53-11 幕間十一 崑崙島と洗脳対策
3459年2月1日、仁は、『賢者』シュウキ・ツェツィが設置した、『ミツホ国』を見守り導いてきた教育用自動人形『アキツ』の拠点を、元あった『大サハラ砂漠』から『崑崙島』へと移動させた。
『ミツホ国』とアキツの拠点を結ぶ『転移門』の能力は十分で、この移動でも問題なく2地点を結んでいた。
『崑崙島』には、仁が作った『翡翠館』と『五常閣』という2つの高級宿泊施設があり、それぞれの支配人と女将として青髪の自動人形、ロルとレファが派遣されていた。
しかし、仁が没した後、『崑崙君』を継ぐ者がおらず、従って『崑崙島』は自然とリゾート地になっていったのだ。
仁の遺志として、この地は一般に広く開放することを目的としていたので、老君も、また『崑崙島』を管理している管理統括魔導頭脳『太白』も、大きな干渉はしなかった。
だが、3765年。
『魔法連盟』が台頭した時代、老君はいち早く手を打った。
ロルとレファ、アキツを移動させたのである。
ロルとレファは蓬莱島へ。
アキツは元いた『大サハラ沙漠』の『地下』へ。
アキツを蓬莱島に引き取らなかったのは、『ミツホ』とアキツの絆が断たれることを恐れたのである。
『ミツホ』では、新しい指導者が誕生すると、今でもアキツに会いに来る慣習が続いていたのだから。
『アキツさん、貴女を蓬莱島へお呼びできなくて面目次第もございません』
老君はアキツに謝罪した。
彼も、『賢者』シュウキ・ツェツィが設定した役目を、自分が終わらせてしまうのは忍びなかったのだ。
「いいえ、お世話になりました。ありがたく思っております」
『お詫びの印として、貴女の補佐に、『ジョン・ディニー』をお付けします』
「ありがとうございます」
ジョン・ディニーは、仁の身代わりとして作った、遠隔操縦もできる自動人形、デウス・エクス・マキナの外見を少し変えたもの。
名前を付けたのはエルザ。『JIN NIDOH』の文字を並べ替えて『JOHN DINI』としたのだった。
異民族として扱われていたミツホの国を中心に情報を集めてくれた。
彼は3459年2月にその役目を終えて蓬莱島に帰還していたのである。
いち早く、と書いたが、実際には老君が打った手はギリギリであった。
『崑崙島』を管理している管理統括魔導頭脳『太白』の退避が間に合わなかったのである。
『魔力模倣機』を使用したゴルバート・マルキタスに支配されてしまったのだ。
それは、未来へ飛ばされた仁が3899年に解放するまで続いたのであった。
* * *
ところで、かつてミツホの首長ヒロ・ムトゥはジョン・ディニーに、『アキツ様のような存在が各地にいらっしゃるはずだ』と言っていたが、その後の調査ではそうした自動人形は見つからなかったことを付け加えておく。
残念ながら、時の流れには抗えなかったようだ。
* * *
そして3900年5月。
「そうか、結局『崑崙君』は不在のままか」
蓬莱島では、かつての『崑崙君』である仁が、老君から現状を聞いていた。
『はい、御主人様。400年前の御主人様は、崑崙島を一般公開しよう、と仰いました』
「そうか……」
確かに、自分ならそんなことを言いそうだ、と仁は思った。
蓬莱島は無理だが、崑崙島なら、一般に開放しても問題ないレベルだからだ。
しかし、である。
『結局はそのことが災いして、一旦『太白』を支配されてしまったわけですが』
「そうだよな……」
仁は、ふと何かを思い付いたように顔を上げた。
「そうだ、そういう『支配系』の魔法を解除してしまうような魔導具って作れないものだろうかな?」
『あったらいいですね』
「うん。……どういうやり方が一番いいか……俺としては、常時発動させていても問題ないようなものにしたいなあ」
漠然とではあるが、ジャマー的なものを仁は作りたいと思っていた。
だが、そう簡単にアイデアが湧くものではない。
「……こういうのって、ハンナがいいアイデア出してくれたよな」
ふと、またしても昔を思い出してしまう仁。
『そうでしたね』
「だが、無いものねだりをしてもしょうがない。……うーん、どうやったら実現できるかな」
『……』
「老君にもいいアイデアはないか……となると、ここは論理的に追っていくしかないな」
『……申し訳もございません、御主人様』
「いや、いいんだ」
そもそも、老君は論理的に詰めていく方が得意なはずだからだ。
「……で、だ。そうした支配系の魔法というのは、魔力で言うと周波数が高いはずだよな」
『はい、御主人様。精神波は、個人差はありますが概ね高い傾向にあります』
「うん……あとは、人間の場合は……」
催眠や暗示といった洗脳系の魔法を人間に掛ける場合は、音叉の共鳴に例えられる。
その者の精神波(魔力波の一種)に同調されせた強力な魔力波で強引に命令を与える、といえば想像が付くだろうか。
その場合、永続的な効果を持たせるため、また、魔法への抵抗力を下げるため、脳の活動を低下させる方法も併用される。
思考力が落ちるとその人間を操る意味がないので、意志のみを低下させるのがコツ。……らしい。
過去に行われた洗脳事件から、老君はこの魔法の手順や効果、またその働きをかなりのレベルで把握していた。
「なるほど、まず意志の力を少し削いでからだと効果があるのか」
『はい、御主人様。睡眠中に使うと一層効果的なようです』
「寝ている時って無防備だものなあ……」
そうした情報を元に、仁は必要な魔法を考えていく。
自分が使えないものでも、『魔法制御の流れ』がわかれば、それを『魔導式』で記述できる。
それが『魔法工学師』だ。
こうした苦労の末、仁が作り上げた『洗脳解除装置』の原理は、やはり音叉の共鳴だ。
人間を一つ一つ違う固有振動数の音叉に例えると、この装置はほぼ全ての人間に対応する周波数(振動数)の精神波を出す。
やり方は周波数を低い方から高い方へ、また高い方から低い方へと連続で繰り返し変化させ、全てのスペクトルに対応させる方法を取っている。
それは超強力な強制力を持ち、洗脳された状態を強引に『キャンセル』してしまうものだ。
魔力波の内容に意味はないから、これによる洗脳効果はない。ただ、かなりの不快感を感じることになる。
もちろん、単純なものではなく、精神状態を安定させる効果や、脳への悪影響をなくすための治癒効果なども考慮されている。
同時に、調整次第で『妨害装置』の役割もしてくれる。
出力を絞ることで、『催眠』『暗示』『洗脳』系の魔力波に干渉し、効果をなくしてくれるのだ。
しかも、人体への影響は少ない。せいぜいが『なんだかザワザワするな』くらいの影響である。
* * *
この装置は『懐古党』のエレナにも協力してもらい、『魔法連盟』の残党で試し、その効果を確認した。
もちろんその協力を感謝するため『懐古党』にも寄贈してある。
『懐古党』では、仁の許可を得てこの装置をエリアス王国首脳部にも用い、根深かった『魔法連盟』の影響を根絶することができた、という。
いつもお読みいただきありがとうございます。
20180910 修正
(誤)『大サハラ砂漠』
(正)『大サハラ沙漠』
『沙漠』は本来の文字遣いです。『砂漠』は『沙』の字が1976年に人名用漢字に加えられるまで表外字だったため、『砂』が一般的になっています。
本来の雰囲気を出したくて『沙漠』としています。
(旧)
1人1人が違う固有振動数の音叉に例えると、この装置はほぼ全ての人間に対応する周波数(振動数)の精神波を出す。
(新)
1人1人が違う固有振動数の音叉に例えると、この装置はほぼ全ての人間に対応する周波数(振動数)の精神波を出す。
やり方は周波数を低い方から高い方へ、また高い方から引く方へと連続で繰り返し変化させ、全てのスペクトルに対応させる方法を取っている。
20180911 修正
(誤)『結局は、そのことが一旦『太白』を支配されてしまったわけですが』
(正)『結局はそのことが災いして、一旦『太白』を支配されてしまったわけですが』
(旧)1人1人が違う固有振動数の音叉に例えると、
(新)人間を一つ一つ違う固有振動数の音叉に例えると、
20190105 修正
(誤)その者の精神波(魔力波の一種)に同調された強力な魔力波で強引に命令を与える、といえば想像が付くだろうか。
(正)その者の精神波(魔力波の一種)に同調させた強力な魔力波で強引に命令を与える、といえば想像が付くだろうか。
20200725 修正
(誤)ところで、かつてミツホの首長ヒロ・ムトウは
(正)ところで、かつてミツホの首長ヒロ・ムトゥは




