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マギクラフト・マイスター  作者: 秋ぎつね
59 ショウロ皇国工事篇(3901年)
2221/4397

59-29 人体実験?

 人間を対象に、工学魔法を使えないか、という検討は佳境を迎えていた。

 あと少し、何か切っ掛けがあれば……といったところ。

 と、そこにハンナの祖母、マーサがやってきて、

「お昼ご飯だよ」

 と告げたのである。

「はーい」

 今集中してるからいらない、などと言おうものなら、それこそ首に縄を付けて引っ張って行かれそうなので、3人とも素直に思考を中断して食堂へと向かった。


 食堂には、今蓬莱島にいる全員が揃っていた。

 献立は、珍しく焼きおにぎりである。焼けた醤油の香ばしい香りが食欲をそそる。

「こういうのもいいな」

 付け合わせはシンプルにお新香だけ。お茶はほうじ茶。

「ん、美味しい」

「香ばしさが何とも言えませんね」

 そんな、のんびりした時間はあっという間に過ぎ、

「……また、相談したいんだけど、聞いてくれる?」

 と、エルザは皆の前で検討している内容を口にしたのだった。


「うーん、そうすると、自分の身体に工学魔法を使うことはできるのか? が、わかれば、一歩前進できそうということか」

 腕組みをしながら仁は、難しい顔で言った。

「……なあ、それって、俺やみんなでもいいのか?」

「…………え?」

 仁の身体は『魔原子(マギアトム)』製であるし、他の皆はホムンクルスである。

「あ」

 仁の指摘に、今更ながらエルザは気が付き、

「……うっかりしていた」

 と、少ししおれた。

「でも、必要なら、シオンやロードトスに協力してもらうこともできるぞ」

「ん、是非頼みたい」

「わかった」

 ということで、仁は老君に連絡を入れてもらったところ、手の空いていたロードトスが協力してくれることになった。

「皆さん、こんにちは」

「お久しぶりです! ……というほどでもないですね」

 で、リュドミラも一緒に付いてきた。

 シオンは仕事があって、残念ながら来られなかったようだ。


「……というわけなんだ」

「なるほど、そういうことですか。工学魔法を自分に使うことができるか、と?」

 仁からの説明だけではなく、エルザも補足説明をする。

「工学魔法を生体に使えるなら、治療にも役立つはず。是非協力してほしい」

「わかりました。何をすればいいですか?」

「工学魔法の『変形(フォーミング)』で、爪の先を変形させてみてくれないかな」

「やってみます。……『変形(フォーミング)』……できますね」

「おお!」

 これは新たな発見であった。

 『同調』すれば、工学魔法で曲がった骨を整復できるかもしれないのだ。

 今のところ、そうした疾患には、一度骨を砕いてから再度治癒させている。


「それじゃあ、『分離(セパレーション)』を使って、伸びた爪を切れる?」

「やってみます。……『分離(セパレーション)』……できました」

「素晴らしい」


「それじゃあ、一部の髪の毛に『硬化(ハードニング)』は掛けられる?」

「ええと、髪の毛が針みたいになるのは困るので、腕の毛でいいですか?」

「もちろん、かまわない」

 特定の毛をターゲットにするため、やはり視認しての行使をしたい、とロードトスは言った。

「では。……『硬化(ハードニング)』……できてますね」

 手の甲に生えた毛の1本が、針のように硬くなっていた。

 その毛を毛抜きで抜いてみるが、本当に針のようだった。


 これまでのところ、自分の身体になら工学魔法が効く、という仮説を裏付けている。

 これが、条件付きなのか、それとも全ての工学魔法が使えるのか……は、これからの課題である。

 エルザとしては、『抽出(エクストラクション)』で内出血を治療したり、先日のようにドレーンの代わりにしたり、という使い方をしたいと考えている。

 さすがにそれを健康体のロードトスに頼むわけにはいかないので、一応人体実験はこれで終わりとした。


「ありがとう、ロードトス」

「いえ、お役に立てたなら幸いです。……それに、伺ったところ、医療技術の向上のためなんでしょう?」

「そう。おかげで一歩、前進できた」


 こうして、自分の身体に工学魔法を使うことができることは一応証明された。

 一応、というのは、物理的効果を与える魔法の確認しかできていないからである。

「化学的な工学魔法も試せるものなら試したい」

 『分解(ツェルゼッツン)』で結石を分解したり、『抽出(エクストラクション)』で一酸化炭素中毒を治療する、などである。

「メラニン色素を分解してシミ取りもできそうだな」

「確かに」

「それから細胞を炭素、酸素、水素なんかに分解できるなら、腫瘍を消すこともできる」

「そうだな」

 治癒魔法と工学魔法の融合は、まだ始まったばかりである。


*   *   *


「いやあ、面白かったよ」

 エルザとロードトスの実験を見ていたサキが、嬉しそうに言った。

 仁ファミリー全員が、息をひそめてその様子を見ていたのだ。

「これで、大きな前進ができたわけだね。あと、謎としては、生きた植物への工学魔法の効き方かな?」

 エルザは頷いた。

「サキ姉の言うとおり。まだ、生えている木には工学魔法が効かないけど、そこから折った枝には工学魔法が効くのはなぜ、という説明はなされていない」

 その時、リシアが疑問を投げかけてきた。

「あの、『同調』という観点から考えてみたんですけど、生きている植物には『同調』できるんですか?」

 エルザが答えて曰く、

「できるのかできないのか、よくわからない。なんといっても『植物』だから」

「ですよね……」

 明確な意識というものがないというか、『思考』していないので、魔力パターンそのものがあるのかないのかわからないということである。

 ゆえに『同調』したくてもしようがない、といったところというわけだ。

「だとすると、生物系素材はそもそも、金属と同じような加工は不可能? ……じゃないですよね。『地底蜘蛛樹脂(GSP)』とか『魔獣の革』とか、加工できてますものね」

「それはそうだね」

 ここで、仁が発言する。

「木材だって、使える工学魔法は『成形(シェーピング)』とか『接合(ジョイント)』だ。これって、『変形(フォーミング)』や『融合(フュージョン)』とは、根本的に違うんだよな」

「それは、確かにそうですね……」

 さらに仁は、

「『風の刃(ウインドカッター)』でなら立木も切れる。それをごくごく小規模にしたら、『成形(シェーピング)』になる……かもしれない」

 と言った。

「面白い考えだね、おにーちゃん」

 ハンナも興味を持ったようである。


 こうして知恵を出し合い、1つの疑問を追っていくというのもいいものだ、と、その場にいる全員は感じていたのである。

 いつもお読みいただきありがとうございます。


 20190510 修正

(誤)ゆえに『同調』したくてもでしようがない、といったところというわけだ。

(正)ゆえに『同調』したくてもしようがない、といったところというわけだ。

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セパレーションで首を分離…怖いっ!
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