51-35 暴走ゴーレム
ルビーナたちが改造し、起動した『巨大ゴーレム』は、ルビーナの命令を聞かず、拳を振り上げたかと思うと何もない地面を殴りつけた。
「きゃあっ!」
飛び散る土塊。
そして重心を崩して転倒するゴーレム。
「な、何!?」
「ど、どうしたの?」
一瞬送れて、舞い上がった土塊がテントを襲った。
「ルビーナ! どうしたんだい!?」
びっくりしたアマンダが声を掛けた。
「わ、わかんない。急にゴーレムが暴走して……きゃあ!」
転倒していたゴーレムが再び立ち上がり、そばにあったテントを蹴り飛ばしたのだ。
「何やってるのよ! 止まりなさい! 『停止せよ』!!」
だが、暴走した巨大ゴーレムは止まらなかった。
「な、なんで!? なんで止まらないの?」
「ルビーナ! お前、何やらかしたんだい!?」
「わ、わかんないわ! チェックでは正常だったのに、起動したら……きゃっ!」
「危ない!」
巨大ゴーレムの足が、ルビーナのいた場所に振り下ろされた。
それより一瞬早く、月乃がルビーナを抱えて退避。
「あ、ありがとう……」
「いえ。……それよりも、危険ですからもう少し離れてください。完全に暴走しております」
「なんで? だってあたし……」
そんなルビーナに月乃は落ち着いた声で諭すように言う。
「ルビーナ様、慌てず落ち着いて、ゴーレムの魔力の流れを観察してみてください」
「え? う、うん……『追跡』……ええっ!? 何これ??」
ルビーナが『追跡』をしたところ、巨大ゴーレム内部の魔力の流れは滅茶苦茶であった。
「わけわかんない……」
頭を抱えそうになったルビーナの耳に、さらなるアドバイスの声が届く。
「ルビーナ、『周波数分析』を行ってみろ」
「は、はい! 『周波数分析』! ……えええー!?」
『周波数分析』は、仁が開発した工学魔法で、魔力波の周波数を知ることができる。
これにより、各属性の魔結晶を分別したり、当時『魔族』と呼ばれていた『北方民族』への『知識転写』を行うための下準備をしたりできるのだ。
それはそれとして、ルビーナが驚いたのも無理はない。
暴走した大型ゴーレム内の魔力波形は、特定の周波帯域……かなり高い部分が突出していたのである。
「なにこれ……って、ジン様!?」
「おう」
ルビーナにアドバイスしたのは仁であった。月乃からの緊急連絡を受け、急いで戻ってきたのである。
「理由を聞くのはあとだ。……礼子、停めろ!」
「はい、お父さま」
仁の指示で礼子が飛び出した。
今、簡易テントに向かっていった巨大ゴーレムに真横から跳び蹴り。
『力場発生器』を使用したそれは。10倍以上の身長差があるにも関わらず巨大ゴーレムを20メートル以上も吹き飛ばした。
だが、巨大ゴーレムはそのくらいでは止まらない。
起き上がって小走りに向かってくる。
「なかなか頑丈ですね」
礼子は再度体当たり。
今度は先程の倍以上のパワーを出したのか、巨大ゴーレムは50メートルほども吹き飛んだ。
胸部外装が凹んだが、まだ立ち上がってくる。
踏みつけようとするその足を掴み、礼子は巨大ゴーレムをさらに遠くへ投げ飛ばした。
それでもまだ、巨大ゴーレムは壊れない。
「しぶといですね! ……お父さまに注意されていなければ簡単に壊せるのに」
礼子はぼやきながらも、再度巨大ゴーレムを蹴り飛ばした。
その様子を見ていた仁は、ある意味感心する。
「うーん、さすがルビーナと言えばいいのか、しぶといと切り捨てればいいのか」
仁の独り言を聞いて、ルビーナは申し訳なさに身をすくめた。
「せっかくルビーナがあそこまで改造したのを壊すのは忍びなかったが……あ、そうか」
仁は何かを思いついたらしく、ルビーナに向き直る。
「ルビーナ、あのゴーレムには『封鎖筐体』のような、耐魔法装備はしているか?」
「え、あ、はい、していません」
「そうか!」
それを聞いた仁は、礼子に新たな指示を出した。
「礼子! 『魔力素除去器』を使え!」
『魔力素除去器』。それは、対象物が持つ自由魔力素を除去、エーテルタンクに蓄える魔導兵器である。
「わかりました! 『魔力素除去器』起動!」
シールドされていない『制御核』、『魔力反応炉』を持つ巨大ゴーレムは、この兵器の前には無力だった。
エネルギー切れでこんどこそ完全停止する。
すぐに礼子は駆け寄り、その胸部外装を力任せにめくりあげる。剥き出しになる内部魔導装置。
礼子はそこから『制御核』だけを抜き取ったのである。
これにより、暴走した巨大ゴーレムは完全に無力化されたわけだ。
* * *
「……これは……」
仁は、礼子が取り外してきた『制御核』を見て驚いた。
「なあルビーナ、この『制御核』はどうしたんだ? 確かに、俺は改造をしてみないかとは言ったが、『制御核』は用意してなかったよな?」
「うう……ごめんなさい」
ルビーナは涙目だ。
それを見た仁はぽんぽん、とルビーナの頭を叩いた。
「怒っているんじゃないから。聞いているんだ。この『マライト』をどこから手に入れた?」
「え? 『マライト』っていうの?」
『マライト』。
それはピンク色の外見を持つ魔結晶で、一見すると光と火属性を持つように見える。だが、その実はとんでもない特性を秘めているのだ。
魔導的な特性としては概ね良好なのだが、特定の魔力波に過剰反応するという性質がある。より正確に言うと『特定の魔力』を過剰増幅してしまうのだ。
この過剰反応する周波帯は千差万別だが、比較的高い周波数がこれに該当する。
そして、高い周波帯ということは、魔法工作士の命令を曲解する可能性が高いということ。
このため、これを制御核に使うと暴走しやすいという弊害が出るのだ。
かつて『黄金の破壊姫』と呼ばれたエレナは、この『マライト』で作られた制御核を持っていたため暴走し、他の自動人形を破壊する衝動に駆られていた。
また、700672号と同様に『始祖』によって作られた、『ロクレ』と呼ばれたサーバント『600012号』も、その特性を知らずに己のバックアップとなる自動人形の制御核をこの『マライト』で作ってしまい、暴走させてしまっていた。
マライト『Malite』の語源は、Mal=不良、ite=鉱物などの接尾語、による。つまり、よくない魔結晶、という意味で、ロクレこと600012号が命名したものだ。
(『ロクレ』が命名したというから、てっきりアルス特産だと思ったのに、ヘールにもあったのか……)
心の中で仁は、この新たな発見に驚いていた。
「……ごめんなさい。それを見つけてきたのは私」
ネージュがおずおずと名乗り出た。
「ネージュが見つけてきたのか。いったいどこから?」
「……巨大ゴーレム……じゃない、『魔導操り人形』が見つかった穴の中。隅の方に、保管庫があった。封印されていたみたいだけど、もう何千年も前に封印は駄目になっていたみたい」
「そうだったのか……」
封印してあったということは、『始祖』もこの『マライト』……『始祖』はなんと呼んだのか情報がないのでこの名前で呼ぶことにする……が取り扱い要注意であることを知っていたということなのだろう。
「これ1個だけか?」
「ううん。あと5個、ある」
「とりあえずそれはこっちで管理させてくれ」
「わかった」
こうして、巨大ゴーレム暴走事件は一応の決着を見たのであった。
「ルビーナ! お前はもう、考えなしなことをして!」
「ごめんなさーい、おばあちゃん!」
その後、あらためて祖母アマンダに叱られたルビーナであった。
いつもお読みいただきありがとうございます。
20180623 修正
(旧)・・・確かに、俺は改造をしてみないかとは言ったが、動くようにしろとは言わなかったよな?」
(新)・・・確かに、俺は改造をしてみないかとは言ったが、『制御核』は用意してなかったよな?」
(旧)「怒っているんじゃない。いや、少しは怒っているんだが……その前に聞いているんだ。この『マライト』をどこから手に入れた?」
(新)「怒っているんじゃないから。聞いているんだ。この『マライト』をどこから手に入れた?」




