78-28 増援
黒い革表紙の書物は手記であった。
『忍部隊』は苦労してページをめくり、内容を確認していく。
〈……なるほど、ここはやはり、先程『忍参』が言ったとおり、『最後の砦』だったようだな〉
〈ですね。……ディナール王国の密命を受け、戦場から最も遠いこの地に、人類の『最後の砦』を築いたわけですね〉
〈そうなるな。……この手記によれば、未完成に終わったようだ〉
〈完成する前に『魔素暴走』が起きて、戦争が終結したわけですね〉
〈同時に、この地の『自由魔力素濃度』が低下して、作業を続けられなくなったのだろう〉
〈作業者も魔導士だとしたら、亡くなったのでしょうね〉
〈そうなるな〉
そのため、この『最後の砦』は未完成のまま放置されたというわけであった。
〈だが、幾つかの魔導具は、低下した『自由魔力素濃度』でも動いていたようだな〉
〈そうですね。清掃用ゴーレムとか、空調とか〉
〈出来がよかったか、あるいはさほど自由魔力素を必要としていないか、だな〉
それが幸いして、この施設内はこざっぱりとした状態が保たれているようだ。
〈……この手記を書いた人は筆無精だったのかな〉
〈あまり詳しく書かれていませんからね〉
そう、残念ながら、この施設の詳細については手記には書かれていなかったのである。
〈この手記は、ここを見つけた連中も読んだのだろうしな〉
〈それは間違いなさそうだ〉
この部屋は、どうやら作戦会議室的に使われているらしい、と『忍部隊』の面々は想像した。
多少の使われた形跡が残っているからである。
その『見つけた連中』というのが、『捜理協会』もしくは『公平党』の奴らであろうことは容易に想像がつく。
〈……こちらに、施設の見取り図がありました〉
〈おお、そうか〉
だが、見取り図と実際の間取りの間に、多少の違いがある。
〈これは、おそらくは未完成ゆえだろうな〉
〈そうだろうと思います。それはそれとして、ここを見てください〉
〈うん?〉
〈ここに、重要なものを保管する大金庫のような倉庫があります〉
〈なるほど。実際はどうなっている?〉
『忍拾』が見つけた、大きな違い。
それは奥の部屋の突き当りに設けられた、壁一面がハッチになっているような大金庫であった。
しかも、全金属製だ。
〈……アダマンタイト……ではないな。合金鋼か〉
〈そのようです。さすがにアダマンタイトは『魔導大戦』優先だったのでしょう〉
〈そうかもしれないな〉
〈何か書かれているな……『この扉を開けられるのは『王家の血を引く者』だけである』か……〉
〈王家の血を引く者?〉
〈つまり、王家の血を引く者特有の魔力パターン、ということかな?〉
『その可能性が高いですね』
ここで老君が通信での会話に参加した。
『比較的おとなしい行動をしている『公平党』が、どうしてメルツェさんの誘拐を企んだのか、今ひとつ納得のいく理由が見つからなかったのですが、これでわかりました』
各国の王家……ショウロ皇国は皇帝家であるが、その血統はディナール王家まで遡れるのである。
さすがに活動拠点であるセルロア王国の王族に連なる者を誘拐することはせず、ショウロ皇国でたまたま情報を掴んだメルツェに白羽の矢が立ったと考えるのが自然であろう。
『そうしますと、大金庫の中に何が入っているのか、興味が湧きますね。……調べてみましょう』
老君は『覗き見望遠鏡』を使い、大金庫の中を調べ……られなかった。
『弱いとはいえ、『魔法障壁』が張られていますね』
『覗き見望遠鏡』は自由魔力素波つまり魔力波を使うので、『魔法障壁』内は見通せないのである。
〈ならば開ければいいだけのことですね〉
〈王家の血が、というのなら、『魔力模倣機』がありますし〉
メルツェの一件があったので、ショウロ皇国皇帝家に特有の魔力パターンは把握済み。
危険も少ないと判断した老君は、『ランド101』に『魔力模倣機』を持たせ、『忍部隊』のいる場所へと送り込んだのである。
* * *
「お役目ご苦労さまです」
送り込まれたランド101は、まず先任の『忍部隊』に口頭で挨拶をした。
対して『忍壱』は内蔵魔素通信機で応える。
〈早速、この扉を開けていただきたい〉
〈了解〉
内蔵魔素通信機で返答したランド101は、手にした『魔力模倣機』を作動させた。
〈おっ?〉
〈扉が開くぞ〉
大金庫のなかでロックが外れた音がし、ゆっくりと扉が開いていく。
およそ700年、誰も開けたことがないためか、軋みながら、である。
大金庫の中に入っていたものは……。
〈……なにもない?〉
なんと、大金庫は空っぽだったのである。
〈未完成の施設だから、まだ入れていなかったのか?〉
〈その可能性はあるな……〉
〈いや、ならば『魔法障壁』が作動していたことや、わざわざロックしてあったことがおかしい〉
意見が飛び交ったが、
〈いや、あれを見ろ!〉
〈何?〉
『忍弐』が指差した方向には、『穴』が開いていたのであった。
〈逃げ出した? あるいは盗まれていた?〉
〈それは穴を調べればわかるだろう〉
ということで、ランド101には周囲を警戒してもらい、『忍部隊』全員で金庫内を調べていく。
〈……この穴は外から開けられたものだな〉
〈うむ、その可能性が大だ〉
〈合金鋼だから可能ではあるな〉
総アダマンタイトであったら難しかったかもしれないが、所詮は合金鋼、穴を開けられてしまっていた。
〈となると、『盗んだ犯人』と『盗まれたもの』の2つについて調べなければならなくなったわけだ〉
〈穴の大きさからすると、盗まれたものはそれほど大きくないようだが〉
だいたい、人1人がやっと通れる程度の穴であるところから、盗まれたものの大きさが推測できるわけだ。
〈まあ、長さについてはわからんがな〉
太さは人並みで、長さがものすごく長いヘビのようなもの、ということもありうると『忍漆』が言った。
〈穴の先はどこに通じている?〉
〈隣の部屋のようだな〉
〈そちらを調べてみよう〉
そういうことになった。
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本日5月23日(日)は14:00に
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