54-10 ちょっとした出来事
夕食時。
仁たちは同じテーブルで食事を摂っていた。
「明日の予定は何だっけ?」
いち早く食べ終わった仁が尋ねた。
「午前中がゴーレムのデモンストレーションですよ」
マリッカが答えるが、
「ああ、それは知ってる。すまん、その内容が知りたかったんだ」
と、仁。
「それについてはまだ連絡が来ていませんね」
「まあ、ハードなバトルはないだろうな」
「ジン様、あたしたちのゴーレムと、ここのゴーレムとが競い合うの?」
2番目に食べ終えたルビーナが聞いてきた。
「そうらしいな。……『オノゴロ島』での競技とは多分レベルが違うぞ?」
「まあ、そうよね。でも楽しみだなあ」
自分たちが作ったゴーレムが、この世界のレベルで言うとどのくらいなのか、ルビーナとしては非常に興味があったのだ。
そしてそれはフレディやグリーナも同じだった。
「性能の比較、といった内容だと思うけどな」
仁としてはそう言うしかなかった。
夕食後、その他にも翌日のことを打ち合わせておこうと思った仁だったが、
「ジン様、少し疲れたので私、先に休ませていただきますね」
「ああ、さっきもそう言っていたっけ。いいよ、ゆっくり休んでくれ」
「はい、それではお休みなさい」
「お休み」
マリッカは抜けたが、ルビーナたちはまだまだ元気そうなので、仁は少し話をしておくことにした。
「……っと、そうだ、その前に」
仁はホープに向き直った。
「ホープ、持ってきたペルシカジュースをマリッカに差し入れしておいてくれ」
「はい、わかりました」
ホープはペルシカジュースの入ったボトルを持ち、マリッカの部屋へと向かう。それを見送った仁は3人に向き直った。
「さて、明日のことだが、ゴーレムのデモについては俺は基本ノータッチでいきたい」
「ええっ!?」
「な、何で?」
フレディとルビーナは声を上げたが、グリーナは少し考えてから、
「ジン様が手掛けたゴーレムではないから、ですね?」
と確認するように尋ねた。仁は頷いてみせる。
「そうだ。もちろん不測の事態でも起きれば絶対にフォローする。バックには俺と礼子とホープが付いていることを忘れるな。それに蓬莱島とオノゴロ島も」
それは全世界を相手取ってもおつりが来るのだが。
「それは……この上なく安心できますね」
「う、うん」
「ジン様、ありがとうございます。それを伺っているだけで百万の味方を得た思いです」
意外とグリーナは舞台度胸があるのかな? と感じた仁である。
「とはいえ、デモンストレーションにあたり、命令者ははっきりさせておいた方がいいぞ」
3人が共同製作したものだけに、『至上の主人』がはっきりしておらず、3人が同時に違う命令を出すと、おそらく混乱してしまうだろうと仁は予想していた。
「あ、そうかもしれません」
「それは気が付きませんでした」
「それじゃあ、今、決めちゃう?」
フレディ、グリーナ、ルビーナは仁に指摘されてその危うさに気が付いたようだ。
「じゃんけん、ぽん」
「あ、負けた」
結局、フレディ、ルビーナ、グリーナの順に優先順位を付けることになった。
「うん、これでいざという時、命令系統が混乱せずに済む」
仁も懸念事項がまた1つ消えてほっとした。
「それで、明日行われるデモンストレーションなんだが、俺の予想する内容は……」
仁は3人に説明していく。
予想と言ってはいるが、おそらく仁の考えの方が困難な内容が多いであろう。
1時間ほど打ち合わせをした仁は、3人と別れて自室に戻った。
3人はその後、もう30分ほど打ち合わせをしていたようである。
「それじゃあ優先順位1位のフレディ、頑張ってね」
「ええ……?」
というやり取りがあったかは定かではない。
* * *
さて、翌日である。
朝食後、デモンストレーションまでまだ少し時間があるので、仁は近辺を散歩してみることにした。もちろん礼子も、そして今回はホープも一緒である。
宿舎周辺も緑地化されており、新緑がきれいだった。
「随分と整備されたな」
白や赤の花を付けたツツジ類が綺麗である。
周囲は立ち入り禁止のロープが張られており、外部から個人的な接触ができないよう配慮されているようだ。
「歩ける範囲が狭いな」
「はい、お父さま」
そしてロープの向こう側にはぽつぽつと人影が見える。
(おい、あれ『魔法工学師』じゃないか?)
(一緒にいるのは自動人形とゴーレムだ。間違いない)
などという声が、仁の耳にも聞こえてくる。
「落ち着かないな……戻ろう」
周りから見られていると思うとやはり落ち着かない仁であった。
その、戻る途中。
(……フレディの奴、出てこなかったな)
という声が聞こえてきたのである。
その口調が気になったので、仁は礼子に、
(礼子、今の声の主が何を言っているのか、老君に探らせてくれ)
と指示を出した。
「はい、お父さま」
先日完成した『魔導盗聴器』を使えば簡単である。
* * *
仁と礼子が部屋に戻ると、仁の『仲間の腕輪』へ、老君から連絡が入った。
『御主人様、彼らの会話内容がわかりました。これより報告致します』
「うん、頼む」
老君が再生した会話とは……。
「フレディの奴、本当に魔法工学師の弟子になったのかな?」
「さあ、わからないな。家柄だけは、先代の血を引くらしいが、あの無能がなんで弟子になれたのか不思議だぜ」
「ここで待っていても出てこないか……」
「この後、ゴーレムのデモンストレーションがあるから、そっちを見に行こうぜ」
「先生もそっちに行ったみたいだしな」
「しょうがない、そっちへ行くか」
……というものだったという。
「フレディの昔の同僚か。……そういう性格というか……人格は技術とは別なんだなあ」
いつの世にも、人を侮ったり馬鹿にしたりする人間はいるものだ、と仁は少し残念に思ったのである。
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