表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
マギクラフト・マイスター  作者: 秋ぎつね
52 子孫トラブル解決篇
1937/4279

52-09 アクセサリー製作

 侯爵夫人アンナは、3人の娘を連れてきていた。

「アイリーン・ラピ・クズマです」

「メイヴィス・エメ・クズマでしゅ」

「パメラ・ジャス・クズマでちゅ」

 3人は、スカートの裾をつまんでカーテシーでお辞儀をした。

 長女アイリーンは母アンナと同じく明るい茶色の髪に茶色の目をしており10歳、次女メイヴィスは侯爵と同じ金髪碧眼で8歳。3女パメラは茶色の髪に青い眼で7歳、であった。

「シンです」

「レコです」

「リーゼです」

 仁たちも名乗り、お辞儀をする。

 ちなみに、以前仁が聞いた、社交界に出るようになる10歳くらいまでは幼名で呼ぶ、という習慣は王族だけで、一般の貴族には幼名というものはない。


 そしてさっそくリーゼによる診察が開始された。

 まずは長女のアイリーンから。

「アイリーン様は大丈夫ですね。潜在的な因子もないようです」

 それを聞き、ほっとした顔の侯爵夫妻。

「メイヴィス様も大丈夫ですね。同じく、潜在的な因子はありません」

 さらに安堵の表情をする侯爵夫妻。

 リーゼは、最後に末娘のパメラを診察した。

「……これは……」

「!?」

「……パメラお嬢様は『魔力過多症』になっていらっしゃいます。まだ顕在化はしていないようですが」

「何ですって!?」

「ああ……そうなのか……」

 夫人はショックだったようだ。侯爵も悲しそうな顔をした。

「?」

 当のパメラはまったくわかっていないようだ。

「パメラお嬢様は、具合の悪い様子はございませんか?」

 リーゼが尋ねてみると、

「ええ。食事も普通だと思いますし、遊んでいる時にも特には」

「魔法の適性はもうお調べになりましたか?」

「アイリーンだけは、ですが。この子は『魔法士』になれるそうです」

 『魔法士』とは、一般に言う『魔法使い』のことである。

 『魔導士』という言い方もあったが、最近では『魔法士』が主流で、『魔導士』は魔法研究家的な者を呼ぶ際に使われている。

(言葉も少しずつ変わっていくものだなあ)

 と考えていた仁だったが、

「ああ……どうしましょう、あなた」

 心配そうなアンナの声に我に返った。

 そこで仁は、礼子を連れて部屋の隅へと移動。そこでそっと礼子に耳打ちする。

(礼子、老君に言って治療薬をもう1本送ってもらってくれ)

 礼子なら、唇の動きだけでも仁が言いたいことを察してくれる。

(わかりました)

 短く答えた礼子は、内蔵魔素通信機(マナカム)で老君に連絡を入れた。30秒後には礼子の手の中に薬瓶が現れた。

 仁は、それをどう使うか考えた。ここでそれを差し出すのはいくらなんでも不自然だと考えたのだ。

(まだ症状は現れていないから、抑える魔導具を作ってあげて、あとでこっそり飲ませるか……)

 いずれにしても、この場で飲ませるわけにはいかないと、仁は判断した。

「閣下、先程申し上げましたが、私は『魔力過多症』を抑える魔導具を作れます。お嬢様にはそれを身に着けていただけば、当面の心配はないかと」

「お、おお、そうであったな。シン殿、よろしく頼む! 金は幾ら掛かってもよい。パメラを救ってやってくれ」

「承りました。……こちらに工房はございますか?」

 早速作業に入りたいと仁が言うと、

「うむ。屋敷内の工房を使ってくれ。そこにある素材は何でも使ってよい」

 と侯爵が許可をくれた。さらに家宰のクエスチャンが補足する。

「当家で代々受け継がれている『クラフトクイーン工房』でございます。……旦那様、よろしいのですね?」

「うむ。シン殿たちを信用しよう。クエス、案内して差し上げなさい」

「はい、旦那様。……シン様、どうぞこちらへ」

「では閣下、一旦失礼します」

 こうして、仁たち3人は『クラフトクイーン工房』へと案内されたのであった。


*   *   *


「こちらでございます。……先代、今代は『魔法工作士(マギクラフトマン)』となった方がいらっしゃいませんでしたので、50年ほど使われていません」

 クエスチャンは仁にそう説明した。やはり、分家ということでビーナの血は薄く、魔法工学の適性は低いようだ。

 だが、工房内は大したものであった。

「高品質の素材が揃っていますし、工具類もよく手入れされていますね」

 錆も変色も生じておらず、おそらく『安定化(スタビライズ)』が掛けられているのだろうと思われた。

「ゴーレムメイド長の『メリネ』が定期的に掃除、保守をしておりますので」

 メリネはビーナが作ったゴーレムメイドなので、そうした役目も請け負っているということだった。


「えーと……お、この魔結晶(マギクリスタル)ならいいな」

 ここブルーランドは近郊によい鉱山を持っており、その管理は今やクズマ侯爵家が行っているため、高品質の素材が手に入りやすいのだろうと仁は思った。

 実際は、そのような身内びいきをよしとせず、正規の値段、正規のルートで入手しているのだが。

 仁が手に取ったのは、光属性の魔結晶(マギクリスタル)。大きさは親指大。

「この魔結晶(マギクリスタル)を使わせてもらいます」

 仁は、一応クエスチャンに断りを入れておく。侯爵は『何でも使ってよい』と言っていたが、現場ではまた違う判断がなされることは往々にしてあるからだ。

「それから、このミスリル銀と、銅を」

「ええ、結構です」

「ありがとうございます」

 礼を言うと、仁は作業を開始した。

 まずはミスリル銀に銅を少量添加し、合金にする。いわゆる『925銀』、つまり92.5パーセントがミスリル銀、7.5パーセントが銅の合金だ。別名『スターリングシルバー』。

 純銀の時よりも強度がある。

 これで仁はペンダント用の鎖を作った。そう、仁は今回、腕輪ではなくペンダントを作っているのである。

 パメラはまだ小さいので、すぐに大きくなって腕輪がはまらなくなるだろうから、という考えである。

 また、普通の銀ではなくわざわざミスリル銀を使ったのは、魔力伝導性を考慮したためだ。


「……!」

 クズマ侯爵家に仕える家宰として、多少魔法工学の知識のあるクエスチャンは、仁が細いネックレス用のチェーンをあっという間に作り上げるのを目の当たりにして、心の中で叫び声を上げていた。

 当の仁はそんなこととはつゆ知らず、ペンダントヘッドの製作に取り掛かっていた。


 ちなみに、ネックレスとペンダントの違いであるが、ネックレスはネック(首)周りに付けるアクセサリー全般を指し、ペンダントは『吊り下げる』を意味する『pend』が語源と言われているように、首から提げるアクセサリーのことである。

 そのため、着用時にペンダントトップの重みで鎖や紐が『V字』になるものが、ペンダントであるといえよう。


 そして仁は無難なデザインである『ティアドロップ』、つまり涙滴(水滴)形に魔結晶(マギクリスタル)を加工し、それをミスリル銀の台座に固定した。

「これで、よし」

 その魔結晶(マギクリスタル)には、いつの間にか複雑な『魔導式(マギフォーミュラ)』が刻まれており、元々の透明度と相まって、複雑な輝きを放っている。

魔導式(マギフォーミュラ)を装飾の一部とする技法……聞いたことがありませんね)

 仁の製作過程を目にすることは、クエスチャンにとって驚きの連続であった。


「これで、よし」

 ミスリル銀に『表面処理(サフ・トリートメント)』を掛けると白銀色の輝きを放つようになった。これで終了だ。

 『安定化(スタビライズ)』は掛けない。

 確かに、掛ければ長期間、酸化や硫化を防げるのだが、その反面、魔力伝導性が悪くなるのだ。

 そこは、ゴーレムメイド長の『メリネ』に手入れを頼んでおけばいいだろうと仁は判断した。

 工房にやってきてからおよそ10分。

「パメラお嬢様に着けていただくネックレスとペンダント、完成しました」

 と仁は固まっているクエスチャンに声を掛けたのであった。

 いつもお読みいただきありがとうございます。


 20180709 修正

(旧)そう、仁は今回、指輪ではなくペンダントを作っているのである。

(新)そう、仁は今回、腕輪ではなくペンダントを作っているのである。

(旧)すぐに大きくなって指輪がはまらなくなるだろうから、という考えである。

(新)すぐに大きくなって腕輪がはまらなくなるだろうから、という考えである。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] >『安定化』は掛けない。 >確かに、掛ければ長期間、酸化や硫化を防げるのだが、その反面、魔力伝導性が悪くなるのだ。 これが『工学魔法』である『安定化』の研究の一番すごいところだと思います…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ