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マギクラフト・マイスター  作者: 秋ぎつね
67 仁出張篇
2502/4292

67-25 2つの魔導頭脳

 仁が『ノルド連邦』でロロナに相談していた頃、ジャグス公国では、『しのび壱』が『ブレーン』と話をしていた。


[天文学についてはどの程度知っている?]

『ほとんど知らない。基本的な軌道などの計算はできると思うが、情報がほとんどないからだ』

[そうか。それでは、できる範囲で教えよう]

『頼む』

[この星についてはどの程度知っている?]

『球形であるということくらいだ』

[直径や公転軌道半径などは?]

『知らぬ』

 そういうわけで、しのび壱は天文関係のデータを『ブレーン』に教えることにした。


[それでは教えよう。直径は約2400キロメートル。……キロメートル、という単位はわかるか?]

『大丈夫だ。メートルの1000倍であり、1メートルについては原器のデータがある』

[ほう]

 いったい誰が、いつ、メートル原器のデータを与えたのか、少々興味があったが、しのび壱はまずは『ブレーン』に情報を与えることを優先した。

[……アルスの公転半径はおよそ1億5000万キロメートル。公転周期は357日。自転周期は24時間、地軸の傾きは16.5度だ]

『興味深い』

 さらにしのび壱は、天体としてのデータを教えていく。

[衛星は1つ。今は『ユニー』と呼んでいる。直径は約1700キロメートル、公転半径はおよそ38万キロメートル]

『なるほど、興味深い』


[太陽系の中心となる恒星は『セラン』。オレンジ色の恒星で、直径はおよそ140万キロメートル]

『ふむ』

[惑星は、判明しているもので8つ。内側から『モノロード』『ジパート』ここ『アルス』『テトロドス』『ペンゴルタ』『ペタフォルス』『ヘスプタン』『オクロートス』だ]

『ほほう』


 しのび壱は、まだこの段階では、惑星ヘールについては教えないでおくことにした。

『1つ疑問が生じた』

[それは? 答えられることなら答えよう]

『単純なことだ。セラン太陽系についてのデータは、どうやって得たものなのだ?』

[ほう……]

 しのび壱は感心していた。

 まだ教育は半ばであるが、『ブレーン』は独自思考を獲得しつつある、と。いや、当初から、その萌芽は見られたのだが。

[今のところ、それは教えられない]

『理由は?』

[上司に禁じられているからだ]

『ならば仕方がないな』

[理解を得られたようで幸いだ]


 こうした魔導頭脳は、『上司』『主人』など、上位存在からの命令を絶対視するので、こうした言い訳ができるのだ。

 思考は論理的であるが、この点に関してのみ、融通が利かないとも言える。

 少し前、『オノゴロ島』の管理統括魔導頭脳『テスタ』が、気象制御の方法を秘匿したのも製作者からのプロテクトという、非論理的な理由による。


 それからも少し、天文関係のデータを伝え、その日の『教育』を終了したしのび壱であった。


*   *   *


 同じ頃、マリッカは『オノゴロ島』を1人で再訪していた。

 もちろん『テスタ』と話をするためである。

《ようこそいらっしゃいました、マリッカ様》

「こんにちは。今日は、ちょっと聞きたいことがあってやって来ました」

《何なりとお尋ねください》

「ありがとう。……それでは、『多幸薬』って知っていますか?」

《多幸薬……ですか?》

「ええと……あなたの『主人たち』が好んでいた嗜好品なのですけど」

《嗜好品……もしかして、『水』『薬草』『自由魔力素(エーテル)』から成る『*@;+<&%#』のことでしょうか》

「何ですって?」

《失礼しました。マリッカ様が仰った『多幸薬』……のことだと思います》

「材料からみて、それですね」

 どうやら『テスタ』も『多幸薬』について知っているようである。


《そうですか。では、『多幸薬』と呼びましょう。それが何か?》

「使われている薬草について、何か知っていますか?」

《はい。『パピウム』と呼ばれる植物です》

「外観はわかりますか?」

《はい。画像を出します》

 『テスタ』は壁に内蔵された『魔導投影窓(マジックスクリーン)』に『パピウム』の画像を表示した。

「これは……見たことがない花ですね」

 少なくとも『ノルド連邦』にはない植物のようであった。

《はい。寒冷地には向きません。温帯から亜熱帯の気候に適応した植物です》

「栽培は難しいのですか?」

《いえ。生育温度が適していれば、他の多くの植物同様、自然繁殖致します》

「『オノゴロ島』にもありますか?」

《申し訳ございませんが、ありません。種も在庫はゼロです》

「そうですか、残念です」

《面目次第もございません》

「いえ、それはいいのですが、材料さえ……つまり『パピウム』の種があれば、『オノゴロ島』で『多幸薬』を作れますか?」

《はい、可能です》

「それは、製造プラントがあるからですか?」

《いえ、製造プラントはございません。ですが、許可をいただければ、建造することができます》

「ああ、そういうことですか」

 これで、『テスタ』が『多幸薬』を製造することができることもわかった。


「その『多幸薬』は、人体に害はないのですか?」

《難しいご質問です。肉体的にはないといえます。ですが、一種の『嗜好品』ですので、『依存性』があります》

「確かに……」

《『依存』してしまい、やるべきことをやらず放置してしまう……これは負の側面です》

「確かにそうですね。……その依存から脱却するのは難しいのでしょうか?」

《難しいと思います》

「あなたの『主人たち』はどうしていましたか?」

《『禁呪』に属する魔法を使いました》

「それはどういう魔法ですか?」

《申し訳ございませんが、製作者様のプロテクトが掛かっており、お答えできません》

「そうですか……残念です」


 がっかりしたマリッカであったが、ふと思いついたことを聞いてみることにした。

「あなたは対処できますか?」

《はい》

「できるのですか!」

《はい。『多幸薬』に依存しすぎる『主人たち』を依存症から脱却させる処置は可能です》

「……わかりました」

 これは朗報であった。

「また来ます。今日はありがとう」

《いつでもお越しください、マリッカ様》


 そしてマリッカは蓬莱島へと移動するのであった。

 いつもお読みいただきありがとうございます。


  本日2月9日(日)は14:00に

  異世界でホムンクルスになっていたのでスローライフを目指す

  を更新します。

  こちらも応援のほどよろしくお願いいたします。

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― 新着の感想 ―
[良い点] いつの間にやら2500話突破。 おめでとうございます。 [気になる点] >[衛星は1つ。今は『ユニー』と呼んでいる。直径は約1700キロメートル、公転半径はおよそ38万キロメートル] 前々…
[一言] この教育の厄介な所は「全て真実」な事だからなあ…… もっともジャグス公王の体調悪そうな様子を見ていると、案外、魔導頭脳が正論に基づいて話し出した時怒りで(黙 最初からテスタに聞けば、サンプ…
[一言] >>『忍壱』が『ブレーン』と話をしていた。 多分同じクラスに好きな子いるの?いねーよ!とか話してるんでしょうね。 >>『ほとんど知らない。基本的な軌道などの計算はできると思うが、情報がほ…
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