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マギクラフト・マイスター  作者: 秋ぎつね
54 啓蒙篇
2017/4287

54-16 イベント終了

 『ホープ』のデモンストレーションが終わり、製作者である仁が解説を行うことになった。

「ええ、この『ホープ』は『アドリアナ式』です。これまで数度のアップグレードを行っておりまして、稀少な素材も使っておりますので、動作性能的にはあまり参考にならないかもしれません」

 だが制御核(コントロールコア)と制御系に関しては参考になる面もあるはず、と仁は言う。

「『アドリアナ式』は、高性能、超高性能なゴーレムや自動人形(オートマタ)を作る上では非常に有効ですね。一度は『アドリアナ式』について学んでいただけると自分も嬉しいですね」

 と、先代へのリスペクトで締める仁であった。


『ジン先生、ありがとうございました。……時間の都合で、あと1つ、何かご要望などございますでしょうか』

 今度は3人ほど手を挙げた。その中で最も早く手を挙げた者が質問の権利を得たようだ。

『それでは、クライン王国のモーヴ・ソターノさんですね、どうぞ』

「ありがとうございます。ジン先生は、いつも女の子型の自動人形(オートマタ)をお連れですが、その子の性能はどのくらいなのでしょうか?」

 礼子のことを指しているのは明らかである。

 仁は、なんと答えるべきか少し悩んだあと、再び演壇に登った。今度は礼子も連れて、である。

「この子は礼子と申します。先代が作った子で、自分も手を加えております。こんな姿ですが、秘書として、スケジュール管理や工房の在庫管理など、いろいろ任せております」

 100パーセント自分が作った子ではない、ということも主張しておく仁。

 仁の言う『先代』はアドリアナ・バルボラ・ツェツィのことであるが、聞いている者たちは『2代目』であるジン・ニドーのことだと解釈しているはずだ。

「合作というわけですね。参考までに、同じ計測をしていただけないでしょうか?」

 いっぺんに言ってくれよ……と思いつつ、どうしようか、と仁はそばにいた『アヴァロン』のスタッフをちらと見ると、無言で頷かれてしまった。

「……そんなにおっしゃるなら、時間も押していますので何か1つ2つくらいでしたら」

 すると、スタッフが『300メートル走』と『ウエイトリフティング』と小声で言ってきた。

「では、300メートル走とウエイトリフティングで……」

 と答えた仁である。会場からは拍手が贈られた。

(いいか礼子、10パーセント……いや、5パーセントでいけ)

(わかりました)

 仁は礼子に念入りに注意をした。


『では、300メートル走を行います。位置について……用意……スタート!』

 どかん、という轟音と共に土が舞い上がった。ゴーレムの使用にも耐えられるよう突き固め、強化した土が、である。

『ゴール! ……タイムは1秒フラット。秒速300メートルです!』

 亜音速である。

 会場からはどよめきと溜め息が聞こえた。

「すごいですな……」

「確かに、2代目が連れていた黒髪の従者は凄まじい性能を誇ったと聞いたことがある……」

「あれがその従者だと?」

「他にいないでしょう」

 ざわめきの中からひそひそ話が聞こえてくる。

(ああ、やっぱり礼子のことも半ば伝説になっているのか)

 むしろ当然だろう、と仁は思う。エゲレア王国の王族やショウロ皇国の女皇帝をはじめ、礼子の実力をその目で見た人たちは大勢いたのだから。


『次はウエイトリフティングです』

 まだ片付けていなかった魔導機(マギマシン)に礼子が乗る。さすがにバーの高さが合わないので、係員が調整してくれた。

『では、始め!』

 無造作に礼子はバーを持ち上げた。

『2000キロ、プラスアルファ!』

 どうやら2000キロまでしか測定できなかったようだ。

「あ……あの身体で2トンだと……?」

「化け物か……!」

「これが、2代にわたって『魔法工学師マギクラフト・マイスター』に手掛けられた成果か……」

「伝説になるわけだ……」

 会場は5分間くらいざわついたままであった。


『……ありがとうございました。以上で、本日の予定は全て終了です。1日半の短いイベントでしたが、参加者の皆さん、お疲れ様でした』

 会場は拍手に包まれた。


「なんとか無事に終わったな……」

 心配そうに様子を見ていた『アヴァロン』最高管理官、トマックス・バートマンはほっと小さく溜め息をついた。

「ジン殿もマリッカ様も、ジン殿のお弟子さんたちも、期待通り……いや、期待以上の講義だった」

 今回のこのイベントが、これからの世界の魔導技術の発展に寄与してくれれば、こんな嬉しいことはない、とトマックス・バートマンは独りごちたのだった。


*   *   *


「さて、どうするかな」

 護衛に守られて宿舎に戻った仁たちは、これからどうしようかと考えていた。

「ジン様、まだしばらくは外に出ない方がいいと思いますが」

 マリッカが言う。

「外部から来た700人が帰らないと、この混乱は収まらない気がします」

「確かにな。でもそれじゃあと丸1日はここに缶詰か? うんざりするな」

 かといって、迂闊に外に出れば訪問客らに揉みくちゃにされそうである。

 それはルビーナ、グリーナ、フレディたちも同じ。

「シャットアウトしてくれているから助かっていますよ」

 フレディが少し固い声で言った。

「……さっき、ジン様にリクエストした2人……エゲレア王国のデプレースと、クライン王国のモーヴ・ソターノは、昔同じ教室で学んだ奴です」

「なるほどな」

「あ、大丈夫ですよ? 俺はもう、奴らを見返してやろうなんて気は毛頭ありませんから」

 それがいかにレベルの低い争いであるかよくわかった、とフレディ。

「魔法工学の高みを見てしまったら馬鹿馬鹿しくて」

「そうよね……ジン様の足下はまだまだ遠いと思うわ」

 ルビーナも同意している。

「おいおい、いくらなんでも足下はとっくに超えているぞ。もう3人とも、世界レベルでは上の方だ」

 だが、

「上の方、じゃまだまだ満足できませんから」

 とグリーナに言われてしまった。

「蓬莱島……いえ、『オノゴロ島』に帰ったら、もっともっと勉強しないと」

「そうよね!」

 グリーナとルビーナはやる気十分のようだ。

「ねえ、フレディはどうするの?」

「え?」

 そう、フレディは『オノゴロ島』の住民ではない。カイナ村の領主で、エリスという祖母もいるのだ。

「一応クライン王国の名誉国民ということになっているんだよなあ」

「そっか……。じゃあ、グリーナがお嫁に行けばいいんだ」

「な、な、ななな……」

 ルビーナのセリフに狼狽えるグリーナ。

「……そうしてくれると俺は嬉しいんだが」

 フレディは意外と落ち着いている。

「そうか、そういう問題もあるなあ」

 仁も少し考え込む。

 細かいフォローが終わったら、心置きなくヘールに移住したいと思っているのだが、なかなかそうもいかないのが現実。

 その1つが子孫のことである。

「ジン様、そういうことはそれぞれに任せる、ということも必要ですよ」

 見かねたマリッカが仁に助言した。

「それはわかっているんだがな……」

 血縁者に甘い仁である。

「ジン様がいつまでもそれでは、みんな独り立ちできないではありませんか」

「そういうものかな?」

 もう少し考えたい、と言う仁であった。

 いつもお読みいただきありがとうございます。


 20180926 修正

(誤)ルビーナのセリフに狼狽えるルビーナ。

(正)ルビーナのセリフに狼狽えるグリーナ。

 orz

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