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マギクラフト・マイスター  作者: 秋ぎつね
77 仁とショウロ皇国篇
2931/4342

77-46 快気祝い

「はい、どなた?」


 ドアが5センチほど開いて、女が外をうかがいながら返事をした。


「ええと、向かいの部屋に泊まっているクライネといいます。ちょっと盗難事件がありまして……」


 盗難、という単語を聞いた女は、急いでドアを閉ざそうとしたが、『クライネ』は足の爪先を隙間に挟んでそれを阻止。


「ちょっとだけ、話を聞いてほしいんですが」

「……話す事なんかありません!」

「いえ、そちらにはないでしょうけれど、こちらにはあります。ちょっと中に入れてくれませんか?」

「その必要はありません。あんまりしつこいと人を呼びますよ?」


 だが『クライネ』はしれっとしている。


「どうぞ。その場合困るのはあなたでしょうけれどね」

「どういうことよ!?」

「……短剣」

「!?」


 ぼそっと呟いた『クライネ』の言葉に、女はビクッと反応し、ドアを押さえる力が僅かに緩んだ。

 すかさず『クライネ』は足をドアに突っ込み、さらに身体をねじ込んで女の部屋に押し入ったのである。


「な……なんなんですか、あなたは! 本当に、人を呼びますよ?」

「どうぞ。私は皇帝家に依頼され、短剣を取り戻し、犯人を捕まえに来ました」

「!!」


 『クライネ』が目的を明らかにすると、女は身を翻し、窓から飛び出そうとした。

 ……が。


「おっと、そうはいかないぞ」


 そこには『アルフレート』が待ち構えていたのであった。


「ううう……」

「諦めなさい、『公平党(エキーター)』さん」

「なっ……なんでそれを!?」

「もうわかっています。……そのバッグの2重になった底に短剣が隠してあることも」

「……あんたたちはいったい何者?」

「皇帝陛下の代理人、と言っておきましょう」

「……」


 女から力が抜けた。諦めたようだ。

 『クライネ』は用意していたロープで女を後ろ手に縛った。

 魔法行使ができないよう、『魔力妨害機(マギジャマー)』を首に掛けた。

 そして『アルフレート』と共に部屋を出、女を連行していく。

 宿の主人には事情を話し、迷惑料としてお金を置いてきた。


「確保完了」


 時刻は午後6時15分。


「ね、ねえ、まさか夜通し歩かせる気じゃないでしょうね?」


 今、『アルフレート』と『クライネ』は捕縛した女を連れて街道を西へと歩いているところである。

 日が暮れた空には星が瞬いていた。

 そんな中、立ち止まることなくずんずんと歩くものだから、女も不安になるというものだ。


「大丈夫だ。じきに迎えが来る」

「迎え?」

「ほら、見えた」


 見上げた『アルフレート』の視線をたどれば、暗い夜空に星とは異なる光が見えた。

 それはぐんぐんと近付いてくる。


「チーフの『ハリケーン』だ」

「はりけーん? ……『ハリケーン』……って! 『魔法工学師マギクラフト・マイスター』の飛行船じゃ?」

「知っているのか?」

「もちろんよ。つい最近も、なんとか記念館を建てたじゃないの」

「『アドリアナ記念館』だな。……ほら、もう着陸するぞ」


 ウルムの町から1キロほど離れた荒野に、『ハリケーン』は着陸した。


「ご苦労だった、『アルフレート』、『クライネ』」

「ご足労ありがとうございます、チーフ」

「その女性が犯人か?」

「はい。証拠もこのバッグの中に」

「……」


 仁に見つめられた女は睨み返す。


「そう、あんたが『魔法工学師マギクラフト・マイスター』……」

「そういう君は?」

「あたしはアデリナ。アディとも呼ばれてるわ」

「偽名じゃないだろうな?」

「なんでそう思うの?」

公平党(エキーター)の工作員ならそれくらいしていてもおかしくないからな」

「なるほどね。何もかもお見通しってわけね」

「いや、何もかも、ってわけじゃないがな……まあいい、乗れよ」


 『アルフレート』と『クライネ』に付き添われ、アデリナは『ハリケーン』に乗り込んだ。

 そして『ハリケーン』は静かに離陸。

 機首を西に向け、一路ロイザートを目指した。

 今回も非常用最高速であるマッハ2を出して。


 6時半を少し回った頃、『ハリケーン』はロイザートの屋敷に到着。

 そこには、ダイキから連絡を受けてやって来た警備兵が仁たちを待っていた。


「ジン様、その女が?」

「そうらしい。これが証拠のバッグだ。底が二重になっていて、そこに短剣が隠してある。ただし今はダミーの短剣だけど」

「お預かりします」


 警備兵の1人がアデリナを、もう1人がバッグを受け取り、護送用の馬車に乗せて宮城(きゅうじょう)へと戻っていったのだった。


*   *   *


「……これで終わったかな?」

「ジン様、お疲れさまでした」


 ほっとため息を漏らした仁を、ココナがねぎらった。


「夕食の支度ができております」

「お、ありがとう」


 屋敷の食堂にはエルザ、ラインハルト、ベルチェ、ゴウ、ルビーナ、そして体調が戻ったメルツェがいた。

 仁、ダイキ、ココナが席に着けば、夕食が始まる。


「まずは、メルツェ嬢の全快を祝して。そして事件の終息を祝って」


 ホスト役であるダイキが宣言し、乾杯を行う。

 ゴウ、ルビーナ、メルツェら未成年者は先日購入したブドウ水、その他はやはり先日購入したワインだ。


「乾杯!」


 皆が唱和し、グラスを掲げる。


「メルちゃん、これ美味しいわよ」

「あ、ほんと」


 ルビーナとメルツェはもう仲よくなっていた。

 ゴウはちょっと複雑そうな顔でそんな2人を見ている。


「ゴウ、まあしょうがないよ」


 仁はゴウを慰めた。


「あ、ジン様」

「ゴウやルビーナくらいの年頃だと、同性同士の方が気が楽な面があるからな」

「そうなんですか?」

「ん、確かにあると、思う」


 エルザにもそう言われ、ゴウは苦笑いを浮かべた。


「それにルビーナも同年代の同性の友達ってあまりいないみたいだしな」

「ああ、それは確かに」

「まあ、それはゴウも同じだろうけど」

「うぐっ」


「でも、近いうちに社交界にも顔を出すようになれば、自然と友人もできる……かも」


 エルザが変な慰め方をした。


「それも面倒そうなんですけど」

「ん、仕方ない。それも貴族のあり方」

「大丈夫だよ。ダイキは、そういう面倒ごとは最低限に抑えてくれるから」

「だといいんですけど……」


 夜空には満天の星。

 ロイザートの夜は、平和に更けていくのだった。

 いつもお読みいただきありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[一言] >これで終わったかな? いや、何も終わってねえじゃんw 公平党っていう誘拐事件を起こした組織の事ちゃんと調べなさいよ 以前にも、そんな組織が二度も大きな事態を引き起こして、片方では仁が亡くな…
[良い点] >盗難、という単語を聞いた女は、急いでドアを閉ざそうとしたが、『クライネ』は足の爪先を隙間に挟んでそれを阻止。 アルフレートとクライネから、黒いスーツとサングラスなイメージが。 それも、立…
[一言] これにて一件落着ですかねー 仁が関わることで早期解決できてよかったですが 逃げ切られた後だったら中々に面倒なことになってたでしょうなあ
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