54-14 デモンストレーション終了
知力検査は、『計算』と『迷路』ということだった。
計算は問題を一斉に解いて答えをボードに書き、できた者から頭上に掲げるという形式。
迷路は、小規模なものを練兵場に造って、そこを踏破する時間を競うというものだった。
『それでは知力検査その1、計算問題を行います』
8体のゴーレムは横1列に並び、ボードを手にしている。そのボードは『地底蜘蛛樹脂』を使ったホワイトボードである。
『では準備もできたようです。それでは第1問。123+456+789=?』
ほとんど同時にボードが掲げられた。答えは1368。全員正解だった。
『第2問。12×34×56=?』
ゼッケン3、4、5がほぼ同時にボードを掲げた。1秒ほど遅れてゼッケン7、1、2。さらに1秒遅れてゼッケン6、8。
答えは22848である。
『第3問。12.3の4乗=?』
ゼッケン3、4、5、7がほぼ同時にボードを掲げた。2秒ほど遅れてゼッケン1,2、6、8。
答えは22888.6641である。
(うーん、計算問題でも結構差が出るものだな)
『第4問。1から100までの間にある素数を全部足してください』
ゼッケン3、4、5がほぼ同時にボードを掲げた。3秒ほど遅れてゼッケン7、1、2。さらに2秒遅れてゼッケン6、8。
答えは1060。
『第5問。96498÷64=?』
ゼッケン3、4がほぼ同時にボードを掲げた。2秒ほど遅れてゼッケン5、7。それに2秒遅れて1、2。さらに1秒遅れてゼッケン6、8となった。
答えは1507.78125。
『以上で計算問題を終了します』
(制御核の性能と、基礎制御魔導式の優劣が出るんだな)
この他にどんな問題を出せば、よりそうした機能の差を知ることができるだろう、と仁も考えてみた。
(パズル、なんてのはよさそうだ。それからトランプみたいなゲームでの対戦。チェスや将棋でもいいかもしれない)
そうしたゲームの場合、勝敗が付くのに時間が掛かりすぎるな、と仁は自己批判した。
(記憶力テスト、というのは意味あるかな……)
などとも考えてみる仁。
(少なくとも、蓬莱島勢には意味がないな)
短期記憶という点では、ゴーレムたちは忘れるはずがないのだから。長期記憶となると、余計な情報は棄却されるのだが。
「……くっ、屈辱だ」
一部の参加者は、自分たちのゴーレムが思ったより計算能力が劣るということを思い知らされて悔しがっていた。
「うーん、フレディはいい師とお仲間に恵まれたようね」
そして、フレディの成長を喜ぶ者もいたりする。
* * *
『それでは、迷路の準備ができましたので、ゼッケン1から順に挑戦してもらいます。皆様には、上空の飛行船から見下ろした映像をお届け致します。なおこれは他の参加ゴーレムには見えないようになっております』
巨大魔導投影窓に迷路の様子が映し出された。
仁が抱いた感想は、
「うーん、この規模だと学園祭で教室に造った迷路だな」
というものだった。
加えて、
「……何かに似ていると思ったら、あれだ。マウスに迷路抜けさせるヤツ」
という感想も。
参加ゴーレムは迷路の上からは見ることができないので、行き止まりにあったら分岐まで戻って別のルートを進む、という繰り返しでゴーレムは迷路を踏破していくしかない。
動作の素早さと、ルートを記憶して解析できるかどうか、それが鍵になりそうだ、と仁は思った。
『ゼッケン1アヴァロン汎用ゴーレム、1分56秒』
比較対象なのでこれが速いのか遅いのかわからないため、観客もぱらぱらと拍手をするだけだ。
『続きましてゼッケン2、用意……スタート!』
(うーん、ごつい分迷路内での動きが少しだけ鈍い気がする)
という仁の感想どおり、
『ゼッケン2アヴァロン戦闘用ゴーレム、2分4秒』
と、汎用ゴーレムより少し遅い結果となったのだった。
(……タイム差がほとんどないところを見ると、こうした状況判断のアルゴリズムは共通なんだろうな)
と、見抜いている仁がいた。
その間にも測定は進み、
『ゼッケン3『試作8型』、1分32秒』
と、かなりいいタイムでグローマたちのゴーレムは迷路を踏破していた。
『続きましてゼッケン4、用意……スタート!』
(お……うーん、こっちのアルゴリズムはまだまだだな。改良の余地がうんとある)
フレディたちが作ったゴーレムの『制御核』、その『基礎制御魔導式』はまだまだ未熟であった。
『ゼッケン4、1分12秒』
おおお、と声が響き、拍手が起こる。
だがフレディ、グリーナ、ルビーナたちの顔は不満そうだ。
(あの3人もわかったようだな)
仁が見たところ、3人の技術なら1分を切れなくては駄目なのだ。
(基礎制御魔導式の構築はまだ勉強不足……というより経験不足、かな?)
そういう意味でも、この大会は彼らにとっても大きな意義があったといえる、と仁は思った。
『……ゼッケン5『ロッテ53型』、1分20秒』
健闘ぶりに拍手が起こった。
(逆にこちらは円熟したシステムなんだろうな)
改良に改良を重ねた結果がこの好タイムを生み出したのだろうと仁は予想した。
『……ゼッケン6『ユピテラ』、2分38秒』
(ああ、ソフトウェアには力を入れていないんだな……そういう思想なのかな?)
たまに、ハードウェアに注力してばかりでソフトウェアは軽んじる技術者がいる。
確かにハードウェアは目に見える分、成果もわかりやすい。
反面、ソフトウェアはどこが改良されたのか目では見えず、最悪『何もしていない』と上司から思われてしまうことも……そういう上司は極まれであるが……あるにはあるのだ。
(おっと)
などという考えに耽っていたら、次の試技が終わるところであった。
『ゼッケン7『アーリア』、1分41秒』
(なかなかいい値だな。確かに、ボディの善し悪しだけではなく、こうした評価方法ももっと広まったっていいよな)
ソフトウェア重視の技術者だっていておかしくない、と仁は思っている。
『ゼッケン8『グレートロック』、2分1秒』
(今はまだ成績が悪くても、伸び代があるということでもあるよな)
『これで全員の試技が終了致しました。お疲れ様でした』
会場を拍手が包んだ。
前にも書いたが、競技ではないので順位は付けない。が、誰が見てもゼッケン4『ストーム』の優秀さは群を抜いていた。
『それでは総評を、ジン先生にお願い致します』
(え、聞いてないぞ)
とは思ったが、これまで感じていたことをそのまま口にすればいいか、と割り切って、仁は臨時に設けられた演壇へと向かったのであった。
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