57-27 その名前
10月28日、仁たちはトカ村で顔を合わせていた。
仁たち、というのは、仁、ロードトス、ルビーナらである。
今回、ロードトスは妹のヴィータと婚約者のリュドミラは連れてきていなかった。
またエルザは、あまり目立ちたくないということで、予定どおり仁とは別行動を取っている。
そして『飛行エリア』というのは、先日エアレースを行った場所である。
その後仁は、ここの地下100メートルに例の『安全結界』の発生装置を埋め込んでいた。
仁以外には起動できない仕様としてあるし、掘り出そうとしたら自壊するよう設定してある。
軍事用に転用されないための、仁なりの対策であった。
「お久しぶり……と言うほどでもありませんが」
「そうだな。元気そうで何よりだ」
「ジン様、早く比べてみましょうよ!」
ロードトス、仁、ルビーナらは挨拶もそこそこに、手を加えた『デルタX02』を見せ合うことにした。
* * *
まずはルビーナが『デルタX02ー3』を披露した。
ルビーナらしく、赤系統に塗られている。
「見て見て! これが、あたしの目指す『風力式浮揚機』よ!」
「ほう」
仁は思わず感心した声を上げた。
というのも、ルビーナが手を加えた機体が、仁の想像していた物よりもずっといい出来だったからだ。
「お、これはコンセプトがはっきりしているな。……『小回りと敏捷性』だろう?」
「うん! そのとおりよ! さすがジン様!」
「いや、これだけきっちり仕上げていればわかるよ」
仁の言葉にロードトスも頷いた。
「ええ、そうですね。コンパクトにまとまって軽量化された機体は軽快でしょう」
仁もそれに補足する。
「ルビーナ、勉強したようだな。……慣性モーメントを小さくする工夫は大変だったろう」
「うん。安定性を損なわないように、と考えるのが一番大変だったわ」
「だろうな」
ルビーナの『デルタX02ー3』は、左右への方向転換を機敏に行えるように考えられている。
そのままだと安定性が悪くなるので、上下の運動性を多少犠牲にしているのだ。
Z軸(垂直軸)回りの運動性を上げ、X、Y軸(左右及び前後の水平軸)回りの安定性を重視した、ということになる。
次はロードトスの『デルタX02ー2』である。
全体的に、落ち着いた銀灰色で塗装されていた。
「なるほど、ロードトスのコンセプトは……」
と仁が言いかけると、
「はいはーい! あたしに言わせて!」
と、ルビーナ。
「ロードトス様の機体は『安全性』重視! ……ですよね?」
「うん、ほぼ正解だ」
ロードトスは笑顔で頷いた。
「ですよね! やや低い位置にある操縦室、主翼両端の垂直補助翼。『送風浮揚機関』が4つ追加されてるし」
「よく見ているな、ルビーナ」
仁も彼女の観察眼を褒めた。
「これだと、操縦もしやすいだろう?」
仁の問いかけに、ロードトスは頷いた。
「そういうことですね。少しでも墜落の危険性を排除すると共に、『安全』と操縦しやすさを追求しました。『初心者用』ということです」
「だろうな。その分、最高速度はやや低くなっているし、操縦桿の反応もかなりマイルドになっていると思う」
「そのとおりです」
そして最後は仁の『デルタX02ー1』。
上面は白、下面は青で塗られている。
「これがジン様の調整結果ね……」
「ううむ、なるほど……ジン様のコンセプトは『軽快』でしょうか? ……いや、『手軽さ』?」
「あたしの『デルタX02ー3』と、似てるところもあるけど、違うところも多いわよね?」
「そうだな。ルビーナの機体は『スポーツ機』、ロードトスの機体が『初心者用』というなら、俺のは『街乗り』だな」
「どう違うの?」
「今説明するよ」
仁はどう説明しようか……と、ちょっと考えてから口を開いた。
「初心者用、というのはわかると思うが、とにかく『乗りやすく』『安定していて』『危険が少ない』ものだな。馬で言うと、素直でおとなしい馬だ」
「ふんふん、なるほどね」
「街乗り、というのは、短・中距離向けで、気軽に乗れるものだ。馬で言うと……何だろう?」
そもそも仁は馬にほとんど乗ったことがないので、例えが思い付かなかった。
「素直だけど元気な馬、でいいのでは?」
ロードトスが助け船を出した。
「あ、そんな感じだな。……で、スポーツ用、というのは『軽快で』『運動性がいい』だけど『乗り手を選ぶ』。つまりじゃじゃ馬かな」
「ひっどーい!」
ルビーナが抗議の声を上げた。
「いや、ルビーナがじゃじゃ馬だと言ったんじゃないぞ」
「それはわかっているけど……」
仁は、もしかするとルビーナは小さい頃……今もまだ大きくはないが……お転婆、じゃじゃ馬、などと言われていたのかも知れない、と察した。
「……それじゃあ『悍馬』って奴かな」
「暴れ馬じゃない!」
馬の話になりつつあったので、仁は話を元に戻す事にした。
「いや、だから、馬の話じゃないんだ。ルビーナの機体は、競技用とまではいかなくても……そうだな、『格好よく』飛び回りたい人向けの機体、といったところだな」
「それならまあ、納得ね」
「とにかく、三者三様の機体となったわけだ」
こうした調整結果もまた、『設計基』として記録しておくことになる。
「そうだな……販売することを考えてみてくれ。お客さんがどんな乗り方をするか聞いて、それに合った調整をしてあげる際に、大いに役立つだろう」
「あ、それわかる」
「ということで、『デルタX02』の開発も一段落かな」
* * *
それぞれの機体を乗り比べてみる前に、ティータイムとした。
その際、仁は最近の情勢として、エゲレア王国とエリアス王国に現れた謎の技術者の話もちょっとしてみたのであるが、これにロードトスが反応した。
「サンマルコ・ポディウムとマルコネン、ですか……ふむ……」
「何か心当たりでもあるのか?」
考え込んだロードトスに、お茶を飲みながら仁が尋ねた。
「ええ。……その名前は、息子や弟子に与える名前のようですが……」
「ん? サンマルコとマルコネンが、か?」
「はい」
ロードトスによれば、その名前は『マルコ』という名を持つ親または師匠が子または弟子に与える名前に酷似している、と言う。
「マルコ……マルコ……もしかして『マルコシアス』かな?」
「マルコシアス? ……大おばあさまから聞いた気がします。確か……『狂乱』氏族の人でしたね?」
いつもお読みいただきありがとうございます。
20190203 修正
(誤)「そういうことですね。少しでも墜落の危険性を排除すると共に、安全』と操縦しやすさを追求しました。
(正)「そういうことですね。少しでも墜落の危険性を排除すると共に、『安全』と操縦しやすさを追求しました。
(誤)馬の話になりつつあったので、仁は話を元に戻す腰にした。
(正)馬の話になりつつあったので、仁は話を元に戻す事にした。
なぜ腰 orz
20190208 修正
(旧)またエルザは、ロードトス経由でシオンに話が伝わることを危惧したため、予定どおり仁とは別行動を取っている。
(新)またエルザは、ロードトスたちにその存在を知られるのはまだ今のところまずいので、予定どおり仁とは別行動を取っている。
20190209 修正
(旧)またエルザは、ロードトスたちにその存在を知られるのはまだ今のところまずいので、予定どおり仁とは別行動を取っている。
(新)またエルザは、あまり目立ちたくないということで、予定どおり仁とは別行動を取っている。




