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マギクラフト・マイスター  作者: 秋ぎつね
63 アヴァロンとアルカディア篇
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63-30 情報の集め方

 議論が白熱したところで、最高管理官トマックス・バートマンが口を開いた。

「4公国をどうするかは、次の『世界会議』での議題にしたいと思う。なので、この場で結論が出なくても構わない。だが、基本方針は決めておきたい」

 この発言を受け、議論の焦点は『情報収集方法』となった。

 判断の基礎となる情報がなくては何ごとも始まらないからだ。


「次の『世界会議』は、6月の中頃でしたね。その時にはもう少し詳しい情報をお知らせできると思いますわ」

 と、エレナが言った。

「それはありがたいですね。……ええ、我々『世界警備隊』としましては、友好的にジャグス公国を訪れることができないか、検討してみようと思います」

 イルミナ・ラトキンが言う。

「これまでも、他の公国へは小規模な訪問は何度か行っていますから」

 たいていは技術的な援助だった、と説明。

「ミマカ公国とダーラト公国へはそれでいけると思うのですが、ジャグス公国とノルハ公国へは無理かもしれません」

 そちらの2国はかなりかたくなで、最近は商談でしか訪れていないという。


「名目上は、麦の買い付けです」

 ジャグス公国をはじめとする4公国は麦の一大産地であり、彼らに魔導具を売る代わりに麦を買い付けるのがセオリーとなっていた。

「6月になれば、冬小麦の収穫時期ですので」


 4公国は赤道付近にあるため、冬小麦が多く作られており、品質も悪くない。

 魔導具類は『会議国』(世界会議に参加している国々)から輸入しているのだが、その対価が小麦・大麦なのであった。


「確かに、その時がチャンスといえるな」

 トマックス・バートマンが言った。

「その際、可能な限り技術的な情報と、国内の情勢を調べてもらいたいものだ」

 ここで、デウス・エクス・マキナが挙手をした。

「ええと、かのジャグス公国に、私が行ってみる、ということはできると思いますか?」

「何ですと!?」

 会議室がざわめいた。

「確かにマキナ殿はどこの国の代表というわけでもないわけですが……」

 トマックス・バートマンは難しい顔をした。

「そうですな、いきなりジャグス公国へ、というのはリスクが高いでしょう。まずは最も我々に好意的なミマカ公国へ行かれるのがよいのではと思いますが」

「ですが……ええと、レコデ、でしたか、駐屯地があるのは。そこからではジャグス公国はあまりにも遠く、十分な情報が得られないと思うのですよ」

 マキナが反論する。

「ですが、直接ジャグス公国へ行かれるのは、かなり危険です」

 トマックス・バートマンは難色を示す。

 そこに、エレナも忠告を行った。

「そうですわよ、マキナ様。得られた情報ですと、セルロア王国からの商人がスパイ容疑で逮捕されています。その後、釈放されたという情報は入っておりませんの」

「ううむ、それは危険ですな」

 トマックス・バートマンは相変わらず渋い顔だ。


「では、ノルハ公国を訪問するのはどうでしょうか?」

 今度は仁が発言した。

「ノルハ公国は、ジャグス公国と敵対していますよね? 『敵の敵は味方』という言葉もあります。この場合、多少の技術提供をするといえば、無下には扱われないのではないでしょうか?」

「ううむ、ジン殿の言われることにも一理ありますな……」

「確かに、情報収集をするならノルハ公国は適しているやも知れませんぞ」

 ジャグス公国と敵対している関係上、ノルハ公国も情報を集めているはずで、それを知ることができれば、かなりのプラスになるはずであった。


「しかしそれでも、リスクゼロとはいきませんぞ」

 相変わらずトマックス・バートマンは難しい顔をしている。

「それは承知の上です」

 だが、マキナは譲らない。

「そもそも、並の手段では私を拘束することはできませんよ」

「それは確かに」


「でも、マキナ様はどういう理由付けでノルハ公国へ行くおつもりですの?」

 エレナが尋ねた。やはり心配なのだろう。

「例えば、ゴーレムを売りつける、というのはどうでしょう?」

 戦闘用ゴーレムなら、喉から手が出るほど欲しいはず、とマキナは言った。

「それはそうかも知れませんけど、そんな兵器をノルハ公国にお売りになるおつもりですか?」

 パワーバランスを崩しかねないのでは、とエレナは心配している。


「そこなんですよね、問題は」

 マキナも考えながら言った。

「いざとなったらこっちがコントロールを奪えるようにする、ということも考えたのですが」

 それでは完全に詐欺なので、躊躇ためらいがある、と言うマキナであった。


「うーん、ノルハ公国も、軍事政権っぽいんだよなあ」

 かつてロードトスと共に逃避行を行った仁がぽつりと言った。

 それを耳にしたノーザノン・クエトスが、

「ジン殿も、何かご存じなのですか?」

 と尋ねてきた。

「少しですが、以前ちょっと調査で『傀儡くぐつ』のロードトス殿とマイセ平原へ行った際、兵を見かけまして」

 実際には仁とロードトスを逃がすまいと、襲い掛かってきたのだが、そこまでは言わない仁。

「なるほど……」

「マイセ平原でちょいちょい小競り合いを行っているということですからね」

 戦闘用ゴーレムを率いているのを見かけた、とだけ報告しておく。

「そういうことですか。やはり、ゴーレムによる代理戦争の側面もあるのですね」

 元々の人口が少ないため、人同士が戦う戦闘行為は極力避けていると聞いています、とノーザノン・クエトスが言った。

「そういうお国柄でしたら、勝つためにはなりふり構わないことでしょう。直接乗り込むのは危険すぎます」

 ノーザノン・クエトスも、マキナが訪問するということには反対のようだった。


「ここはやっぱり、公式な使節として訪問するのがよろしいかと思われます」

 フィオネ・フィアスが発言した。

「バックに『世界会議』が付いているということを前面に押し出しての訪問ですね。そうすれば、使節になにかあった場合に実力行使することができますから」

「確かに、フィオネの意見はより安全かもしれんな」

 トマックス・バートマンも認めた。

「……となると、次回の『世界会議』での議題の1つとし、使節を派遣する方向で検討する、ということでいいだろうか?」

 まとめに入るトマックス・バートマン。

「異議なし」

「異議なし」

 満場一致でそういうこととなり、その日の会議は終わったのであった。


*   *   *


「トマックスさん、お疲れ様でした」

 会議が終わった後、仁は個人的にトマックス・バートマンをねぎらった。

 ちなみに、トマックス・バートマンの方から仁に声を掛けてきたのである。

「いえ、これも役目ですから」

 とのたまうトマックスに仁は、

「無理はしないでくださいよ」

 と釘を刺した。

「ええ、マノンがいてくれるので助かっています。パンドア大陸の方も代官代理としてシモーヌが勤めてくれておりますし、負担は随分と軽減されていますよ」

「それならいいのですが……」

「そうそう、『立体魔法陣』に『魔法陣映写技術』ですか、さすがジン殿ですな。明日には許可を出しますので、指導の方はよろしくお願いしますよ」

「わかりました」


 こうして午後9時、トマックス・バートマンの1日は終わったのであった。

 いつもお読みいただきありがとうございます。

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