57-30 飛行場整備
クライン王国で、トカ村開発について激論が戦わされていた頃。
トカ村の村長、ユゾー・マヤカは、仁の訪問を受けていた。
「風洞、ですか」
「そうです。これを作って実験することで、飛ばなくても機体の性能を試すことができるのです」
「なるほど……で、それを作りたいと仰る?」
「はい。飛行コースのあるここに、工房と共に設ければ、開発の効率が非常によくなります」
これは仁からの大幅な援助と同義であった。
クライン王国も今後、トカ村を発展させるためにいろいろ手を打つだろうが、それに留まらず、施設を充実させていくつもりの仁。
風洞と工房の規模であれば、トカ村村長の権限で許可ができる。
「是非お願いします」
村長も今後のトカ村の発展を思い、許可を出したのであった。
* * *
「さて、基礎工事を済ませてしまおうかな」
風洞と工房を建てる場所はもう決めてある。
トカ村の居住区から直線距離で2キロほど西に離れた平地だ。
少し離れているが、仁がどんな方法で工事をしているかあまり人に見られたくないのである。
また、ここには『地下探索』により、すぐ下に岩盤があることがわかっている。
「頑丈なものが建てられそうだな」
作業を行うのは『職人』50体。
風洞も工房もプレハブ……蓬莱島で部材を作っておき、『転送機』で送らせ、現地で組み立てる。
これにより、2時間で建物は完成した。
「うん、いい出来だ」
風洞、工房共に、小さめの体育館くらいの大きさがある。将来を見越し、10メートルクラスの機体を実験、組立できるようにだ。
内装はこれからであるが、それにはロードトスとルビーナも呼ぼうと仁は思っていたのだ。
* * *
仁がトカ村に風洞と工房を作ろうとしている情報は『鳩』によりクライン王国首脳にも伝わった。
「おお! これは朗報ですな」
「まったくもってそのとおり。『魔法工学師』が推薦する地であることを前面に出し、国の内外へ喧伝できるというものです」
「……慌てなさるな。その前に、本人に名前を使わせてもらう許可を取らないと」
「でしたな」
簡単にいえばこのようなやり取りがあり、急遽トカ村へ使節団が派遣されることとなった。
その中には、当然ながらコーウェン魔法技術相が含まれていた。
「ジン殿にお願いをするなら大臣が行かないでどうするのですか!」
と主張したらしい。
その底意には多分に私情が含まれていたはずであるが。
「おおおおおお……! そんなああああ……!」
2日掛けてトカ村に着いたコーウェン魔法技術相一行であったが、その前の日に風洞と工房は完成し、お目当ての仁は既に立ち去った後であったようだ。
* * *
がっくりと肩を落とすコーウェン魔法技術相に、ユゾー・マヤカ村長が声を掛けた。
「あ、あの、閣下」
「……なんだ?」
光の消えた目でコーウェン魔法技術相は短く反応した。
「ええとですね、ジン殿ですが、じきに戻ってらっしゃると思いますよ」
「ほ、本当かね!?」
「は、はい」
「そうか。ならば待たせてもらおう」
少し元気が出たようで、コーウェン魔法技術相は飛行エリアを見回ってくると言い、馬に乗って1人出掛けた。
「あ、閣下!」
が、付いてきた護衛騎士たちとしては、護衛対象の単独行動は見過ごせないと、半数の2人が後を追い、残る2名がトカ村で待機することにしたのである。
そして、西へ向かったコーウェン魔法技術相は、仁が建てた工房と風洞の建物を目にした。
「すごい……。これほどのものを短期間で建ててしまうなんて」
構造としては、防錆処理した鉄骨に、『強靱化』を掛けた合板のパネルを張った、といったところだ。
耐震性もあり、断熱性も考慮された素材である。
建物に見とれていたコーウェンの耳に、送風浮揚機関の音が聞こえてきた。
「!?」
空の彼方を見やれば、小さな黒い影が。それは次第に近付いてくる。
「ジン殿の……『ハリケーン』か!」
仁が所有する巨大風力式浮揚機『ハリケーン』のことは、コーウェンもよく知っている。
「運がいいな。ちょうど戻ってきたタイミングで居合わせたとは」
見る見る機影は大きくなり、5分ほどで『ハリケーン』は飛行エリアに着陸した。
「あれ? コーウェン殿?」
『ハリケーン』から降りてきた仁は、魔法技術相の顔を見て驚いた。……フリをした。
実際は、老君から事前に報告が成されていたのである。
「おお、ジン殿、ご無沙汰しております」
「こちらこそ。お元気な様子で何よりです。王国の皆様もお変わりありませんか?」
「はい、おかげさまで」
半ば定型的なやり取りの後、
「実は、こうした計画が進んでおりまして」
と、コーウェン魔法技術相から説明が行われた。
場所は出来立ての工房の中。
そこには、仁が運んできた作業台、工具棚、椅子、テーブルなどが運び込まれている。
「……と、いうわけで、我が国はいわば『起死回生』の政策として、ここトカ村を開発しようと考えております」
「なるほど」
実は、仁は既に内容を知っている。その上で、コーウェン魔法技術相がどんな説明をし、要求をしてくるか、と考えていたのだ。
その点で行くと、コーウェン魔法技術相は正直であった。包み隠さずに国の現状を述べ、国王が苦渋の決断で非常用予算に手を付けたことまで打ち明けたのである。
「ここの飛行場ですが、『マリッカ記念飛行場』としていただきたいのですが」
そして飛行場の端に記念碑を建てたい、と仁からも要求してみた。
「おお、いいですな! マリッカ殿とジン殿、そしてできればマキナ殿のお三方の名前を使わせていただければ、これに勝る喜びはございません!」
「マキナには……俺から話しておきましょう」
「是非に! よろしくお取り計らいください!」
コーウェンは大喜びでそれを受けたのであった。
「飛行場の設備として、水道、トイレ、救護施設などは引き受けましょう」
「ありがとうございます。費用は請求していただいて結構ですから」
等という話し合いも行われ、『マリッカ記念飛行場』の整備は着々と進められていくのであった。
いつもお読みいただきありがとうございます。
20200307 修正
(旧)『魔法工学師』が推薦する地であることを前面に出し、国外へ喧伝できるというものです」
(新)『魔法工学師』が推薦する地であることを前面に出し、国の内外へ喧伝できるというものです」




