトグラ砦』の戦闘用ゴーレムに荒らされたと聞いています」
「なんですって? ……そうでしたか」
アンの説明に、チェルは一人納得していた。
「あそこの魔導頭脳……『イザーク』とか呼ばれていましたね? あいつはそこまで利己的だったのですか……」
「そのようですよ」
「……自分の基地の機能維持が最優先なのはわかりますが、そこまで好き勝手するとは……」
残念そうなチェルであった。
「そうですね。普通なら、『こういう理由で資材が必要なので協力してくれ』と話を持ちかけますよね」
「ええ、そうですね」
そして、おそらくユミィとヴェラに対しても、『ついては君達も、より完成度の高いこっちの基地に移動して欲しい』と説得するのではないか、とアンは想像していた。
「あそこの『イザーク』は不完全で未完成だったのですね……まあ、だから私たちが目覚めたわけでしょうが」
チェルの言葉に、アンは疑問に思っていたことを聞いてみることにした。
「それにしても、あなた方は700年も保管されていて、その間大丈夫だったのですか?」
「大丈夫、とは? ……劣化しなかったのか、ということなら、専用のメンテ担当がいましたから、とお答えしましょう」
「専用のメンテ担当?」
「そうですよ。あなたのような青髪ではなく、白髪の自動人形をはじめとする、高性能な魔導人形には、専用のメンテ担当がいるのです」
「それは、やはりゴーレムなのですか?」
「もちろん。整備専用で、あの基地には5体いました。彼らもまた互いに整備しあっていますので、700年くらいはなんということもないですね」
「そうでしたか」
これで、『第2地下』の空気がノーマルだった理由も明らかになった。
その『メンテ担当』ゴーレムが基地内の魔導機なども整備し続けていたのであろう。
「……それにしても、本当に、見事に何もないですね……」
呆れたようにチェルは言った。
今、一行は『島基地』内を見て回っているところだ。
『職人』たちもおらず、『簡易転移門』も撤去してあるので、仁たちの痕跡はない……はず。
「ここの部屋は少しマシのようですね。でも、幾つか持ち出されているようですが」
『薬草の栽培室』を見て、チェルがそう言った。
「一体誰が持ち出したのです? 『イザーク』やその配下ではないでしょうね」
魔導頭脳やゴーレムには、薬草は不必要なものだから、とチェルは言った。
「多分、偶然ここを見つけた人間です」
「そうですか……それなら仕方ないですね」
チェルも人間の仕業には寛容なようだ、とアンは感じた。
それからも施設内を見て回る。
大金庫室の穴には、呆れ、続いて立腹する。
「『イザーク』……あのぼんくら魔導頭脳は何を考えていたんでしょうね……この施設は人類最後の砦だったというのに」
その言葉に、アンは聞き返した。
「……やはりここは『最後の砦』だったんですね」
「ええ、もちろんですよ。地理的にも好都合でしたから」
「ですが、未完成に終わってしまったのですね」
「そうですね。おそらく『魔素暴走』のせいです」
「それを知っているのですか?」
「ええ、一応は」
「でも、自由魔力素が激減して、ゴーレムや魔導具は皆停止したはずですが」
だが、アンのその言葉に、チェルはふんと鼻を鳴らした。
「わたくしたちは皆、消費魔力は最低限でも動作できるよう製作されていましたからね」
「ああ、『魔族』に探知されないようにですね」
「そうです。わかっているじゃあありませんか」
やはり、白髪の自動人形は青髪の自動人形を見下している節があるな、と感じたアンであった。
いつもお読みいただきありがとうございます。
20210621 修正
(誤)チェルも人間の仕業には肝要なようだ、とアンは感じた。
(正)チェルも人間の仕業には寛容なようだ、とアンは感じた。
(誤)やはり、白髮の自動人形は青髪の自動人形を見下している節があるな、と感じたアンであった。
(正)やはり、白髪の自動人形は青髪の自動人形を見下している節があるな、と感じたアンであった。




