64-11 2公国の報告
『仁ファミリー』の会議は、翌30日にも行われた。
議題は『ニドー医療福祉団体』についてだ。
何人かが、思いついたことがあるので話をしたいと言いだしたからだった。
「ではまず、私から」
顧問になったリシアが口を開いた。
「『医療車』についての提案です」
「うん、なんだろう?」
「ええとですね、診療台を増やしていただきたいんです」
リシアは、診療は1人1人診ていくことになるだろうが、その間にも具合の悪い人がいた場合、寝かせておけると安心だから、と説明した。
「確かにそういう場面もありそうだな」
病気の場合、何人かが同時に掛かることだって考えられるし、怪我の場合も複数人が怪我をすることだってままある。
「……うーん、そうすると、折り畳みのベッドと天幕、それに滅菌系の結界があるといいな」
「ん、特に滅菌系の結界はいいと思う」
仁の呟きにエルザも同意する。
確かに、滅菌系の結界は医療行為に有効だろう。
「あ、常時滅菌するのは、患者の体内の有益な微生物もなくしてしまうから、気を付けて」
「あ、そうか」
腸内細菌が全部滅菌されたら、それはそれでよくないことになるわけだ。
一方で、ヘリコバクター・ピロリ菌のような細菌は除菌した方がいいと言える。
「口内細菌も滅菌できるといいな」
元々虫歯のほとんどいない世界だが、0ではない。
そうした知識も同時に広めたいのだ。
「なら、手洗い、うがい、入浴、それに生ものに注意、かしらね」
ヴィヴィアンが言った。
「一度に多すぎる情報量を受け取ると、逆効果なのよ」
元語り部らしい意見だった。
「例えて言うと、多すぎる水を注がれて、器ごとひっくり返してしまう感じかしら?」
溢れて入りきらないどころか、全部こぼしてしまうことの例えとしてわかりやすかった。
「そして、頑なな人たちに知識を伝えるのも同じく難しいわ。堅く踏み固められた土には、容易には水がしみ込まないのと同じね」
語り部らしく、これもまた例えで説明してくれるヴィヴィアンに、仁は礼を言った。
「わかったよ。焦らずじっくり行くことにするよ」
「それがいいわ。本当の意味で信用を得られれば、あとは楽になるはずだから」
「アドバイスありがとう」
「それからだな、ジン」
今度はルイスが口を開いた。
「『医療車』だが、そこに貴重な薬があることを知って、襲ってくるような野盗がいないとも限らないよ」
「ああ、そうか……」
女性型の自動人形と、小柄な助手ゴーレムだけだと、抑止力がないわけだ。
例え、そこらの戦闘用ゴーレムを圧倒する力を持っていたとしても、それを認識してもらわねば意味がないのであった。
「なるほどな……」
やはり、大勢からの意見を聞くのはいいことだ、と仁は再認識する。
「わかった。それらを踏まえて、見直してみよう」
* * *
『御主人様、皆様』
そこに老君から報告があった。
『『アヴァロン』から派遣された『調査団』が、2国との会談を終えました』
老君はガジュー・ツガら3人の使節をわかりやすく『調査団』と呼んでいた。
「ほう、あの国々へか」
ルイスが声を上げた。
ヘールにいることが多くても、やはり母星であるここアルスの政情は気になっているようだ。
「よし、それじゃあ老君、報告してくれ」
仁が先を促した。
『はい、御主人様。……まず、5月28日、彼らは現地時間午前9時、ミマカ公国首都クオナーレへ飛びました。ちなみに駐屯地から飛行船で1時間ほどの距離です』
「なるほど、まずは友好的な国からというわけだな」
『そうです。……ミマカ公国はかなり友好的で、他の3公国の情報を仕入れることができたようです。とはいっても、ジャグス公国とノルハ公国についてはまだまだ情報不足ですが』
老君は続ける。
『宰相の話から、『革命党』の実態をいろいろと推測しようとしましたが、まだデータ不足でした』
その他にもミマカ公国の状況を説明した後、続いてダーラト公国の情報に移る老君。
『ダーラト公国も、それほど敵対的ではありませんでした。手土産に持参した魔石と、宰相ギックス・ヤーボ・ミヤタがミツホ出身の家系だったことから、ガジュー・ツガとの話が弾み、幾つかの新事実を知ることができました』
「おお、それは?」
『はい。4公国の内陸部は総じて水不足であるということです。ですので、開拓されたのは海岸線から30キロくらいまでです』
これは仁たちにとっても予想外であった。
「穀倉地帯とか何とか言っていなかったか?」
『それは確かに。土は肥えておりますので作物はよく育ちます。それだけで十分な量の作物が育つのです。ですが、それも沿岸部だけで、内陸は乾燥した荒野なのです』
「確かにそうか……」
かつてロードトスと共にジャグス公国から脱出した時のことを仁は思い起こしていた。
「もう少しましな条件の土地に行けばよかったのにな」
「まあそうだよな」
そんな仁の呟きに、ルイスやラインハルトも同様に頷いたのだった。
『確かに、皆様方はあの国々への入植が開始された年には、一度お隠れになってらっしゃいましたのでご存じないのですね』
失礼致しました、と老君は言って、簡単に過去の経緯を話してくれる。
『まず、なにゆえミツホやフソーに隣接した土地に入植せず、あのように離れた土地を選んだのか、そこから説明致します』
「うん、頼む」
確かにそこも気になっていた、と仁は思った。
『はい、御主人様。……まず、ミツホやフソーと4公国の間にある土地は、『住みにくい』のです』
「なるほど、理由としては十分だ。で、何が原因だ?」
『はい。まずはその地域の北部は急峻な山岳地帯です』
老君は世界地図を魔導投影窓に映し出し、説明した。
確かにフソーの西側には、3つの大きな山塊があり、まるきり農業には適さないことがよくわかる。
『少し南下した中部は大サハラ沙漠で、ここも入植には適しません』
内陸性の大砂漠。
山岳地帯との間に湿原はあるが、逆にそれがあるために東西に街道を拓くことが難しくなっている。
湿原の東側はフソーの土地だともいえ、そこも入植には適さなかった。
『そして南部、赤道直下のあたりですね。巨大な湖から流れ出した大河の東は、いずれミツホが開拓するということでした』
「まあ、確かにそんな位置関係になるな」
『その西側にも広い土地がありますので、そこなら入植に向いていたのですが、別の要因でそこは放置されました』
「それは?」
『それこそが『開拓革命団』です。……彼らは独立の気風が強く、『会議国』からの独立独歩を目指していました』
それで将来的に干渉されないよう、離れた土地を選んだようだ、と老君は言った。
「そんな理由で、自ら不便さを背負い込んだというのか……」
少々仁は呆れてしまった。ルイスもラインハルトも同感のようだ。いや、『仁ファミリー』全員が同じ気持ちであった。
『いえ、海岸線に限っていえば、水もそこそこありましたし、土地は非常に肥沃。当初は悪い条件ではありませんでした』
ただ、内陸に水がなく、開拓に向かなかったことが大きな誤算だったようです、と老君は結んだ。
「なるほど、4公国はそうした問題を抱えているのか……」
これは一筋縄ではいかないな、と『仁ファミリー』全員が思ったのである。
いつもお読みいただきありがとうございます。
20190930 修正
(誤) 確かに、滅菌系の結界は医療行為に友好だろう。
(正) 確かに、滅菌系の結界は医療行為に有効だろう。




