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仁も含め全員が風呂から上がった頃、『長老』700672号と共に大人たちが帰ってきた。
アマンダとスザンヌ、トライハルトと700672号の順に入浴。
「うむ、この『入浴』という習慣は悪くない。いや、とてもいいな」
「よね!」
「父さま、うちにもほしい」
ルージュとネージュは700672号にせがんでいる。その様子を見て、仁は先程の思いつきが間違っていないことを確信した。そして、
(……こりゃ、明日にでも工事に取り掛かった方がいいな)
と、密かに計画を立てたのである。
その夜も、ネージュとルージュは一緒に夕食を食べることになった。
念のため仁は『分析』で2人の体調を調べてみたが、何の異常もなかったので安心した。
献立はご飯、サトイモと大根の味噌汁、ジャガイモのプレーンコロッケ、ミツホ特産『ピグ(豚)』のショウガ焼き、野菜サラダ、お新香。
「これ、おいしい」
「うむ、これが美味い……という感覚なのだな」
「美味しいよねー!」
ネージュとルージュだけでなく、『長老』700672号も食事を楽しんでいる。
ヘールに来て、いろいろと新たな発見をした700672号であった。
「ねえねえ、今夜は泊まって行きなよ!」
「え?」
「……父さま、いい?」
ルビーナに誘われたルージュとネージュは700672号に伺いを立てた。
「ああ、いいとも」
700672号も、ネージュとルージュに友達ができたことを喜んでいたのだ。
客間に敷いた布団に寝転がるルビーナと、その横でごろごろするネージュとルージュ。
「この『畳』、興味深い」
「あはっ、その言い方、『7』さんそっくりだよ、ネーちゃん」
「……そう?」
ルビーナは700672号を『7』さん、ネージュを『ネー』ちゃん、ルージュを『ルー』ちゃんと呼ぶようになっていた。
その夜、ルビーナたち3人は、アマンダに叱られるまで騒いでいたのであった。
* * *
明けて、翌29日。
「お味噌汁美味しいー」
「……癖になる味」
「うむ、美味いな」
朝粥、ワカメと豆腐の味噌汁、梅干し、焼いた塩ジャケ、お新香という献立を見事に気に入って平らげたネージュ、ルージュと『長老』700672号である。
ルビーナもにこにこしながらお粥を3杯お代わりした。
トライハルト・スザンヌ夫妻もアマンダも、そしてマリッカも、この献立は大喜びであった。
食後のほうじ茶を飲みながら仁は、
「『長老』、今日はお宅に風呂を設置しようかと思うんですが」
と申し出る。
「おお、それは有り難い。ネージュとルージュも喜ぶだろう」
「え? うちにもお風呂できるの? やったー!」
「温泉……楽しみ」
ルージュもネージュも楽しみにしてくれるようで、仁は俄然やる気になった。
「よし、俺はこれからさっそくそっちに取り掛かる。ルビーナは改造の方やっていてくれていいぞ」
「はい、わかりました!」
「私たちはルビちゃん手伝う」
「それがいいね!」
風呂の設置には『長老』700672号がいればいいだろうと、その提案は受け入れられた。
「ジン様、名残惜しいですが私どもは一旦『オノゴロ島』に帰ります」
トライハルト・スザンヌ夫妻はこの後『オノゴロ島』に帰ると言った。
「私はルビーナがいるから残ります」
アマンダはこっちに残るようだ。成長したとはいえ、まだまだ危なっかしい孫を放置するのはやはり不安があるのだろう。
* * *
「それじゃあ、行ってくる。アマンダ、あとはよろしく」
「はい、孫たちのことはお任せください」
仁は支度を済ませると、礼子やマリッカ、『長老』700672号と共に長老宅へ向かった。
一方、ルビーナとネージュ、ルージュの3人は『中央盆地』の作業場へ向かう。もちろん、アマンダも付いていく。
アマンダの世話は『月乃』がすることになった。『星乃』は留守番、そして昼食の準備を任されている。
「さあ、やるわよ!」
『中央盆地』の作業場に着いたルビーナは張り切っている。
「昨日のうちに錆取りや関節の調整までは終わっているから、駆動系と制御系ね」
「うん」
「具体的には?」
ルビーナは少し考えてから結論を出した。
「駆動系はこのまま整備して、駄目になっているところは交換ね」
「わかった」
「制御系は?」
「『制御核』も用意しないといけないわね」
そういえば、魔結晶はどこに保管されているのかを仁に聞くのを忘れた、とルビーナは失敗を悟る。
「どこかに魔結晶ないかしら?」
貴重な魔結晶は、そうそう転がっているものではない。
3人で手分けして探し回ることにした。
ところで、この『中央盆地』はかなり日差しが強いので、アマンダは臨時小屋の中でルビーナたちを見守っている。
「ああ、日陰は涼しいねえ」
湿度が低いのと標高が高いのとで、ほぼ南回帰線上にあるこの場所でも日陰にいれば快適だ。その上『月乃』がかいがいしく世話をしている。
もちろんルビーナたちも巨大なテントの下で作業中である。
ルビーナはテントの中を一巡りしてみたが、魔結晶は見つからなかった。
だが。
「ルビちゃん、こんなのが出てきた」
ネージュが『魔導操り人形』の見つかったという穴の中から数個の魔結晶を見つけ出してきたのである。
仁たちが探し終えた場所であり、もう何も残っていないと思われた場所から、どうやったのかと思うも、
「わあ、綺麗な色。ピンク色って何属性なのかしら? 光と……火?」
その色が気に入ったルビーナは、まずはテストをしてみることにした。
「この一番小さいやつで試してみるわね。……『書き込み』『消去』……うん、反応性もいいわ。ネーちゃん、ありがとう」
「うん、使えそうでよかった」
「さあ、それじゃあ制御系を作るわよ!」
さらに張り切るルビーナであった。
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