54-01 卒業
3900年5月20日。
エリアス王国ブルーランドへ行って、クズマ侯爵の娘さんたちの適性を調べたり仲よくなったりというエピソードを挟んだが、フレディ・ニドーの教育は概ね順調に進んだ。
そして今日は『初級教育』卒業の日だ。
仁の斜め後ろには、一緒に修業したルビーナ・ギャレットとグリーナ・クズマ、それに『森羅』のマリッカが。
「よく勉強したな。もう『知識転写』もレベル3くらいまでは使いこなせるはずだ」
「はい、ありがとうございました」
「ということで、この魔結晶を『知識転写』でコピーして、その後自分に転写してみるんだ。それが卒業試験になる」
「はい!」
『知識転写』は、固有の魔力パターンを持たない魔結晶になら誰でも使うことができる、読み取ることも書き込むことも。
だが、自分の頭に内容を読み込むことは、自分の魔力パターンに合った情報のみ可能である。
この理由は完全には解明されていないが、一応次のように説明されてはいる。
——魔結晶から魔結晶への転写は、要するに『複写』である。その内容に関わらず、書き込むことは可能だ。
英語を知らなくても英文を見よう見まねで書き写すことができるのと同じである。
だが、人間の脳に情報を読み取る時はちょっと違う。内容を理解できないのでは意味がないからだ。
あまりいい例えではないが、魔力パターンを『筆跡』のようなものだとする。
自分で書いた文字は、かなりの癖字であっても読み取れる。逆に赤の他人が書いた癖字は読みにくい。つまり、そういうことだ。
また、魔結晶から魔結晶への転写は、他人の筆跡から自分の筆跡への変換というわけだ。
この時、『知識転写』という『魔法』が、自動的にコピーしてくれているわけである。
こうして、『自分の筆跡』で記録された情報なのできちんと理解できる、というわけである。——
ちなみに魔結晶から魔結晶への転写の時、『知識転写』という魔法がどういう処理をしているか、それはまだ解明されていない。
『読み出し』と『書き込み』を組み合わせたらしいことはわかるのだが、その2つの魔法を繋げている『インターフェース』が謎なのである。
そのあたりに、『自分の頭に内容を読み込むことは、自分の魔力パターンに合った情報のみ可能』という理由がありそうではあるが……。
閑話休題。
その『知識転写』を使ってフレディは、仁から渡された情報魔結晶を、別の魔結晶にコピーするところから始めた。
「『知識転写』!」
まだ未熟なフレディなので、レベル指定は行わないし、行えない。
それでも『知識転写』は発動し、見事にコピーは行われた。
「よし、いいぞ」
仁はコピーされた魔結晶を確認し、内容に間違いがないことを確認した。
いよいよ自分への『知識転写』である。
(頑張って……!)
それを見ているグリーナ・クズマは心の中でエールを送った。
「『知識転写』!!」
魔結晶が淡く光り……。
「『追跡』……うん、成功しているな」
「やった!」
声を上げたのはルビーナである。
一緒に『変形』や『読み出し』、『読み取り』などの魔法の訓練、そして座学を学んだので仲間意識が芽生えたのだろう。
というか、ルビーナはともかくとしてグリーナは仲間というより、もう少し違う関係を意識しているかもしれないが……。
「……あ、ああ……この、知識は……」
「それが第1段階の知識だ。使いこなせるように練習するんだ」
おおよそ小学生レベルの科学知識、それに中級レベルの工学魔法知識である。
「大事なことだからもう一度言うぞ。知識はただ『知っているだけ』じゃあ駄目だ。使いこなせないとな」
「わかり……ました……」
膨大な知識が頭に転写された衝撃から少し立ち直ったフレディは、
「ありがとうございます、ジン様」
と、仁に向かって頭を下げたのであった。
* * *
「ああ、これで1つ、肩の荷が下りた」
「お父さま、お疲れ様でした」
「ジン様、お疲れ様です」
仁は今、蓬莱島の『家』で寛いでいた。
礼子とマリッカも付き合っている。フレディ、グリーナ、ルビーナらは研究所で何やらやっているようだ。
「そういえば、この前ブルーランドへ行ったそうですね」
お茶を飲みながらマリッカが言った。
「うん。ほら、前にシオンから聞かされたクズマ侯爵の娘さんたち3人の短期家庭教師……というより適性を見るためにな」
「小さい時から適性に応じた教育をするのは大事ですからね」
「そう思うよ。……フレディも、手遅れにならなくてよかったと思う」
「本当ですね」
そして、話題は現在の世界情勢に。
「この前、エリアス王国の首都へ行ったけど、魔法工学をはじめとした文化文明のレベルが下がっていて愕然としたよ」
もっと前に行ったポトロック周辺は、『懐古党』の影響があったのか、そこまで落ちているようには見えなかった、と仁。
「ああ、それはやっぱりザウス州の領主であるフィレンツィアーノ家の影響もあると思いますよ」
「そういうことか」
確かに、『フィレンツィアーノ』の姓を持つシトラネラ・ド・ザウス・フィレンツィアーノは魔法技術省次官だった、と仁は思い返した。
「シトラネラさんは確か次女で、お姉さんが現領主だったとおもいます」
「へえ」
別に女系家族、というわけではないんですけど、とマリッカ。
「ですが、なぜかフィレンツィアーノ家では代々女性の方が領主になってますね」
そういう家風もあるのだろうし、エリアス王国はあまりそうした性別に拘りがないのだろう、と仁は思った。
「話は変わりますが、この前『アヴァロン』から相談がありまして」
マリッカが話題を変えた。
「先日、ジン様がエリアス王国に寄贈したゴーレム……あ、戦士ゴーレムの方ですが、あれの講義をお願いしたいと連絡がありました」
「ああ、なるほど」
『アヴァロン』から仁に連絡を取る際は、いろいろ紆余曲折があって、今現在は『ノルド連邦』のシオンかマリッカ経由にしてもらっているのだ。
「『魔法骨格式』か……望むところだ」
「じゃあ、早速返答しておきますね」
「頼む。……そうだな、そこへフレディも連れて行くとしようかな」
「ああ、いいと思います」
フレディは『表』で生きていく男だ。こういうところで名前を売っておくことはけっして無駄にはならないだろう、と仁は考えたのである。
ちなみに、今のフレディなら、『アヴァロン』の講師連中とも対等くらいに話はできるだろう。
少なくとも助手として十分な実力を持っているといえる。
* * *
「え、俺が『アヴァロン』に!?」
「そうだ。きっといい勉強になるぞ」
「ジン様、あたしたちは?」
ルビーナは行きたそうな顔をしている。
「そうだな、弟子、という扱いなら構わないだろう。……構わないよな、マリッカ?」
「ええ、そうですね。お弟子さんならまったく問題ないですね」
「わーい! ねえ、グリーナも行くでしょ?」
「え、ええ」
こうして仁たち一行は『アヴァロン』を訪れることに決まったのである。
いつもお読みいただきありがとうございます。
20180911 修正
(誤)仁から渡された情報魔結晶を、別の魔結晶にコピーするとことから始めた。
(正)仁から渡された情報魔結晶を、別の魔結晶にコピーするところから始めた。
20180918 修正
(旧)というか、グリーナは仲間というより、もう少し違う関係を意識しているかもしれないが……。
(新)というか、ルビーナはともかくとしてグリーナは仲間というより、もう少し違う関係を意識しているかもしれないが……。




