54-23 閑話91 蓬莱島でもやってみた
ある日のこと、蓬莱島で。
「うちでもやってみようか」
ふと思いつきを口にした仁。
『やってみようか』とは、先日『アヴァロン』で行った『デモンストレーション』。
「どっちかというと『ベンチマークテスト』に近い気もするけどな」
『ベンチマーク』とは、本来は測量の水準点を示す言葉だったようだが、現代日本では『コンピュータの性能比較試験』のような使い方が多い。
仕様も構成も異なる複数の機器間での性能比較なので、純粋な性能試験というよりも、実用性試験的な内容が多くなる。
「単純な性能測定としては1000メートル走とか重量挙げとかだな」
『御主人様、『力場発生器』を使い、横向きにも5Gくらい掛けておくのがよろしいかと』
老君からの助言が入る。
「ああ、それなら100メートル走で済みそうだな」
重量挙げも、同じく重力魔法を使ってバーベルの重さを可変してやればいい。
「面白そうなのは反応速度と精密動作なんだよな」
『わかります。……それでは、私が単なるマーカーとしてのレーザー光をランダムに照射して、身体に当たってから飛び退くまでの時間を測定すればいいんでしょうか?』
「そうだな」
今の老君は『亜自由魔力素波』も部分的に制御できているので、蓬莱島勢では最も反応速度が速い。……はずだ。
仁は隣にいる礼子をちらりと見ながらそう考えた。
『精密動作はどうします?』
「そうだなあ……5ミリの玉というのは同じにしておいて、硬さの違う玉を混ぜておき、それを潰さずに時間内(1分)で幾つ移動させられるか、というのはどうだ?」
『いいですね。触覚のフィードバック性能もわかります』
アダマンタイト、鉛、発泡マギ・ポリエチレン。それらに薄くニッケルコーティングをし、外見を同じにしておくのだ。
重さも硬さも異なるので、なかなか難しい……と思われた。
記憶力(短期)はあまり意味がないので、計算速度を純粋に競うのもいいかな、と仁。
「インチキをするはずがないから、時間内に何桁まで平方根を計算できるか、とか、1からnまで足せるか、とかか……」
競技ではなく性能測定なのでショートカットは認めない。
『わかりやすいところで、1秒で幾つまで数を足せるかというのがいいのではないでしょうか』
「うん、それもいいか」
内輪の試験だから不正は絶対にないと言っていいので、何度でも同じ試験ができるわけだ。比較という意味では望ましい。
また、総和はn(n+1)/2であるが、この公式を使うことは禁止。あくまでも算盤の検定のように、1から順に足していくことがルールである。
「そうすると、加重100メートル走、重量魔法挙げ、1分間5ミリ玉移し、2秒で1からnまでの総和計算としてみるか」
『よろしいのではないでしょうか』
「そうだな」
こうして、『蓬莱島標準ベンチマークテスト』が制定され、内容の検証を含めての試技が行われることになった。
* * *
「あたしたちの『ストーム』が、蓬莱島のゴーレムでいうとどのくらいになるのか知りたいわ」
「そうだよな。あれから精密動作に関して制御系見直したんだからな!」
「異議なし」
という、ルビーナ、フレディ、グリーナらの要望もあって、『アドリアナ式』ではない『ストーム』も、参考までに測定することとなった。
蓬莱島勢の参加ゴーレム・自動人形はランド1、スカイ1、マリン1、スミス1、コスモス1、ルビー1、アクア1、ペリド1、アメズ1、トパズ1、ソレイユ、ルーナ、老子、レイ、アン、リーゼ。
マーメイドは人魚型なので今回はパス。
「5ミリ玉と計算はさせてみてもいいけどな」
と仁は考えている。
また、同型のはずのソレイユとルーナや、5色ゴーレムメイドの1をそれぞれ参加させているのは何か有意差が生じていないかどうかを見るためである。
「なかなか壮観だな」
「す、すごいです」
「どうなるのかしら……」
フレディたちも興味津々である。
「よし、それじゃあ加重100メートル走からだ」
試技は、研究所裏の飛行場で行われる。
『位置について……用意……スタート!』
さすがに鉛直方向と進行方向に大きなGが掛かっていると超音速は出せないようで、肉眼でも見られる競技となった。
連続で重量魔法挙げも行う。
その後は1分間5ミリ玉移し、そして2秒総和計算を行った。
結果は……。
ランド1 : 3.2秒 8トン 411個失敗なし 和121まで
スカイ1 : 5.1秒 3トン 424個失敗なし 和123まで
マリン1 : 5.9秒 3トン 419個失敗なし 和119まで
スミス1 : 4.5秒 4トン 545個失敗なし 和178まで
コスモス1: 5.2秒 3トン 415個失敗なし 和120まで
ルビー1 : 7.7秒 2トン 478個失敗なし 和155まで
アクア1 : 7.7秒 2トン 481個失敗なし 和154まで
ペリド1 : 7.7秒 2トン 482個失敗なし 和157まで
アメズ1 : 7.7秒 2トン 479個失敗なし 和156まで
トパズ1 : 7.7秒 2トン 480個失敗なし 和156まで
ソレイユ : 7.8秒 2トン 501個失敗なし 和156まで
ルーナ : 7.8秒 2トン 502個失敗なし 和156まで
老子 : 6.0秒 3トン 477個失敗なし 和1795672303598まで
レイ : 1.9秒 12トン 626個失敗なし 和549まで
アン : 9.0秒 1トン 454個失敗なし 和102まで
リーゼ :12.4秒 1トン 567個失敗なし 和144まで
ストーム :21.7秒 1トン 221個 失敗37個 和57まで
重量魔法挙げは精度が悪く、トン以下の単位は信頼性が低いので全て四捨五入した値である。
精度が低かった点は今後の課題である。
「うーん、わかってはいたけど、速さではかなり負けているな」
「仕方ないわね。でもその代わりという訳じゃないけど、力はなんとか見られるんじゃない?」
「外装のパワーも使ってこれだけどね」
そこへ仁が加わる。
「蓬莱島勢はレア素材使いまくりだしな。『ストーム』とは開発コンセプトが違うから」
「潰しちゃった37個を入れても敵わないわね」
「触覚がないから、慎重にならざるを得なかったという面もあるな」
「その辺は要改造ですね」
「老子の計算は、まあ、老君の能力だしなあ」
桁外れではあるが、当然といえば当然であった。
(だけど……)
内心で仁は訝しむ。
思ったより、ゴーレムの性能が低めだったのだ。それに、アンの性能も、もっと高いはずだと疑問を抱く。
その答えは。
『400年前の御主人様が、通常動作時のリミッターを設定なさったのです』
蓬莱島や仁を守る、あるいは自身の存在を守る以外の動作時、ゴーレムたちは50パーセントの能力までとなさいました、と老君は言った。
そしてアンをはじめとする自動人形は20パーセントに制限されているという。
(なるほど、自分がいなくなったあとの消耗を抑えるつもりだったんだな)
と、400年前の自分について推測した仁であった。
* * *
「あ、そうだジン様、今度アリスを連れてきて測定してもらってもいいかしら?」
「あ、それでしたら私もシャルを」
アリスもシャルも、ルビーナとグリーナが作った自動人形である。
「ああ、いいとも。それより、『オノゴロ島』にも同じ測定装置を作ればいい」
「あ、みんなで試験したら面白そう」
この後、『オノゴロ島』で一時期性能測定ブームが来たという。
おまけ:
「ねえジン様、レーコちゃんは計らないの?」
「礼子か……」
確かに、少し気にはなっている。礼子本人もやりたそうな顔をしているし。
「よし礼子、計算はともかく、出力は30パーセントでやってみろ」
「はい、お父さま」
結果は……。
0.4秒 58トン 1637個失敗なし 和21892まで
というものであった。
「……すごいわね……」
「凄すぎます」
「30パーセントということは、本気を出せばこの3倍以上のパワーが出るということでしょうか」
ルビーナ、フレディ、グリーナらは呆れている。
そして最後の質問に仁答えて曰く、
「いや、礼子の構造からいって、相乗効果もあるから、単純計算はできないと思う」
「それって3倍どころじゃないってことよね」
「まあそうだな」
「……」
「…………」
「頑張る!!」
ということがあったとかなかったとか。
いつもお読みいただきありがとうございます。
20181004 修正
(誤)マーメイドは人魚型なの今回はパス。
(正)マーメイドは人魚型なので今回はパス。
(旧)
「あたしたちの『ストーム』が、蓬莱島のゴーレムでいうとどのくらいになるのか知りたいわ」
「そうだよな」
(新)
「あたしたちの『ストーム』が、蓬莱島のゴーレムでいうとどのくらいになるのか知りたいわ」
「そうだよな。あれから精密動作に関して制御系見直したんだからな!」
(旧)
桁外れではあるが、当然といえば当然であった。
(新)
桁外れではあるが、当然といえば当然であった。
(だけど……)
内心で仁は訝しむ。
思ったより、ゴーレムの性能が低めだったのだ。それに、アンの性能も、もっと高いはずだと疑問を抱く。
その答えは。
『400年前の御主人様が、通常動作時のリミッターを設定なさったのです』
蓬莱島や仁を守る、あるいは自身の存在を守る意外の動作時、ゴーレムたちは50パーセントの能力までとなさいました、と老君は言った。
そしてアンをはじめとする自動人形は20パーセントに制限されているという。
(なるほど、自分がいなくなったあとの消耗を抑えるつもりだったんだな)
と、400年前の自分について推測した仁であった。
ストームとの性能差が小さかったことと、アンの性能が(グランドラゴンを一蹴できたりクロゥ砦の魔導頭脳を屈服させたりしていますので)低すぎることに対しての辻褄合わせです。
<(_ _)>
20181009 修正
(旧)力場発生器』を使い、横向きにも10Gくらい掛けておくのがよろしいかと』
(新)力場発生器』を使い、横向きにも5Gくらい掛けておくのがよろしいかと』
(旧)さすがに鉛直方向と進行方向にそれぞれ10Gが掛かっていると超音速は出せないようで
(新)さすがに鉛直方向と進行方向に大きなGが掛かっていると超音速は出せないようで
双方10Gですと、おそらく踏ん張れない(45度の坂を登るイメージ)と思われるので。
20191111 修正
(誤)蓬莱島や仁を守る、あるいは自身の存在を守る意外の動作時、
(正)蓬莱島や仁を守る、あるいは自身の存在を守る以外の動作時、
20191222 修正
(誤)「あ、そうだジン様、今度アリス連れてきて測定してもらってもいいかしら?」
(正)「あ、そうだジン様、今度アリスを連れてきて測定してもらってもいいかしら?」




