76-07 初代の部屋で
仁が次に人々を案内したのは2つ目、『中期』の部屋である。
「こちらが『中期』の部屋です。円熟期、と言えるかもしれません」
「ほう……」
「ふうむ……」
展示されているのはゴーレムと魔導具。
ゴーレムは男性型のMシリーズと女性型のFシリーズ。
中でも特筆すべきはMー005。
ガランディア王国でデビューし、アドリアナ・バルボラ・ツェツィの名を世界に知らしめる魁となった汎用ゴーレムである。
それから、質の悪い魔石をつかったストーンゴーレム。
単純な命令しか遂行できないが、それでも畑を耕すとか、鉱石を採掘するとか、そういった作業はこなせる。それも人間の10倍の効率で。
魔導具は、魔力素の供給をしなくても灯り続ける魔導ランプ、拡声の魔導具など。
「そして特筆すべきことが、この時期に確立されています」
仁は説明書きを指差した。
「それは『分業』です。これは『賢者』殿も提唱していましたが、それほど根付いてはいなかったようです。改めて『初代』が実際に運用させたみたいですね」
分業とは、製造工程を作業ごとに分け、それぞれを別人が受け持つやり方である。
1人が受け持つ作業内容は単純なのですぐに習熟できるし、作業者によって向き不向きのある作業を振り分けられる。
「これによって、生産性が10倍以上になったと伝えられています」
「ふうむ……アドリアナ・バルボラ・ツェツィ殿は偉大であったなあ」
アドリアナが作り出した成果を目にして、為政者たち、技術者たちは畏敬の念に打たれたようだ。
そんな彼らの様子を黙って見ている礼子は、こころなしか嬉しそうだった。
* * *
「……しかし、転機が訪れます」
仁は説明を再開した。
「転機、ですと?」
「はい。……宗教です」
「宗教……『賢者』殿も苦しめられましたな」
「そうなんです」
「……例の、『魔法は神からの恩寵である。魔法が使えるということは祝福されているということ。裏を返せば魔法が使えない者は神に見放されている証拠である。
だから、魔法を使えない民を必要以上に助けるのは神の御心に逆らうことである』ですな?」
「は、はい」
ベリアルスは、特別展示室で仁が行った説明の中の語句を正確に覚えていたようだ。
「それを断った際に、『賢者』の娘だと告げると、さらに迫害がひどくなったそうです」
「ううむ……」
「今の世に、そうした宗教がないことは幸いですな」
「同感です」
「……そして『初代』は西を目指します。……この先は3つめの部屋へ行きましょう」
* * *
3つめの部屋へ、仁は招待客を案内し、
「『後期』の部屋となります。……弟子たちを連れ西を目指した『初代』は、ミツホに到着します」
「おお!」
ミツホの面々が、思わず声を上げたようだ。
「『初代』の父、シュウキ・ツェツィを未だに覚えている人々が、一行を歓迎してくれたといいます」
そしてそこに腰を落ち着けたアドリアナは、首都であるミヤコに父シュウキたちが作った半自動の工場を、3年かけて増改築するなど、人々のために尽力した。
「この頃のゴーレムはこの型となります」
Mー030とFー030のレプリカを仁は示した。
「この型の特徴はおそらく……」
仁の説明に耳を傾ける人々。
それもそのはず、『030』ともなると、構造も洗練され、現代のゴーレムと比べても遜色がないどころか、中級程度のゴーレムよりも優れている点が多々あったのだ。
「後期の特徴は、弟子の教育よりも、製作に重点が置かれていることです。ミツホには魔導士がほとんどいない、というのも理由の1つでしょうけれど、これまでの旅で少々人付き合いの難しさに疲れたのではないかという気もします。……これは私自身の感想ですが」
「む……これまでのことを考えると、そういう可能性もあるだろうな」
「おそらくアドリアナ殿はこの頃には50歳くらいであろう。そういう想いを感じても不思議ではない」
年配の招待客を中心に、アドリアナへの共感を示すような発言がこぼれた。
「……まあそういうわけで『初代』はミツホで20年くらいを過ごしました」
「そうなのですなあ。アドリアナ様の足跡はミツホのあちらこちらに残っておりますからね」
「『賢者』様とアドリアナ様はミツホの恩人です」
「ありがとうございます」
師にあたる人に深い敬意を抱いてくれているミツホの人たちに、仁は感謝するのであった。
* * *
「……さて、そしてこの後『初代』は、人の世界を離れ、隠遁することになります」
「なるほど」
「その前に、これまで歩んできた道を戻るようにして辿ったのですが、それは失望を深めるものでした」
「なんと?」
「教会の勢力が非常に強くなっており、教会系の魔導士が幅を利かせていたり、魔法を使えない庶民が虐げられ、搾取されているのを見てしまったのです」
「……」
「ううむ……」
「安いゴーレムが大量に出回ったため、失業者が続出した国もありました」
「それは……」
「……おかしいですな」
「左様。安価な労働力を得た、それはよい。ならば、人間は何をすればいいか。そうした指針を明確にせずに、普及だけさせた指導者層にその責はあるでしょう」
期せずして、かつての仁と同じような結論を言う者もいた。
「単純労働は安価なストーンゴーレムに任せられたかもしれません。ですが頭脳労働はそうはいきません」
「うむ……社会構造が歪になってしまったのだろうな」
「他山の石、としなければなりませんな、陛下」
各国の宰相と国王はそんなひそひそ話をしている。
そして仁は、アドリアナ・バルボラ・ツェツィの生涯を締めくくるべく、説明を再開した。
「……『初代』は……その時代に絶望して、隠遁することにしたのではないかと思われます」
「…………」
「そして、とある場所を隠居所と定め、全力をもって整備しました。そこを、いつの日にか『魔法工学の聖地』にできたら……そんな希望を抱いて」
「………………」
「そして従者として作られたのが少女型の自動人形です。名前はなく、愛称は『おちび』。礼子の前身です」
「なるほど、そういうことが……」
「そして、その地で『初代』は没しました。その後、『2代目』が現れるまで、礼子の前身である『おちび』は待ち続けたのです」
『探し続けた』ではなく『待ち続けた』ことにした仁。あながち間違いではない。
「1000年の歳月を経た後、ついに『2代目』が現れ、『おちび』はその役目を終えました。ですがそんな『おちび』を蘇らせたのが『2代目魔法工学師』です」
アドリアナ・バルボラ・ツェツィの生涯についての、仁の説明はこれで終わったのだった。
聞いていた人々は皆、その生涯に感動を覚えたようである。
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本日2月11日(木)は14:00に
異世界でホムンクルスになっていたのでスローライフを目指す
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を更新します。
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(誤)「……礼の、『魔法は神からの恩寵である。
(正)「……例の、『魔法は神からの恩寵である。
(誤)これは『賢者マグス』殿も提唱していましたが、それほど根付いていはいなかったようです。
(正)これは『賢者マグス』殿も提唱していましたが、それほど根付いてはいなかったようです。
(誤)改めて先代が実際に運用させたみたいですね」
(正)改めて『初代』が実際に運用させたみたいですね」
20220323 修正
(旧)さすが『森羅』のベリアルス、特別展示室で仁が行った説明の中の語句を正確に覚えていたようだ。
(新)ベリアルスは、特別展示室で仁が行った説明の中の語句を正確に覚えていたようだ。




