67-34 トライについて
夏祭りの翌日、すなわち8月18日。
「いろいろお世話になりました」
「また来てください」
村長は笑みを浮かべながらそう言った。
「そこそこ稼がせていただきましたからね。近いうちに来ますよ」
「いやいや、コショウが手に入ったのは嬉しいですな」
村長のアイク・ニビキとそんなやり取りをしたあと、特殊調査員99号、偽名アルト・エルバインはサイチ村を去っていった。
「さて、それではそろそろ俺もお暇しますかね」
仁Dがそう言うと、村長は引き留めようとした。
「ジン様、もうお帰りに?」
「ええ、まだまだ他にもやることがありますから」
「そうですか……いろいろとお世話になりました。いつでもいらしてください。我が村は歓迎いたします」
「ありがとうございます」
こうして、仁Dもサイチ村を去ったのだった。
ところで、
「私は、もう1日2日、この村に残ります」
そう言って技術次官ナハムス・マローは残っている。
仁Dの行った内容を報告書にまとめるためであった。
* * *
仁Dが村を去った後、村長の洗脳を解除することになった。
実は村長は、今朝、新たに手に入れた鳩を使い、これまでの仁Dの業績を報告したばかりなのだ。
書くことが多かったため、3羽の鳩を必要とした。
だが、もう必要なくなるだろう。
『ハリケーン』で村上空を通過する際に『覚醒機』の波動で村一帯を覆う。
そのまま『ハリケーン』は飛び去ったが、村の様子は老君が『覗き見望遠鏡』で調べていた。
「う……あ、あ!? わ、私は……いったい何をしていたのだ?」
当然、村長はこれまでの行動を覚えており、混乱をきたしていた。
だが。
「村長、どうしたのかね?」
ナハムス・マローがそんな村長に近づき、声を掛けた。
「あ、あ……マロー殿……」
「ふむ、洗脳が解け、混乱しているようだな」
「せ、洗脳……?」
「そうだ。どうやってかはわからないが、ジャグス公国が我が国を侵略するための布石として、そうした行為を各地で行っているのだ」
「私もそうだったと?」
「そういうことだな」
「……」
がっくりと肩を落とす村長。
「まあ、気にするな」
ナハムス・マローは、こうしたケースを何度か見ているので、村長のパニックにも対応できた。
また、
「君に責任はない。気にせず、これまでどおりに過ごすことだ」
ともフォローする。
実際、アイク・ニビキの場合、特にノルハ公国に損害をもたらしてはいないからだ。
そして実のところ、サイチ村へ来る前にデウス・エクス・マキナから、
「もし洗脳から覚めた人がいて、パニックになっていたらフォローしてやってください」
と一言言われていたのである。
その時は村長が洗脳されているとは思わなかったが。
(マキナ殿は知っていたのだろうか?)
そうも思ったナハムス・マローであったが、確認する術はなかった。
兎にも角にも、サイチ村の開発・モデル化第一回目はこうして終了したのである。
* * *
仁Dは一旦蓬莱島に戻る。
これで仁は自由に動けるわけだが、まずは検討したいことがあった。
『トライ』の情報である。
「老君、その『トライ』について、何か情報はあるか?」
老君は0.2秒ほど考えた後に答える。
『はい、御主人様。ございます。……過去に、それらしきゴーレムと接触したことがあります』
「そうか。……それは、今の俺が知らない時代のことだな?」
『はい、御主人様』
「……わかった。教えてくれ」
仁の要望により、老君はかつて『モノ』『ジー』『テト』と呼ばれる、頭がなく、腕が4本ある、『侵略派』が作ったゴーレムのことを説明した。
「なるほど、それの仲間じゃないかというわけか」
『そうなります』
確かに、『始祖』の数詞は、どこか自分が知るものに似ているところがある、と仁は思っていた。
「つまり、『モノ』……『1』、『ジー』……『2』、『テト』……『4』というわけか。だとすると『3』が抜けていたわけだな。それが『トライ』だと?」
『はい、御主人様。その可能性は大です。『ジー』と『テト』の間にあった空白、そこが『トライ』の居場所なのかも知れません』
老君の推理力は卓越している。仁もその考えに同意した。
「それで、『魔導頭脳のブレーン』を作ったのが『トライ』だとすると、どうして本来の居場所にいないのか、だな」
『はい。当時の考察では、派遣された先で故障したのではないかとされておりました』
「まあ、そう考えるのが自然だよな」
同僚である『モノ』『ジー』『テト』も知らず、また彼らを派遣した存在も把握していないというのだから、故障していると考えるのが自然であろう。
「もし故障しているなら、修理してやれば、こちらの味方にならないかな?」
『可能性はありますね。それよりも、本来の居場所に戻っていく可能性の方が高いですが』
「それはどこなんだ?」
『はい、御主人様。ニューエル地方にあるアオバ湖の畔です』
「あそこか……」
仁はローレン大陸の地図を頭に思い浮かべた。
「さて、どうするかな」
とにかく、その『トライ』がまだ存在しているとして、それを見つけないことには話にならない。
「その『トライ』が、『始祖』のゴーレムなら、故障はしても破壊はされてはいないんじゃないかな」
『そうですね。外装はアダマンタイト系でしたから、おいそれと破壊はされないでしょう』
「そうだな……」
『同時に、『忍部隊』にも情報を集めさせましょう』
老君は、公王に直接聞くのはリスクがあるので、それ以外の者たちを当たってみると言う。
『『先進団』が何か知っているかもしれません。それから、ジャグス公国が拘る、東の山脈にも何かがありそうです』
これまで保留にしていた、ノルハ公国の東にある山脈も、もう少し詳細に調べてみると老君は言った。
ジャグス公国を追い詰める策は、少しずつ進んでいくのであった。
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本日2月18日(火)は14:00に
異世界でホムンクルスになっていたのでスローライフを目指す
を更新します。
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20200218 修正
(誤)「さて、それではそろそろおれもお暇しますかね」
(正)「さて、それではそろそろ俺もお暇しますかね」




