77-47 閑話129 短剣のこと
大陸暦3475年7月2日。
ショウロ皇国皇帝ヴァイスベルグ・エルンスト・フォン・ショウロ、通称エルンスト1世に、長男であるヴィンフリート・ショウロが生まれた。
大陸暦3480年、ヴィンフリート・ショウロは5歳になる。
* * *
「5歳か……」
3480年7月2日。
蓬莱島の研究所で、仁は何やら考えていた。
「あなた、あなたの世界でいう、『七五三』のお祝いを考えているの?」
「ああ、エルザ。そうなんだ。……やっぱりおもちゃかな」
「ん、いいと思う」
「よし」
仁は何やら思いついたらしく、工房に籠もった。
……といっても1時間ほどであるが。
そして細長い包みを抱えて出てきた。
「エルザ、礼子、宮城へ行くぞ」
「はい、あなた」
「はい、お父さま」
3人はロイザートの屋敷を経由し、ショウロ皇国宮城へと向かった。
ショウロ皇国の名誉貴族であり、『魔法工学師』でもあり、なおかつ『帝室名誉顧問』である仁は、アポイントを必要とせずに皇帝への謁見を申請できる。
「おお、ニドー卿、奥方。レーコ卿も、ようこそ」
31歳になるエルンスト1世は仁たちを歓迎した。
「陛下、フリート君の5歳のお祝いに、こんなものを作ってみました」
そう言って仁は包みを手渡した。
ちなみにフリートとはヴィンフリートの愛称である。
「おお、『魔法工学師』手作りのお祝いとは嬉しい」
皇帝は上機嫌で贈り物を受け取った。
「これはフリートに開けさせよう。あと少しで公務も終わりだから、少し待っていてくれるかな」
「ええ、もちろんです」
公務が終われば私人として……とまではいかなくとも、堅苦しいやり取りをしなくて済むからな、とエルンスト1世は笑った。
* * *
「ジンおじさん、ありがとう!」
宮城内にある、皇帝の家族が住む『離宮』に仁たちは招かれていた。
そこでエルンスト1世は仁がくれた包みを長男ヴィンフリートに渡したのである。
「開けてみてもいい?」
「もちろんだとも」
「わあい」
リボンを解き、包み紙を剥くと……。
「わあ、短剣だ!」
仁謹製の短剣が出てきた。
大きさはヴィンフリートの手に合わせてあるため、小さい。
全長は20センチほどで、柄は6センチ。
全体的には白で統一されているが、鞘には小さいが7色の宝石が散りばめてあり、柄頭には透明な水晶があしらわれている。
「これって……」
「ほう?」
鞘から短剣を抜けば、刀身があらわになる。
半透明の物質……発泡した『地底蜘蛛樹脂』でできており、軟らかいが壊れにくい。
軟らかいので切れないため、安全である。
「魔力を流してごらん」
「魔力を?」
ヴィンフリートには魔法の才能があり、4歳から魔法を学び始めていた。
仁とエルザも半月ほど、それぞれ工学魔法と治癒魔法の、基礎の基礎を指導したこともあるくらいだ。
なので魔力を流すなど、ヴィンフリートにとってはお手のもの。
「えーい! ……うわあ……!」
「おお!」
ヴィンフリートが魔力を流すと、半透明な樹脂でできた刀身部分が金色に光り輝いたではないか。
それは柔らかな光。明るいが眩しくはない。
「かっこいい!」
大喜びで短剣を高く差し上げるヴィンフリート。
やっぱり男の子はこういうの喜ぶよなあ、と思いつつ仁はその様子を目を細めて眺めるのだった。
「ニドー卿、これは?」
はしゃぐ息子が光る短剣を持って遊び回るのを驚いた顔で見ていたエルンスト1世が尋ねた。
「ええと、皇帝家の魔力を流すと光るようになっています。ですので、まあ殿下だけの短剣ですね」
もちろん陛下や太上皇帝陛下にも光らせることはできます、と仁は補足。
「ふうむ……」
皇帝エルンスト1世は何やら考え込んだようであった。
* * *
この短剣はヴィンフリートの生涯の宝物となり、その子へ、そしてまたその子へ、と代々伝えられていった。
そして、ある時。
既に仁も没して久しい時代。
ショウロ皇国皇帝家に危機が訪れていた。
後継者問題である。
時の皇帝には皇后と皇妃、2人の妻がいた。ちなみに、現代日本と違い、『皇后』が正妻で、『皇妃』は第2夫人となる。
そして皇后には女の子が、皇妃には男の子が生まれていた。
このまま順当に行けば、皇妃の産んだ男の子が皇太子になる……はずであった。
しかし、1つの黒い噂が宮城内に飛び交っていたのだ。
それは、皇妃の産んだ男の子は皇帝の子ではない、というもの。
単なる噂ではあったが、『火のないところに煙は立たない』という。
男の子は皇妃には似ていたが、皇帝には似ていなかったのだ。
DNA検査など存在しない世界である。
確かめる術は親に似ているかどうか……が決め手になるような時代。
「この短剣は皇帝家の魔力を流すと光るという。これを光らせられるかどうか試させよう」
製作者である仁が没して100年以上が経っており、元々はおもちゃとして作られたことを知っている者は皆無。
ただ皇帝家の血を引くものにしか光らせられないという言い伝えだけが残っていた。
そして。
「……駄目だな」
渦中の人、皇妃が産んだ男の子は短剣を光らせられなかったのである。
その一方で、皇后の子は女の子ではあるが、見事に短剣を光らせることができたのである。
そのため、皇后の子が女皇帝となり、皇帝家の血筋は守られたのであった。
そしてこの事があって以降、この短剣が皇帝家に伝わる至宝であるということになったのだ。
* * *
そしてまた70年ほどが過ぎ、またしても後継者問題が起こっていた。
「この短剣を光らせられれば、お前は皇帝家の血を引いていることが証明される」
「……できました」
「おお、まさしくそなたは皇帝家の血筋だ!」
そんなこともあった。
短剣のおかげで危機を脱した皇帝家は、この貴重な短剣を宝物庫の奥にしまったのである。
* * *
そしてまた月日は流れ……。
平和な時が過ぎたためか、短剣の真の存在意義はおろか、どんなことができるのかも失伝して久しい、そんな時代。
「この短剣を与えよう。この短剣を持つ者は私の子である、その証明としてな」
「陛下、そんな、畏れ多い……」
「いいのだ。どうせほとんど使っていない儀礼剣だからな」
とそんな風に、『短剣の価値を知らない皇帝家』になりつつあったのである……。
* * *
そして再び、短剣の本当の由来が『3代目魔法工学師』仁の手によって明らかになり、同時に皇帝家の至宝として、但し書きとともに保管されることとなったのである。
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本日は 異世界シルクロード(Silk Lord) も更新しております。
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お楽しみいただけましたら幸いです。
20210425 修正
(旧)そして再び、短剣の本当の機能が『3代目魔法工学師』仁の手によって明らかになり、
(新)そして再び、短剣の本当の由来が『3代目魔法工学師』仁の手によって明らかになり、




