78-07 祖母
昼食の終わる頃、『ハリケーン』はクリューガー山脈の近くまで来ていた。
高度は山脈より少し高い程度なので、山肌の雪がよく見える。
所々には氷河も掛かっているのが見えている。
今は雪を被っているので、それと知らなければ雪渓と思ってしまいそうだが。
「うわあ……素敵な眺めですねえ……」
「このような景色を見ることができようとは思っておりませんでした」
「綺麗よねえ」
メルツェとイェニーは、それぞれの言葉で感動を表している。ルビーナも雪山の景色に目を奪われていた。
ダイキとココナも、まだまだ空の旅には感激するようだが、子供たちの手前、平静を装っているようだ。
「やっぱり空を飛ぶのっていいなあ。飛行機で飛んだらどうなんだろう」
ゴウもまた、空を飛ぶ爽快感に夢を口にしていた。
「そうだな、ゴーレムが乗る飛行機はもう作れるんだから、人が乗る飛行機まではあと一歩だ」
「はい!」
仁に励まされ、大分元気が出てきたらしいゴウ。
「頑張ります!」
「その意気だ。……人が乗るなら、安全性にこれでもかと気を配らなきゃな」
「はい!」
「脱出用の転移門が一番かな」
「そうなんでしょうね」
「まあ、焦るな。一歩一歩進んでいけばいい」
「わかりました」
やはり魔法工学の話になるとゴウは生き生きしてくるな、と仁は微笑ましく思った。
そこで、思わぬヨヒア子爵の来訪によって宙に浮いたままになっている『助手ゴーレム』について、少し話をすることにした。
「景色を見ながらでいいから聞いてくれ。……俺の代で改善した技術の1つが『触覚』だ」
「はい」
「これを導入したことで、力の制御がやりやすくなり、制御核の処理能力にも余裕が生まれたんだ」
「わかります」
「当時……サキのために助手自動人形『アアル』を作ろうとしていたんだがな」
「あ、聞いたことがあります」
「そうか。……その時、幾つかやり方を考えたんだが……」
仁は当時を思い出しながらゴウに語ってやった。
「……で、今一般的なのは『歪センサー』を使うやり方だろう?」
「そうですね。……あの技術にそんな歴史があったんですね」
ゴウはこうした由来の話を聞くのも好きなようで、目を輝かせながら仁の話を聞いていたのだった。
「あまりこっちの話に夢中になると、せっかくの景色を見逃すぞ」
「あ、そうですね。……でも、見逃したら次は自分で作った飛行機に乗って見に来ます」
「そうか」
「はい!」
そう言ってゴウと仁は笑い合うのだった。
* * *
一方、ルビーナ、メルツェ、イェニーの3人は景色を見ながら和やかに談笑している。
イェニーの雰囲気に、母のいないルビーナも母性のような何かを感じたようで、短時間のうちに懐いてしまっていたのだ。
メルツェはもちろん、母親の友人なので叔母のように慕っている。
ダイキとココナはエルザと話をしながら風景を堪能していた。
「今回は行けないけれど、クリューガー山脈の向こうには、滅んだ都市があるはず」
バッタルフやナミンテといった都市のことだ。
その昔、仁やサキらと訪れたことを懐かしく思い出しつつ、ダイキとココナに簡単な説明をしてやるエルザであった。
* * *
ホープが操縦する『ハリケーン』は、クリューガー山脈で西に進路を変え、ゾイカータ山とココモ山の鞍部を抜け、ハリハリ沙漠の東端をぐるりと回って東に向きを変え、ロイザートへと戻る。
町の上から北部山岳地帯へ。北部山岳地帯から沙漠へ。そして沙漠から再び町の上へ、と、移り変わる風景に、ゴウ、ルビーナ、メルツェ、イェニー、ダイキ、ココナらは心を奪われたようだ。
そして午後2時半、『ハリケーン』はロイザートの屋敷屋上に無事着陸した。
「ああ、楽しかった! ジン様、ありがとう!」
「ジン様、ありがとうございました」
「ジン様、今日のことは一生忘れませんわ」
それぞれルビーナ、メルツェ、イェニーである。
「いやいや、楽しんでくれたならいいんだ」
仁としても、思った以上にイェニーが馴染んでくれたようなので、これだけ喜んでもらえたなら連れ出した甲斐がある、と思っていた。
* * *
そしてティータイムとなる。
お茶は蓬莱島産の玄米茶。トパズ102が淹れてくれた。
お茶請けは芋ようかんとおかき。
「これ、初めて食べたけれど美味しいですね」
おかきを食べたメルツェの感想である。
ミツホと違い、ショウロ皇国では『餅』をあまり食べないため、乾燥した餅を砕いて油で揚げ、塩を振った『おかき』つまりかき餅はあまり一般的ではないのだった。
「私もご一緒させていただいてよろしいのでしょうか……」
そして、イェニーはまだ『一緒に食べる』ことに慣れないようだ。
「いいのだ。給仕はゴーレムメイドがしてくれるのだから、イェニーはメルツェと一緒に楽しんでくれ」
「ありがとうございます」
そんな和やかなお茶の時間、仁はそっと席を立った。
皆、お手洗いかな、と、あまり気に留めなかったが、実際には転移門で『オノゴロ島』へ向かったのだ。
もちろん、ルビーナの祖母アマンダを連れてくるためである。
前夜にエルザといろいろ相談した時には、こっちの社会にあまり馴染みのないアマンダを連れて来るのはどうか、などと話していたのだが、もう少しルビーナをメルツェの遊び友達としてこっちに置いておくとなると、唯一の肉親であるアマンダを無視するわけにもいかなくなる。
そこで仁自らアマンダを迎えに行ったわけだ。
「まあまあ、ジン様にお迎えいただくなんて、光栄です」
事前に、老君から『テスタ』へ、『テスタ』からアマンダへと話を通しておいてもらったので、ことはスムーズに運んだ。
『オノゴロ島』の転移門室では支度を整えたアマンダが仁を待っていたので、すぐにとんぼ返りすることができたのである。
そうなると、仁が席を外していたのは2分ほどとなり、それこそトイレに立ったくらいの時間で戻ってきたことになる。
アマンダを伴って戻ってきたことに最初に気が付いたのはやはりルビーナであった。
「お、お祖母ちゃん!?」
「え?」
ルビーナの声に、ダイキとココナも気が付き、顔を上げた。
「ダイキ、ココナ、メルツェ、イェニー、紹介するよ。ルビーナのお祖母さんでアマンダさんだ」
「アマンダ・ギャレットと申します。この度は孫がいろいろとお世話になりまして、お礼を申し上げます」
皆に挨拶をするアマンダであった。
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本日5月2日(日)は14:00に
異世界でホムンクルスになっていたのでスローライフを目指す
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20210502 修正
(誤)アマンダを伴って戻ってきたことに最初に気が付いのはやはりルビーナであった。
(正)アマンダを伴って戻ってきたことに最初に気が付いたのはやはりルビーナであった。
(誤)「いやいや、楽しんでくれたならいんだ」
(正)「いやいや、楽しんでくれたならいいんだ」
20210504 修正
(誤)「私もご一緒させていただいてよろしかったのでしょうか……」
(正)「私もご一緒させていただいてよろしいのでしょうか……」




