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マギクラフト・マイスター  作者: 秋ぎつね
54 啓蒙篇
2023/4287

54-22 仁の憂鬱

 マリッカの逝去以来、仁はふさぎ込んでいた。

「お父さま、大丈夫ですか?」

 礼子が心配して声を掛けるが、

「大丈夫だよ」

 と答えるばかり。

 マリッカの件が、思ったよりもこたえていたのである。

「……この先、まだまだずっと、知り合いを見送らなきゃいけないのかと思うと……な……」


 ルビーナたちは『オノゴロ島』に帰っている。

 ちなみにエリスとフレディはグリーナの家に招待されていた。


 なので今、蓬莱島にいる人間は仁だけだ。

 それがなおさら、仁の孤独感を募らせていた。


*   *   *


「老君、何かいい考えはありませんか?」

 礼子は思いあまって老君に相談していた。

『礼子さん、御主人様(マイロード)は、今後の身の振り方についてお悩みなのだと思います』

「そうでしょうか?」

御主人様(マイロード)でしたら、一緒にいたいと思われる方の自動人形(オートマタ)をお作りになり、『知識転写(トランスインフォ)』レベル10で人格までもコピーすることは可能です』

 しかし、それをやってしまうことは、はたしていいことなのかどうなのか、葛藤しているのだろうと老君は言った。

『礼子さん、思い出してください、400年前のことを』

「ああ、確かにそうでした。お父さまは、マーサさん、太上皇帝陛下、ミーネさん、ミロウィーナさん、ステアリーナさん、ヴィヴィアンさん……多くの方を見送ってこられました。そのたびに今のように……」

『ええ』

「……でも老君、それについては既に……」

『礼子さん、『まだその時』ではないのでしょう』

「そうなのですか?」

『はい。もう少し、御主人様(マイロード)はこの世界と関わりを持たなくてはなりません』

「その根拠は?」

御主人様(マイロード)を必要とする人が、少なからずいるからです』


*   *   *


 また数日が過ぎた頃。

 仁は工房に籠もっていた。

「お父さま、これはどこに?」

「ああ、それはこっちだ」

 やはり仁は、無為に過ごすことなどできはしないのだと、礼子はほっとしながら手伝いをしていた。


 今、仁は『アドリアナ式』を教えることのできる教師用自動人形(オートマタ)を作っているところだ。

 もちろん、最高レベルまで教えることはない。あくまでも基本を、である。

 その先は自分たちで工夫してもらいたいのだ。

 その結果、仁が思っているものと違うものへ発展したとしても、それはそれでいいと思っている。

 アドリアナ・バルボラ・ツェツィの正統後継者は自分であり、自分の弟子たちは『オノゴロ島』と『ノルド連邦』にいる。つまり技術と想いはちゃんと『直系』に受け継がれているのだから。

「『アヴァロン』に任せればいいだろうな。持って行くのはマキナに任せて……」

 仁は、世界への過度の干渉はもうやめておこうと考えている。

「世界規模の災害や、世界戦争でも起きそうだったら別だけどな」

 誰に話すともなく、礼子や老君に聞こえるように独り言を呟く仁であった。


*   *   *


 『アヴァロン』にて。

「おお、マキナ殿がみえたと?」

「はい。それで、『レーラー』という自動人形(オートマタ)を寄贈してくださいました」

 最高管理官トマックス・バートマンは秘書自動人形(オートマタ)マノンから報告を受けていた。

「『レーラー』?」

「はい。『アドリアナ式』の基礎を教えてくれる教師役、だそうです」

「おお、それは助かる!」

 あの講義以降、アドリアナ式のゴーレム・自動人形(オートマタ)の作り方を学びたいのだが、という問い合わせが殺到していたのである。

「レーラー1から10まで、10体おりますので、当面の教師役には十分かと」

「うむ。まずはその10体を師にして技術者を養成し、将来に備えたいな」

 トマックス・バートマンは頷いた。

「でしたら、5体を技術者養成用に、5体を講師用としたらいかがでしょうか」

「それもいいな。とにかく、これからの技術振興計画をじっくり練らなくては」


*   *   *


「これで1つ」

 蓬莱島では、仁が指折り数えていた。

「次は……そうだな……あれを作るか。礼子、鉛と錫とアンチモンを……いや、そうじゃないな」

 今、仁が言いかけた金属は『活字合金』を作るためのものであった。

 途中でやめたのは、この合金は比較的軟らかいからだ。

 ではなぜこの組成かというと、融点が低い(およそ摂氏240度)こと、型に流した時の流動性がよい(小さな文字も形成できる)こと、凝固収縮が小さい(冷える時の収縮で変形しにくい)ことなどの利点があるからだ。

 だが仁は、この世界らしく『工学魔法』で版下を作ることを考えていた。

「『変形(フォーミング)』を使えばできるよな」

 この世界の文字はアルファベットに近い。数字や特殊記号を含めても、100に満たない種類でなんとかなる。

「活字を組み合わせる方法もいいが、一気に版下を『変形(フォーミング)』で作れば早いよな」

 だが、そんなことができるのは一握りの技術者だけである。

 しかしそれで終わらないところが『魔法工学師マギクラフト・マイスター』だ。

「専用の魔導機(マギマシン)を作ればいいんだ」


 スキャナに相当する部分は『魔導監視眼(マジックアイ)』。それを専用の『制御核(コントロールコア)』でデータ処理をし、一定のフォントに文字を変換、『変形(フォーミング)』で金属板を加工すればよい、と仁は考えたのである。


「これを使って印刷する仕組みはずっと簡単だ」

 ゴーレムアームを応用したオートメーション化も可能である。

「そのあたりは、一般の技術者にも任せようか」

 ということで、手書き原稿を版下にする魔導機(マギマシン)を作り上げる仁であった。


*   *   *


「何!? また、マキナ殿が?」

 『アヴァロン』では、1日空けてまたマキナがやって来たことを驚くと同時に、仁から寄贈されたという魔導機(マギマシン)に驚いていた。

「ううむ、この発想が凄い……。おそらく、先日の印刷を踏まえての発明だろうが……」

 『魔結晶(マギクリスタル)』にデータを保存しておけば、何度でも版下を作ることができるのである。

 印刷技術の革命とも言える。

「さすが『魔法工学師マギクラフト・マイスター』だ……」

 トマックス・バートマンは、これをどう運用するか、早速検討を開始したのであった。


*   *   *


御主人様(マイロード)は、元気が出たようですね』

「ええ、老君。やはりお父さまは『モノ作り』をしてこそ、です」

 蓬莱島では、老君と礼子がほっと胸をなで下ろしていた。

 いつもお読みいただきありがとうございます。


 20200224 修正

(旧)アドリアナ・バルボラ・ツェツィの正当後継者は自分であり

(新)アドリアナ・バルボラ・ツェツィの正統後継者は自分であり

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