79-16 視察の手伝い
『ルトグラ砦第1地下』には今、『職人』291から300の10体と、ユミィとヴェラの『青髪の自動人形』2体がいる。
「……どうやらここはかなり急造の基地だったようだな」
「ところどころ作りが粗いですからね」
「とはいえ、大戦末期ということを考えると仕方がないのでしょう」
彼らによる基地の調査はほぼ終了していた。
続いてはゴーレムの調査……なのだが。
「……む? また、地下からゴーレムが近付いてきているな」
「2体ですね。1体は自動人形のようです」
「なにか用があるのだろうな」
そして彼らは『第2地下』からの訪問客を待ち受けたのである。
「おお、先程の汎用ゴーレムと、対人用の白髮の自動人形か」
「先程は失礼した。今回は、頼みがあってやって来たのだが、聞いてもらえるだろうか?」
「こちらに可能なことであれば、できる限り協力しよう」
「助かる。……頼みというのは、私とこの自動人形を外部に連れて行ってもらい、町を案内してもらいたいのだ」
「それは……現状を自分の目で確認するため、だな?」
「そのとおりだ」
「わかった。少しだけ待ってくれ」
『職人』291は内蔵魔素通信機で老君と連絡を取った。
リアルタイムで老君は現状を知っていたが、最終判断を下すのは仁である。
仁が状況を理解するのに15秒ほど掛かった。
「なるほど、案内を頼んできたか……。いいんじゃないか?」
『はい、御主人様。問題は誰を、ということになります』
「そうだな。……ユミィとヴェラじゃ……無理だな」
現状の町を知る者が適任なのだが、ユミィもヴェラも、それについては無知である。
『適任は……アンに頼みましょう』
「アンか。青髪だし、こういう場合には頼りになるな」
『はい』
そこで老君はアンに『知識転写』で必要な情報を転送し、装備を整えた後、転送機で『ルトグラ砦』へと送り込んだ。
ここまでで3分が経過。
* * *
「案内でしたら、わたくしめにお任せを」
地上部から下りてきた風を装い、『第1地下』に顔を出すアン。
『職人』たちやユミィ、ヴェラは内蔵魔素通信機で事情を知らされているので異議を唱えることはしない。
「おお、青髪の自動人形なら安心だな」
汎用ゴーレムの判断基準がよくわからないが、一種の『同僚』と見なしているのかもしれない、と成り行きを見守っていた仁は感じたのだった。
「わたくしめはアンと申します」
「アンか。私は……名はない、適当に呼んでくれ」
「では、汎用ゴーレムですので『ハーン』殿、と」
「それでよい、殿はいらないぞ」
「では、ハーン」
「うむ。……そしてこれが……」
「わたくしは『チェル』です」
「チェルさん、ですね。よろしく」
チェルは肩までの白髪で、目の色は青。身長は160センチほどでグラマラスな体型をしていた。
「わたくしめがお二方をご案内いたします」
「うむ、よろしく頼む」
そういうわけで、アン、ハーン、チェルの3体は『ルトグラ砦』を出、最も近い『ルトグラ』の町へ行くことになったのである。
* * *
日付は変わり、もう2月19日の朝になっていたので、見咎められることもなく町に入ることができた。
いや、ゴーレム1体と侍女服の女性2名、という組み合わせは嫌でも人目を引いていたが……。
「ここがルトグラの町です」
「セルロア王国の南部にある町ですね」
アンとの会話は、もっぱらチェルが行うことになっている。
ゴーレムであるハーンは2人の護衛という役割を演じることになるわけだ。
「なにか見てみたい場所はありますか?」
「そうですね、人が多い所がいいですね」
行き交う人を観察することで世の中の様子を推測することができるから、とチェルは言った。
「わかりました。とはいえ、ここは辺境ですから、それほど人が多いわけではありませんが」
と前置きをし、アンはハーンとチェルを中央広場へと連れて行った。
ここは文字どおり町の中心部にあり、広場周辺には露店が並んでいる。
「チェルさんは食事ができますか?」
こういう場所で人間らしく振る舞うなら、なにか軽食を食べてみせることが有益である、とアンは言った。
「もちろんです。わたくしは青髪のあなた方とは違うのです」
「そうですか」
どうやら白髪の自動人形は、青髪の自動人形に対し、優越感めいた感情を抱いているらしい、とアンは推測した。
そうした『感情』を抱けるということは、すなわち優れた『制御核』を持っているということである。
「ではこれでも食べてみましょう」
アンは露店の1つへ行き、肉の串焼きを2串買ってくると、1つをチェルに手渡した。
そして設置されているベンチの1つに腰掛ける。
「コカリスクの肉ですね。1串12トールでした」
「ふうん、お金の価値はそれほど変わっていないようですね」
日本円でおよそ120円。
これを相応の価格だとチェルは言った。
「食べてみましょう」
「アン、あなたに味がおわかりになるの?」
「ええ、わたくしめには味覚センサーが付いていますから」
「ふん、カスタマイズされた機体というわけですね」
そう言いながら串焼きを食べていくチェル。
「なかなかの味付けですね。わたくしの製作者様も好みそうな味です」
素直に感心してみせるチェルであった。
アンは串焼きを食べ終わると、今度は飲み物を買いに行く。
そしてシトランジュースの入った紙コップを両手に持って戻ってくる。
「シトランジュースです。1杯10トールでした」
量は180ミリリットルくらい。こういう場所としては標準的な値段だ。
「あら、ありがとう」
チェルはそれを受け取り、一口。
「甘いですね。果汁の割合は50パーセントほどで、水と砂糖と香料を足していますね」
分析結果は確かなものだった。
アンとチェルはベンチに座り、ジュースを飲みながら話をする。
護衛という役割を演じているハーンはそんな2人の後ろに立つ。
「……道行く人の顔は明るいですね。世の中は平和なのでしょうね」
「ええ。それなりに治まっていますよ。もちろん、罪を犯す人はどこの国にも一定数いるのですが」
「そのへんも変わっていませんね」
朝の光の中、行き交う人々を見つめるチェルの目は優しげであった。
いつもお読みいただきありがとうございます。
本日は 異世界シルクロード(Silk Lord) も更新しております。
https://ncode.syosetu.com/n5250en/
お楽しみいただけましたら幸いです。
お知らせ:6月19日(土)早朝から20日(日)昼過ぎにかけて不在となります。
その間レスできませんのでご了承ください。




