54-17 それぞれの時間
結局、翌日つまり28日まで仁たちは部屋に籠もっていた。
28日の昼前には、外部から来た人々はほとんどが帰国しており、その頃にはいつもどおりの『アヴァロン』が戻ってきた。
「カチェアたちに会いに行ってみるかな」
『アヴァロン』における仁の知り合いとしては、トマックス・バートマンら幹部連を除けばエイラ、カチェア、グローマくらいのものである。
「あ、ジン様、あたしも行っていい?」
ルビーナがそう言うので、仁は『いいよ』と快諾した。
フレディとグリーナは2人でいろいろ見学してみるようだ。
「そうか。じゃあ、『ホープ』と一緒に行くといい」
『ホープ』はフレディたちよりもずっと『アヴァロン』について詳しいのだ。
「ついでと言っちゃなんだが、『ストーム』も連れていけ。いろいろ学習させるのはいいことだ」
「わかりました」
もちろん仁とルビーナには礼子が付いてくる。
そしてマリッカは。
「……気が抜けたら、なんだか疲れちゃいました」
だから部屋でのんびりする、と言ったのだった。
* * *
ということで仁、礼子、ルビーナは『ゴー研』……ゴーレム研究室にやってきた。
途中、幾人かの学生に握手を求められたりはしたが、概ね平穏無事にここまで来ることができていた。
もっとも、人ごみを抜ける時は『消身』を使ったが……。
ノックをすると、
「はい」
と返事があって、ドアが開いた。開けてくれたのはカチェアだった。
「あ、ジンさん!」
「やあ、この前ぶり」
「そうですね。……講義、お疲れ様でした。あ、そちらの方はルビーナさん? ようこそ。さあ、レーコさんも中へどうぞ」
「それじゃ、お邪魔します」
「みなさーん、ジンさんが見えましたよー」
「おっ、ようこそ! 来てくれないかと思ったよ!」
エイラは仁の肩を叩き、
「前回は留守をしていて残念でしたよ」
グローマは仁と握手をしながら言った。
「ルビーナさん、ようこそ」
ルビーナも歓迎された。
そして、面識のない『ゴー研』メンバーたちも仁たちを歓迎してくれる。
「クラートスです」
「ラグル・グタンです。よろしく」
「クミルといいます。よろしくお願いしますわ」
「こちらこそ」
仁はまず、エイラとカチェアに、『クリスタルゴーレム』カエラがエリアス王国で活躍したことを説明した。
「へえ、そりゃすごい。あたしたちも鼻が高いってもんだ」
「ほんとですね」
その話を聞いていたグローマは苦笑しながら、
「ああ、本当に残念だ」
と言った。
一方ルビーナは、クミルにお菓子をもらって食べている。
「ルビーナちゃんって凄いのねえ。どこで勉強したの?」
「ええと、マリッカ先生に……」
「あ、そうなんだ! そのあとジン先生に?」
「そ、そうです……」
クミルのテンションの高さに少し引いているが。
「ジン、あんたって本当に『魔法工学師』だったんだなあ」
エイラがしみじみとした口調で言った。
「何を今更」
「……で、今日は何しに来たんだ?」
こんどは打って変わっておどけた口調になるエイラ。
「うん、一番はカエラのことを伝えにな。トマックスさんから聞いているかもとは思ったけど」
「あー、とおりいっぺんのことしか聞いていないよ」
「そうですね。トマックスさんは立場もあるでしょうから、あまりその国の突っ込んだ内容は軽々しく話せないんでしょう」
カチェアもトマックスの心境を慮って言った。
「そうかもな。……ともかく、エリアス王国内の『魔法連盟』残党は一掃されたと言っていいんじゃないかな」
「それはいいことですね」
「ところでジン殿」
グローマが話し掛けてきた。
「『アドリアナ式』を学ぶにはどうしたらいいでしょうか?」
講義の時の同じ質問には明確な答えが得られなかったのである。
「うーん、そうだなあ……」
仁は考える。先代の残した方式は、量産向きではないが、高性能なゴーレム、自動人形を作るためには最適だ。
「近いうち、『アヴァロン』にそうしたシステムを構築することを約束するよ」
「おお、それは嬉しい。ありがとうございます」
講師自動人形を用意すればいいだろう、と仁は考えていた。
* * *
一方、フレディとグリーナはホープに案内してもらい、『アヴァロン』内を散策している。
アカデミーから東北東へ進めば『世界会議』がある。
その議事堂は、『強靱化』を掛けられた石造りで、重厚な建物だ。
「でも内部は近代的なんですよ」
と、ホープに説明を受けて、感心している2人。
『ストーム』は無言で付き従っていた。
このホープが選んだ見学コースは人の少ないルートなので、安心して歩けた。
「こちらは『世界警備隊』の建物です。一般世界では最新最強と言われています」
「ふうん……すごいわね」
「ああ、そうだな」
グリーナも素直にその建物の偉容に感心しているし、フレディはフレディで、仁に鍛えてもらわなかったら、こうしてここを歩くこともなかったろう、などと考えていた。
そして2人は、ぐるりと回ってアカデミー近くの緑地まで戻ってきた。
「……ここも、ジン様がいろいろ協力しているのよね」
「そう聞いているな」
「私たちも、ジン様みたいになれるかしら?」
この問いに、フレディは少し遠い目をしながら答えた。
「頑張ればなれる……と思いたいけど、道は遠いな」
「本当にね」
「でも、歩き続けていればいつかは……と信じたいな」
「うん。頑張ろうね」
「そうだな。……グリーナにはまだまだ敵わないし」
「ふふ、でもフレディって、一気に上達したから、私もうかうかしてられないわ」
話している内容はロマンチックとはほど遠かったが。
そして、
「あれ? ほらジン様、あそこにフレディとグリーナが」
「ああ、ほんとだ。なんだかいい雰囲気だな」
と、2人を見かけた仁は思ったようである。
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