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マギクラフト・マイスター  作者: 秋ぎつね
52 子孫トラブル解決篇
1985/4423

52-57 急展開

 模擬戦の終了宣言が出された。

 勝敗はもちろん……。

《引き分け!》

「な、何だってー!?」

「どこが引き分けなんだ!!」

「勝敗は明らかじゃないか!」

 などという声が聞こえてくる……どころではなく、大ブーイングなのだが、主審である近衛騎士副団長ヒューガス・アンロックは平然としており、国王に向けてお辞儀をした。

「ふむ。……決定打がないため引き分け、か?」

 国王アダルベルト・ニーモ・エリアス1世が訳知り顔で頷く。

「へ、陛下!」

 何か言いかけた魔法技術省次官シトラネラ・ド・ザウス・フィレンツィアーノだったが、

「フィレンツィアーノよ、近衛騎士副団長は戦闘の本職だ。その決定に異議を唱えてはならぬ」

 と国王に言われ、続く言葉を呑み込んだのであった。


 一方、仁とトマックス・バートマンは、

「ジン殿、今の模擬戦はどう見てもヴォルクの勝ちでしょう!」

 と言うトマックスに対し、

「いや、元々性能を確認するための模擬戦でしたから、勝敗は付けない方がいいのでは」

 と、『見かけ上は』平然とする仁である。

「ジン殿、よろしいのですか?」

 と、トマックスが言うが仁は無言で頷いた。

 閣僚の方は、この判定をよしとする肯定派が2割、異議があるという否定派が8割くらいに分かれており、その2割の肯定派の中でも3人ほどが特に引き分けを主張していた。


 実は、仁にはこの茶番劇ともいえる事態が起きることは見当が付いていた。

 というのも、新王がヴォルクに出した命令は、

 『よしヴォルク、お前の力を見せてもらおう。よいか、『やや優勢な引き分け』に持っていくのだぞ』

 というものであったからだ。

 これは礼子の聴覚によってもたらされた情報であり、さらには老君がその意図を推理した結果、

(この場で『魔法連盟』派……というか、魔法技術振興反対派を洗い出す意図がある可能性……か)

 という結論に至ったのである。

 先王の治世には、エリアス王国は『魔法連盟』の本拠地の一つとなり、その影響でかなりの知識人が国を捨てていた。文化・文明的に大きく後退しているのだ。

 新王はそんな国情を憂い、何とかしたがっている……のかもしれない。

 いまだに政治の場に根を張っている『魔法連盟』派の連中を根こそぎにしたいという考えを抱いているのだとすれば、仁としても協力するのにやぶさかではない。

 だが、今のところ判断が付かないのである。

(だとすると、新王はかなりの狸かもな)


 ところで、このアルスには狸に相当する動物はいない。近縁種でタグンという、アナグマとアライグマとハクビシンを足して3で割ったような雑食性の動物がいるくらいである。

 もちろん人を化かしたりはしないので、『狸親父』と言っても通じない。


 閑話休題。

 そういうわけで、仁は多少、いや結構腹立たしさはあるものの、新王がどういう態度を取り、どういう処置をするのか興味があったのである。


《吾(われ)の即位祝い、確かに受け取った。魔法工学師《マギクラフト・マイスター》ジン・ニドー、感謝する》

 改めて国王の言葉が練兵場に響き渡り、最初はぱらぱらと、そして次第に大きくなり、万雷の拍手となった。

 皆、わかっているのだ。誰のゴーレムが勝者なのかを。

 そしてそれは魔法技術相フィオリーナ・ド・ドランテも、魔法技術省次官シトラネラ・ド・ザウス・フィレンツィアーノも同じ思いであった。

 ただ近衛騎士副団長ヒューガス・アンロックのみは、その顔を醜く歪めていた。

 実は彼こそはエリアス王国の獅子身中の虫。『魔法連盟』の急先鋒だったのである。

 そういった意味で、新王の策はうまくいったと言えるだろう。

 エリアス王国中枢部に残っている『魔法連盟』残党は、彼を入れて4名。彼らは、『魔法工学師《マギクラフト・マイスター》』と『アヴァロン最高管理官』を同時に始末できるこの機会を逃すまいと考えていた。


*   *   *


 式典が終わると、まず国王と王族が王城へと引き上げ、次いで閣僚、そして来賓という順である。一般の観衆は最後だ。


 仁とトマックス・バートマンは、近衛騎士団10騎に守られて王城へ向かう。この後は城でパーティーが行われる予定なのだ。

 行きと同じ自動車でゆっくりと王城へ向かう仁たち。

 その王城を目前にして、突然自動車が急停止した。

 中央通りが広くなった、王城前の多目的広場だ。

「何だ?」

 運転手が焦った声を出すが、自動車は止まったまま。

「ど、どうしたというのだ!?」

「なぜ動かない?」

 見た目は何も異常がないのに、まったく動かなくなってしまった自動車に、護衛の騎士たちも戸惑っている。

《……これだから、『魔導機(マギマシン)』などという物は信用できないのですよ》

 どこからともなく声が響き、異形のゴーレムが姿を現した。

 姿はかろうじて人に見えなくもないが。首がなく、肩の上に直接頭が載っている。

 胴体は樽のように太く、支える脚は3本。そして腕は何と6本も付いていた。

 それが3体、現れたのである。


「何者だ!」

 護衛の騎士が無駄とは知りつつ誰何するが、ゴーレムはそれには答えず、雷属性魔法、『落雷(サンダーボルト)』を放ってきた。

「うわっ!」

 それは騎士たちの足下で弾ける。青白い火花が飛んだ。

《お前たちは下がれ。用があるのはその客人たちだ》

「馬鹿なことをいうな! 賓客を危険な目に遭わせるなど近衛騎士の名折れだ!」

《無駄なことをして怪我をしても知らぬぞ》

 異形のゴーレムは再度『落雷(サンダーボルト)』を放った。

 それは先頭の騎士の馬に直撃。馬は鳴き声を上げることさえできずに昏倒した。

 乗っていた騎士は路上に投げ出され、そのまま動き出さないのは『落雷(サンダーボルト)』の余波を喰らって身体が痺れているのだろう。

《威力は弱めたから、馬は死んでおらぬだろう。忠告は聞くものだ》

 異形のゴーレムが傲岸不遜な口調で言った。

「うぬ……!」

 残る9騎の騎士たちは気圧され、異形のゴーレムが一歩前に出ても何もできない。

《そうだ。そうして見ているがいい》

 異形のゴーレムは仁とトマックスが乗った自動車めがけて『落雷(サンダーボルト)』を放った。

 だが、その電撃は自動車の遙か手前ではね返され、消滅した。

《ぬ?》

「させませんよ」

 仁とトマックス、それぞれが乗った自動車の前に立つ、2つの影。

「どこで襲ってくるかと思いましたが、ここでしたか」

 1つは小さな女の子の姿、礼子である。

「そちらの思い通りにはさせませんから」

 そしてもう一つは、トマックスの秘書自動人形(オートマタ)、マノンである。

「礼子お姉さま、守りはお任せください」

「わかりました。任せましたよ」

 マノンは5色ゴーレムメイドがベースになっている。出力こそデチューンされているが、結界機能はそのままだ。

 つまり、『魔法障壁(マジックバリア)』『物理障壁(ソリッドバリア)』双方を張れるのである。


《自動人形(オートマタ)、だと? 小賢しい! わが魔法の前に屈せよ! 『停止(スタンドスティル)』!!》

 異形のゴーレムは礼子めがけ、停止命令を放った。

 いつもお読みいただきありがとうございます。


 本日は 異世界シルクロード(Silk Lord) も更新しております。

    https://ncode.syosetu.com/n5250en/ です。

     お楽しみいただけたら幸いです。


 20180825 修正

(旧)この判定をよしとする肯定派が2、異議があるという否定派が8くらいに分かれており、肯定派の中でも3人ほどが特に引き分けを主張していた。

(新)この判定をよしとする肯定派が2割、異議があるという否定派が8割くらいに分かれており、その2割の肯定派の中でも3人ほどが特に引き分けを主張していた。

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