56-31 ノルド連邦では
少し時間は戻る。
去る8月10日、トカ村でエアレースを行おうかという話が仁たちの間に持ち上がった。
その話は『森羅』のシオンを通じて、ノルド連邦の有志に伝えられたのである。
シオンの曾孫、『傀儡』のロードトスもまた、その話を聞いていた。
「エアレースか……。以前ジンさんとクライン王国の……トカ村を訪れた際に、そんな話をしたような気もするな……別の場所でだったかな? まあ、いい」
どこで、かは大して重要ではない。これは参加するしかないと、ロードトスはやる気を出していた。
「風力式浮揚機レース? いいわね! 出ましょう出ましょう!!」
マリッカの弟子たちもまた、やる気を見せている。
なにしろ、『風力式浮揚機』は250年ほど前にマリッカが開発したのだから。
そのため、ノルド連邦内での反響は大きく、合計で10チームが参加表明したのであった。
* * *
一方、陰の主催者である蓬莱島で。
「エアレースだが、『第1回マリッカ杯』にしようかと思うんだ」
仁が『ファミリー』の全員を前に、考えを述べていた。
「ふえ!?」
「おお、いいなあ」
「賛成」
「くふ、いいと思うよ」
当のマリッカ以外、大賛成であった。
「マ、マリッカ杯、でしゅか?」
「そうさ。だって『風力式浮揚機』はマリッカが開発したんだろう? だから開発者の名前を取ってマリッカ杯。何もおかしくはないと思うよ」
「ふええ……」
「優勝者にはマリッカの名前が入ったトロフィーが渡されることになるはずよ?」
恥ずかしそうなマリッカに、さらなる追撃が入る。
声の主は、ノルド連邦の様子を知らせに来たシオンである。
「ふえええ……」
ますます恥ずかしそうにするマリッカ。
「……大丈夫よ。『今の』マリッカを見てマリッカだとわかるのは私くらいだから」
さすがにからかいすぎたかと、シオンがフォローした。
「あ、そ、そうですね。それに、現地に行かなければ……」
だが、仁からも、
「でもなあ……せっかくだからみんなで見に行こうと思ってるんだが」
と言われて、
「ふええええ……」
狼狽えるマリッカであった。
* * *
そして時間は飛んで9月14日。
「おお、調子いいな」
新型の『風力式浮揚機』をテストしているロードトスは機上で満足そうに頷いた。
円形翼を、横長の楕円翼にしてみた結果、これまでより安定が増した。その分小回りが利かなくなっているのだが。
「ここから、小回りと速度アップを研究だ」
まずは安定性、安全性を確保した後、次の要求項目を叶えるための研究をしていくのである。
それがロードトスのやり方であった。
「ロー、調子はよさそうね」
「はい、大おばあさま。兄さんはここのところずっと機体の工夫ばかりしてますから」
下界ではシオンと、ロードトスの妹のヴィータが空を見上げていた。
そしてもう1人。
「ロードトス様、タイムは1秒縮まりました!」
計測や誘導などの助手をしているロードトスの婚約者、『傀儡』のリュドミラもいる。
「開催日程は決まったんでしたっけ?」
ヴィータがシオンに尋ねた。
「さっきジンから連絡があったわ。10月10日に決まったそうよ」
「あと一月弱ですね」
「それだけあれば、出場者全員、準備は整うでしょう」
「楽しみですね『マリッカ杯』」
* * *
同日、仁はクライン王国を発とうとしていた。
「ジン殿、いろいろと助かった」
国王メリカランス1世自ら見送りに出ている。
「ジン殿! またお会いしたいものです!」
コーウェン・ラッカ・キドー魔法技術相もまた、仁の手を握り、離れがたそうにしている。
「マキナ殿、『バス』の中間報告をお渡しします」
「これはこれは、わざわざどうも」
「エルナ殿、道中お気を付けて」
「ありがとうございます」
エルザの分身人形、エルナもまた名残惜しそうにするマリエル・ラッカ・パクトラと握手を交わしていた。
「シオン様、お元気で」
「ええ、ありがとう」
シオンDもまた、クライン王国の面々から名残惜しそうに握手を求められている。
ちなみに、この時間、シオン本人はノルド連邦でロードトスの『風力式浮揚機』を眺めているので、老君が代わって操縦していたりする。
そして『アリストテレス』はゆっくりと空へ舞い上がった。
「ああ、ほっとした」
「お疲れ様でした、御主人様」
関係者だけなので、シオンDの口を借りて老君が労いの言葉を述べた。
「……そういえば、コーウェン・ラッカ・キドー魔法技術相って、シオンに脅されたほどじゃなかったな」
「おそらく、シオン様が事前に釘を刺されていたのだと思います」
と、老君がシオンDの口を借りて答える。だがこれに対し、
「……老君、シオンの声と顔でその口調はちょっと違和感がある」
と仁に言われてしまった。
『それでは魔素通信機で』
「うん、そうしてくれ……」
そして、
「お父さま、これからどうされますか?」
との礼子の質問には、
「今日のところは蓬莱島に帰って、明日からクツド鉱山の再開発かな」
「日程も10月10日開催に決まりましたしね」
仁とシオンDの間で、この日の朝、打ち合わせをしたのであった。
「さあ、あとは開催までいろいろやるだけだ」
「ん、手伝う」
「お父さま、お任せください」
そんな声を乗せて『アリストテレス』は大空を行く。
「そうだ、真っ直ぐ蓬莱島へ行くんじゃなく、ノルド連邦へ寄っていこう」
「ん、いいと思う」
エルナも賛成したので、『アリストテレス』は進路を北に取ったのであった。
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