52-29 研究と考察
『変形式動力』における、『魔導樹脂』の動作への寄与率。
関節周りが最大であることはわかっており、ストーンゴーレムで関節部をより高品質な『魔石』化させて動作効率を向上させる技法もある。
「だけど、今検討しているのは固体の『魔石』じゃなく、柔軟性のある『魔導樹脂』だからな」
「変形度合いを外から確認できるとよさそうですね」
仁の言葉を受け、グリーナも確認のための思いつきを口にする。
「だったら、外装は透明なものを使えばいいですね」
これはマリッカ。
「うん。それに魔導樹脂に縞……いやマス目を描いておけば、どこがどれくらい伸び縮みしたか一目でわかりそうだ」
と、仁。
これらのアイデアを取り入れ、仁は試作ゴーレムの外装を一旦取り外した。
そして魔導樹脂に方眼のような線を描いていく。イメージ的にはワイヤーフレームで描かれた3Dモデルだ。
同時並行で、マリッカ、ルビーナ、グリーナたちは透明外装をキュービックジルコニアで作製していく。
双方の作業はほぼ同時に終了。
「よし、再組み立てだ」
これは2分で終了。
『制御核』はそのままなので、動作は問題ない。というか、老君による遠隔操縦のままだ。
「老君、ゆっくりと動かしてみてくれ」
『はい、御主人様』
まず老君は右腕を水平に伸ばし、そこから肘をゆっくり曲げて見せた。
「おお……」
次に立ち上がると、ゆっくりと足踏み。
『いかがでしょうか?』
「ああ、わかりやすい。ゆっくりと足踏みを続けてくれ」
『はい、御主人様』
この観察により、『魔導樹脂』を使った『変形式動力』の様子が明らかになった。
「ふうん……関節付近8割、近傍2割といったところか」
仁はおおよその寄与率を算出した。
「そうですね、ジン様。だとすると上げられても2割ってことでしょうか?」
マリッカが少し落胆したような声で言った。2割程度では大幅な性能向上は望めそうもないからだ。
「いや、違うと思うわ」
そう言いだしたのはルビーナ。
「……ええと、『魔岩』を使ったストーンゴーレムは、関節周りの寄与率がほぼ10割。だけど、柔軟性のある『魔導樹脂』だったら8割になった。これがなぜかと言いうことをかんがえてみたの」
「なるほどな。……続けてくれ」
仁はルビーナの言わんとするところの見当が付いたが、そのまま説明を聞くことにした。
「動力用の素材が硬いほど、寄与するのは局所的で、軟らかければ範囲は広くなるんじゃないかって思うのよ」
「凄いわ、ルビーナ! 私もその考えに賛成よ!」
「ほんとにそうね。……ジン様、早速確かめてみませんか?」
グリーナも賛成し、マリッカに至っては検証実験を行おうとやる気満々だった。
「よし、やろう」
仁は硬度の異なる『魔導樹脂』を2種類用意した。
「あまり軟らかいと流動的になってしまうから、このくらいだろう」
1つはいわゆる『耳たぶくらいの軟らかさ』。もう1つは現在試作ゴーレムに使っているものよりも硬いものだ。
試作ゴーレムの『中身』と交換して実験を繰り返してみると、
「ほら、やっぱり!」
「ああ、ルビーナの考えが当たっていたな」
軟らかい魔導樹脂の方が、関節周りの寄与率が低くなったのである。
それは、軟らかい魔導樹脂が6割、硬い魔導樹脂がほぼ10割、といったところ。
つまり硬い魔導樹脂は動作の際、関節付近だけで動いているということだ。
「軟らかいほど、全体で変形を受け止めているというか、影響が全体に及ぶというか、そんなイメージかしらね」
「いいんじゃないか?」
仁もその意見には賛成である。
「あ、だったら、魔導樹脂が骨格にしっかり止められるようにした方が効率上がるかも」
「それはあるかもな」
骨格の表面を少し荒らしてみることで樹脂の『食いつき』がよくなるだろうと、仁は試してみることにした。
外装を外し、魔導樹脂を取り除き、骨格表面を加工し、魔導樹脂を取り付け、外装を再度組み付ける。
改造に要した時間は5分。
「……」
その手際は、見ていた者が絶句するほどであった。
「さて、試してみよう。老君、頼む」
『はい、御主人様』
老君が試作ゴーレムを動かし始めた。が、明らかにその動きはぎこちない。
『御主人様、入出力のバランスが崩れました。およそ75パーセントの効率アップであると報告いたします』
「そうか。やったな!」
骨格と魔導樹脂との密着度を上げただけで効率が75パーセントもアップした。つまり魔導樹脂は、単に『曲げる』という変形動作だけで使うのではなく、筋肉のように骨格を『引っ張る』動作もさせることができるというわけだ。
「あ、そうよね」
「さすがジン様!」
仁の考えは、ルビーナたちにも賛成された。
そこで、試作ゴーレムの制御シーケンスを変更するよう、仁は老君に指示を出す。
「少しずつ、『筋肉』的な使い方も試してくれ」
『はい、御主人様』
老君による操縦は精緻を極め、わずか1分で最適な制御を行えるようになった。
その結果。
『御主人様、当初の3.5倍の出力と2倍の反応速度を得ることができました』
「おお、そうか」
出力の増加に対し反応速度の向上が鈍いが、これは致し方ない。魔導樹脂の反応速度と出力には限界があるのだから。
そして、反応速度は元々上限に近い領域で使われていた。
対して出力はロスが多く、改善の余地があったというわけだ。
「うーん、やっぱり賊のゴーレムに使われていた魔導樹脂が気になるな」
仁が知るどの魔導樹脂よりも性能がよさそうだった。
昔のものだとは思うけど、どこで採れたんだろうか、と仁は詳しく調べられなかったことを残念に思った。
その時仁は、その現場にブルウ公爵たちが訪れていることを思い出した。
「老君、仁Dと礼子の方はどうなんだ?」
『はい、御主人様。つい先程現場に到着したばかりのようです』
「そうか。魔導樹脂について何か資料かないか、気をつけていてくれ」
『わかりました』
仁は老君との対話を終え、マリッカたちに向き直った。
「さて、大分進んだと思うが、ここまでで何か言いたいことはあるかい?」
まず、ルビーナが小さく手を挙げて発言を行った。
「ええと、少し話に聞いただけだけど、ジン様が捕まえたっていう賊のゴーレムは、今あたしたちが作った試作よりも性能は上だったのかしら?」
「うん、気になるよな。……はっきり言おう、もう少し上だった」
「ええー……」
『魔法工学師』仁と、自分たちが協力して作り上げた試作よりも上と聞いて、ルビーナは少なからずショックだったようだ。
「そう気を落とすな。理由は幾つかあるし、わかっているんだ」
仁は、同じ改造を行えば、こっちの試作の方が遙かに性能がよくなるんだから、と言ってルビーナをなだめたのであった。
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本日は 異世界シルクロード(Silk Lord) も更新しております。
https://ncode.syosetu.com/n5250en/ です。
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20180729 修正
(誤)仁は、同じ改造を行えは、こっちの試作の方が遙かに性能がよくなるんだから、と言ってルビーナをなだめたのであった。
(正)仁は、同じ改造を行えば、こっちの試作の方が遙かに性能がよくなるんだから、と言ってルビーナをなだめたのであった。




