79-08 あちらの事情とこちらの計画
『ルトグラ砦』の地下施設を統括する魔導頭脳は考えていた。
不倶戴天の敵である魔族の女を救出していった者たちについてである。
《……未知の武器を使っていたようだが、あれはいったい……》
従騎士レイが振るった剣のことである。
超高速で振動する、ハイパーアダマンタイトの剣。
ほとんどの物質を、触れただけで切り裂いてしまうほどの威力がある。
魔導頭脳はそこまでは分析できなかったが、何か特殊な効果で切れ味を増しているということまでは推測していた。
《それに、あの空を飛ぶ船》
重力魔法を使っているようには見えないが、いずれにせよ敵勢力のものと思われる。
理由は、救出した魔族の女がそこへ運ばれていったからだ。
《空にいるというのは厄介だ》
当時、試しに『火の弾丸』や『射出器』による攻撃を行ったが、届かなかったのだ。
《それに、対物用の結界らしきものもあったようだ》
敵は数百年の間に、長足の進歩を遂げたようだ、と魔導頭脳は考えていたのである。
《……では、人類はどうなったのだ?》
考えても答えの出ない問いである。
1つには、今の魔導頭脳には、目となり耳となり、また手となり足となる『インターフェース』的な自動人形がいないからだ。
ゆえに外部の情報が断片的にしか入ってこない。
《資材を調達した施設にいた自動人形が使えればよかったのだがな》
基本的に、施設付きの自動人形を別の施設で使うことはできないようになっているのだった。
そのため、今の魔導頭脳は中途半端に外界の情報を持っている状態である。
大陸暦何年か。今の国名は。そのくらいは調べることができた。
だが、今の王朝や、文化程度などは不明のままである。
《誰か、友軍が近くにいないものか……》
しかし、そう都合よくはいかないのが世の習い。
魔導頭脳に連絡を取ってくるものは皆無。唯一、島の地下にあった施設の自動人形を除いて。
《あれらを破壊したのは早計だったな。今からでも回収できないか、試してみよう》
そう考えた魔導頭脳は、戦闘用ゴーレム2体を送り出した。
《これで残りは5体か》
先日、白銀の鎧を着た騎士に斬られたのが3体。
回収し、修理をさせているが、完了までにはまだ10日くらいは掛かりそうである。
《あと、今できることは……?》
敵の侵攻を牽制する必要がある、と魔導頭脳は判断し、『ギガース改』を出すことにした。
先日、島の地下施設から接収した『魔力核』2個を、早速使用することにした。
砦外に、2体の岩巨人が立つ。
《……うむ、やはり改良はなされているようだな》
少なくとも、勝手にどこかへ行ってしまうようなことはなかった。
それだけでも改良のあとが見受けられる。
敵味方の区別がつくかどうかは怪しいが、今この砦に近付いてくるのは敵の可能性が高いので、あまり気にしない魔導頭脳である。
《うむ……2機の飛行物体は何も仕掛けてこないな。向こうも様子見、ということか。ギガースのことも知っていると見える》
互いに睨み合う状態であった。
* * *
蓬莱島では、仁と老君が話し合っていた。
「やはり、あのギガースはかなり改良されているようだな」
『はい、御主人様。暴走していないというだけでも、それが察せられます』
「だな」
『それから、先程2体の戦闘用ゴーレム……エイラさんたちを襲ったのと同じ型のもの……が、南へ向けて走り去りました』
「追ったのか?」
『いえ、特には。ですが『覗き見望遠鏡』での追尾はしております』
「今はそれでいいか。……行き先の見当はついているか?」
『はい、御主人様。おそらくは救援を頼みに行ったか、物資の調達に行ったか、だと考えます』
「そうだな……救援を頼みにいったとすると、南にまだ似たような基地があるということかな?」
『そうですね。ですが、『島基地』以外にはないと思いますが』
「だとすると、向かったのは『島基地』ということになるのか?」
『はい、御主人様。ですがそれは不可能です』
「だな」
つい昨夜のことだが、転移魔法陣を無効にしたばかりである。
ゆえに『島基地』へ転移することは不可能だ。
それに気付くのはもう少し先であろう。
「こうなると、攻略の方法と手順を少し見直したほうがいいかもしれないな」
『はい、御主人様。……電撃作戦を考えておりましたが、今の状況ではそれはできません』
「そうだな。こうなったら、向こうが繰り出してくる防衛部隊をことごとく無力化してやろうか?」
『それも1つの手段ですね。とにかく、追い詰めてやるのがよろしいかと』
「追い詰める?」
『はい、御主人様。向こうの魔導頭脳はデータ不足で、判断力が鈍っているようですから』
「なるほどな」
『向こうには、『秘書自動人形』がいませんから』
「そうみたいだな」
老君が『覗き見望遠鏡』で調べたところによると、『敵基地』にはゴーレムはいたが自動人形がいなかったのだ。
つまり、対人インターフェースがないということで、情報収集が不十分であろうと思われる、と老君は言うのである。
「自動人形ではない対人インターフェースはないのかな?」
『おそらくないでしょうね』
「どうしていい切れる?」
『コンタクトを取ろうという試みをしないからです』
「それもそうか」
周囲の町へそうした使者を送り出さないことを見ても、対人インターフェースを持たないことがわかるというのだ。
『おそらくですが、あの魔導頭脳は、外の世界が彼らのいう『魔族』に支配された世界ではないかと危惧している可能性があります』
「だから情報を欲しているわけだな」
『はい。ですので、あの送り出されたゴーレムは、そうした手段を求めているのではないかと思われますね』
「……つまり、『島基地』で自動人形を手に入れようと、か」
『はい、御主人様』
「……使えるな」
『使えますね』
仁と老君は、閃いた発想を形にすべく、相談を行うのだった。
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