76-12 各国の技術 1
歴史的な技術の展示はまだ終わりではない。
「御覧ください。これは大きな業績といえましょう」
「おおお!」
「これは!!」
セルロア王国が再現した『転移門』を仁は示した。
仁が使っているものに比べたら、まだまだ運用効率が悪いが、それでも設置すれば世界のどこへでも移動できるのは大きい。
今後の世界には不可欠な技術として、同時にかつてのセルロア王国の悪いイメージを払拭するため、この部屋にその旨を明記した仁なのであった。
そして『ノルド連邦』のコーナーには、マリッカの業績を称えるため、『風力式浮揚機』の初期型、そのレプリカも展示してある。
「なるほど、『森羅』のマリッカ殿が、風力式浮揚機の原型を開発なさったのですね」
「偉大な発明ですなあ」
仁としても、魔法工作士としてのマリッカの名を歴史に残したかったのである。
ゆえに、招待客たちが感心するさまを見て満足した仁であった。
* * *
その次に仁が招待客たちを案内していったのは真南にある部屋。
「ここは入れ替えもある展示室です」
前置きをして説明を始める仁。
「各国の代表的・歴史的な技術や、寄贈された、現代を代表する作品を展示しております」
「おお!」
『アドリアナ記念館』を建設することを『世界会議』で告知して以来、かなりの数の作品が送られてきていた。
それらには『お眼鏡に適いましたら是非とも記念館の賑やかしに展示してください』というような文言が添えられていた。
同時に、『相応しくないと判断されましたなら廃棄してくださって構いません』とも。
とはいえ、各国の面子が掛かっている作品である。
どうしようもないほど酷いものはなかった。
「まずは『アヴァロン』から寄贈された『真空気球』の模型ですね」
「ほう……」
「気球は、空気より軽い気体……安全性を考えてヘリウムを気嚢に満たすわけですが、この気球は……他にいい呼称がないので気球としますが……気嚢の内部を真空にし、大気圧に対抗するため結界で気嚢が潰れないようにしているわけですね」
「なるほどのう……」
こうした技術を一般公開することによる『パクリ』のリスクだが、『世界会議』が比較的簡単な『特許制』を会議国に対し広めているので、公認の工房で模倣品が作られる気づかいはない。
「数パーセントではありますが、いわゆる『浮く力』が強くなります」
「そうであろうな」
「こうした積み重ねが大事ですよね」
「……それにしても、さすが最先端を行く『アヴァロン』ですなあ」
* * *
「次は『懐古党』から寄贈されました」
「ほう、これは……」
「見事な造形ですな」
そこに飾られているのは家庭用ゴーレム。
かつて『統一党』だった頃から、抜きん出たゴーレム製造技術を有していたのだから、これは当然かもしれない。
「中性的な体格ですな」
「力は人間の2倍ほど、皿洗いや洗濯なども可能……これは素晴らしい」
疑似的な『触覚』を有し、壊れ物の扱いにも長けている、と説明書きがある。
この『触覚』を有するという一文に、技術関係者は色めき立った。
「触覚の再現……確かにそれなら繊細な作業もこなすでしょうな。しかし……どうやって?」
「まるで見当がつきませんね……」
「ジン殿、どうお考えですか?」
考えてもわからず、見当もつかないので、仁に質問が回ってくる。
もちろん仁はわかっており、
「簡単に言いますと、体表面を弾力ある素材で覆い、加えた力に対する変位もしくは変形量をフィードバックしているようですね」
これにより脆い物に対しても接触面積を増やすことができ、かつ対象物の変形を知ることで力加減を可能にしている、と仁は言った。
「……しかし、言うは易く……ですね」
技術系の招待客は、それを実現するには相当の技術がなければならないことを察し、改めて『懐古党』の技術の高さに感心していたのだった。
* * *
「こちらはクライン王国から寄贈されました最新型のポンプです」
「ほう……ふむふむ」
「経年劣化を防ぐため、表面に軽銀がコーティングされています」
軽銀も単価がかなり安くなっているのでこうした一般向け用途にも使われているようだ。
「しかも、これは『押し上げポンプ』という方式です」
「どこが違うのですか?」
「先程『2代目』の部屋に展示してあったものは『汲み上げポンプ』といいまして、ポンプ位置よりも高いところへ水を送ることはできません。ですがこちらはより高い場所へ水を送ることができます」
「なるほどなるほど」
『2代目』仁が当時のクライン王国へ贈った技術である。
時のセルロア王国国王に対し、『貢物』にされそうになった、リースヒェン王女の乳母自動人形『ティア』の代わりにと、『消火』に役立つ技術ということでこれを選んだのだった。
その時は、クライン王国では『噴き出しポンプ』と呼んでいた。
そんな技術が忘れられかけて久しく、しかし今こうして復活したというわけである。
「なるほど、水魔法を使わずとも水を高く、遠くに飛ばせるわけですなあ」
知っていた技術者も余計なことを口にすることなく、300年以上の時を超えて復活した技術を素直に讃えたのであった。
* * *
「こちらはエリアス王国から寄せられた最新式の快速艇ですね」
「ほほう……これはこれは」
マルシアの流れを受け継ぎ、洗練されたデザインを持つ『三胴船』の10分の1の模型である。
デザイン面は、仁が感心するほどに見事なものであった。『機能美』というやつである。
しかも推進方式は『スクリュープロペラ』。
そう、マルシアとロドリゴが開発したものである。
「美しい曲面ですな」
「流線型……でしたか」
「目の保養になりますね」
「このスクリューという推進方式は効率がいいようですな」
「よくもまあ、こういうことを思いつくものですよ」
これもまた評判は上々なのであった。
* * *
「エゲレア王国から寄贈された作品です」
「ほう……やはりこれは『クラフトクイーン工房』のものですな?」
それは『冷凍冷蔵庫』であった。
仁が知る、現代日本のものに酷似している。……まあ、昭和レベルではあるが。
それでも、ここまで機能とデザインが洗練されているということは、技術者の努力が窺えるというものだ。
観音開き式の前扉。
上の段が一番大きい汎用冷蔵室。
冷凍室は中段、下段に野菜室があるという3段構造である。
『白物家電』というわけではないが色は清潔感のある白。
値段も1台6980トール(69800円)となっており、これなら一般家庭に普及するだろうなという感想を持った仁であった。
* * *
セルロア王国からはなんと『補助動力付き荷車』。
簡単なサスペンションも付いており、悪路における振動で荷崩れするのを防いでいる。
そしてなんといっても『補助動力』だ。
「ううむ……これはなかなかのアイデアですね」
「確かにこれは、重い荷物を運ぶ時に便利そうだ」
その『補助動力』とは、かつて『2代目』の仁が『自動車』に搭載した『ゴーレムエンジン』。
それを『電動アシスト自転車』のように、荷車を引っ張ったときにのみ作動するようにしている。
もちろん、引っ張る速度以上にアシストすることはない。
そのフィードバック制御は見事であった。
そして何よりも、あの軍事国家だったセルロア王国が、よくぞここまで……と思った仁なのである。
いつもお読みいただきありがとうございます。
20210216 修正
(誤)そこに飾られているのは家庭用|ゴーレム。
(正)そこに飾られているのは家庭用ゴーレム。
(誤)「先程『2代目』の部屋でに展示してあったものは『汲み上げポンプ』といいまして
(正)「先程『2代目』の部屋に展示してあったものは『汲み上げポンプ』といいまして
(旧)「簡単に言いますと、加えた力に対する変位量をフィードバックしているようですね。加えて、体表面を弾力ある素材で覆っているようです」
(新)「簡単に言いますと、体表面を弾力ある素材で覆い、加えた力に対する変位もしくは変形量をフィードバックしているようですね」
(旧)それを『電動アシスト自転車』のように、荷車を引っ張ったときにのみ作動するようになっている。
(新)それを『電動アシスト自転車』のように、荷車を引っ張ったときにのみ作動するようにしている。




