56-38 招待
明けましておめでとうございます。
本年もどうぞよろしくお願いいたします。
9月最後の日、30日。
仁は老君からクツド鉱山で採掘し、製錬した資源について報告を受けていた。
『通常金属として、鉄が10トン、銅が6トン、錫5トン、亜鉛2トン、ニッケル1トン、クロム0.5トン、マンガン0.5トン、バナジウム0.3トン、モリブデン0.2トン』
「随分掘ったな」
『はい、御主人様。続いて準マギ系金属が軽銀15トン、ミスリル銀1トン。アダマンタイト0.8トン』
「ほう」
『それに御主人様がお気になさっていた白金族元素が1トン。これは組成が一定していませんので単離する製錬待ちです』
「なるほど」
『その他貴金属が金0.01トン、銀0.05トンが手に入りました』
「根こそぎにはしていないだろうな?」
『はい、御主人様。その点は注意しておりまして、大半は地下10キロメートルよりも深いところからの採掘です』
より浅い部分の坑道は、軽く採掘してそのままにしているという。
「それならいいな」
『あとは魔結晶ですが、全属性の通常品が3キロ、高品質のものが1キロ採れました』
「おお、それもいいな。……他の属性は?」
『土属性と水属性の鉱脈がありますが、規模が小さいので手を付けておりません』
「うん、それでいい」
『ここ2週間で、クツド鉱山の埋蔵量は把握できました。……今のクライン王国の消費量でしたら200年くらいはまかなえるはずです』
「もちろん比較的浅い部分で、だよな?」
仁が念を押す。
『はい。だいたい地下2キロメートルくらいまでということで』
「それならいいか」
『10キロメートルまで含めれば、500年分はあるかと』
もっとも、その後の消費量が増えれば、その分早く消費されることになる。
『このあたりの地殻は厚く、100キロ掘り下げても大きな危険はないと思われます』
「だとすると、この前の硫化水素溜まりは運が悪かったんだな」
『はい』
硫化水素が吹き出してきたことがあったのだが、その後の調査で地下深くから吹き出しているのではなく、空洞に溜まっていただけということがわかったのだ。
この硫化水素溜まりは、その後周囲を『強靱化』で強化しつつ封印処理を施した後、溜まっていた硫化水素は何かに使えるかもしれないとアダマンタイト容器に吸い出して蓄えてある。
だいたいドラム缶に120本分。
蓬莱島に置いておくのはなんとなく嫌だったので、月に保管している。
その一部は、今はサキのよい研究材料になっているようだ。
「あと、精錬所はどうかな?」
『はい、御主人様。資源の方は対価として十分にいただいたので、引き渡すことに問題はないと判断します』
「そうか」
鉄・銅・軽銀用の専用製錬魔導機が各3基、汎用製錬魔導機が5基。
仁謹製だが、それほど複雑な構造ではないので、頑張ればクライン王国の技術者にも整備はできるだろう。
「これで、トカ村の再開発も進むだろう」
『はい、御主人様。そしてクライン王国も少しずつでしょうが、国力を伸ばしていくでしょう』
「そっちは要努力、だよな」
兎にも角にも、自分たちで何とかしてもらわなければならない。仁は、少しその手伝いをするだけ、と割り切っている。
とはいえ、ついついお節介をしてしまうのは性格なのだろうか、と仁は苦笑したのであった。
* * *
「ジン兄、『オノゴロ島』の人たちはどうするの?」
蓬莱島の『家』の縁側で一息ついていると、エルザが横にやってきた。
「今考えているところだよ。中継はもちろんのこと、希望者は観光客として呼んでもいいしな」
「……それ、『どこから』にするつもり?」
ノルド連邦にするわけにも行かず、かといって他の国から、とするわけにもいかない。
「だから、それが問題なんだよな」
未知の土地から、とするわけにも行かず……。
「まあ、人数が少なければ何とかなるかな?」
一般観光客に紛れることはできるだろう、と仁は期待していた。
「あとはフレディとかエリスとか、知り合いに招待状を送ることだな」
「『アヴァロン』の人たちも来たがると、思う」
「そうだな」
仁は、招待してもいいと思うメンバーを列記してみる。
『オノゴロ島』の子孫たち:トライハルト、スザンヌ夫妻。ルビーナ、アマンダ、グリーナ、シュウ、エイダ、エディス、ナタリア……。大勢いる。
ショウロ皇国:ダイキとココナの夫妻。
カイナ村:フレディとエリス。
エゲレア王国:クズマ侯爵と夫人、3人の令嬢。
エリアス王国:懐古党でもあるリーリアやソーニャ。
『アヴァロン』:グローマ、エイラ、カチェア。
ざっと思い付くだけでもこれだけいる。
「王族なんかはクライン王国から招待状が行くだろうしな」
同じく、シャルネド子爵家は、当主が魔法技術省勤務であるから、当然声が掛かるだろうと思われた。
「……やっぱり、『オノゴロ島』の人たちが一番、大所帯」
「そうだな」
早めに希望者を募っておくべきかな、と仁は考えた。
「この後、話をしてきてみるよ」
「ん、それがいいと思う」
と言うことで、仁は早速『オノゴロ島』へと向かった。
* * *
「その話は噂に聞いておりました」
まずは世話役のトライハルト・ランドルに話をしてみたところ、マリッカ関係者だけに、既に噂が入っていたようだ。
「開催日も決まったので、正式に招待したいんだ。もちろん中継も行う」
「それは嬉しいですね。きっと大勢行きたがるでしょう」
トライハルトは住民に確認し、3日後には決定します、と仁に告げたのだった。
「うん、よろしく頼む。……ところで、ルビーナやシュウたちはどうしてる?」
「元気ですよ。相変わらず、いろいろ作ってます。頑張っていますね」
「そうか、それならいい」
会っていこうかと思ったが、これから大会開催のためにいろいろやることもあったので、よろしく伝えてくれ、とだけトライハルトに伝え、仁は蓬莱島に戻ったのだった。
* * *
「お帰り、ジン」
「ジン兄、最終的に競技内容はどうなったの?」
蓬莱島では、もうすぐ昼食時間で、食堂には全員が集まっていた。
「うん、それじゃあ食べた後説明するよ」
蓬莱島は今日も平和だった。
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