51-22 拠点充実
3月22日、仁はヘールの『家』周りをほぼ完成させていた。
時間が掛かったのは『地下』だ。
「格納庫を造ったものの、中身がないな」
『コンロン3』『ペガサス2』はアルスでの足、というか翼である。
そうなれば当然、
「よし、ヘール用の乗り物を作ろう」
となる。
「工房はもう完成しているし、素材もまあこれだけあれば」
素材というのは全て『ネオ』系の金属である。
「生態系素材はこれからだな」
地底蜘蛛や地底芋虫の養殖が可能かどうかは、まだ試していない。
アルスでも、蓬莱島以外の場所で養殖すると糸の強度など品質が落ちることがわかっているので、ここヘールでの養殖も慎重にならざるを得ないのだ。
「さて、大きさとデザインはどうするかな」
ここヘールでなら、仁は思う存分その手腕を発揮できる。
飛行機型にするか、ロケット型にするか、でまず悩んだ。
「陸海空宇宙、万能型にするかな」
10メートル級の小型宇宙船もその括りに入るのだろうが、何か違うのだ。
「やっぱり水滴型かなあ……」
こうして考えている時間が、仁は好きだった。
『御主人様、お考えの最中で申し訳ないのですが、1つ質問があります』
そんな仁に、老君が話し掛けてきた。
「ん? どうした?」
『はい。700672号さんと御主人様住居が完成した今、他の住民はどうするおつもりかと思いまして』
「住民か……」
仁が考えているのは『オノゴロ島』の住民と、『北方民族』だ。
『オノゴロ島』は、今後アルスの文化・文明が発展していけば、いつかは発見されることになるだろう。
『北方民族』は、アルスの自由魔力素濃度問題が解決した今、どこにでも住むことはできる。だが、条件のよい土地はすでに人類が住んでおり、『北方民族』の入り込む余地は少ない。
アルス南半球のラシール大陸は未開発な土地が多いが、自然環境の保存地域としてそっとしておきたいと仁は思っていた。
『このようなことを質問したのは、そうした『住民の方々』のことも念頭に置かれて検討なさったらよろしいのではないかと愚考したからです』
「ああ、そうか。ありがとう、老君」
老君の進言により、仁ははっと気が付いた。
「そうか、乗り物よりもまずは、老君の端末を作ろう」
このヘールには、老君の手は及んでいない。
まずは、端末を作って老君がアルスからここヘールをも掌握できるようにしようと決めた仁であった。
「ま、『掌握』といっても、管理支配するわけじゃないからな」
仁は独裁者ではないし、なるつもりもない。ただ不慮の事態が起きて自分の安寧が脅かされるのが嫌なだけである。
「蓬莱島とのデータをやり取りするのは亜自由魔力素波だ」
空間に充満する自由魔力素ノイズに影響を受けないからである。
「時間遅延もないしな」
とはいえ、自由魔力素波の速度に関しても、仁が知る光速より遙かに速そうではある。
『始祖』は光速がどのくらいか知っていたであろうから、700672号に聞けばわかりそうなものであるが。
「多分、元いた世界の1000倍くらいは速そうだ」
アルスとヘール間での通信に遅延が見られないことから、仁はそう考えていた。
時間遅延がないため、こちらにあるユニットと蓬莱島の本体をひっくるめて『老君』なのである。
もう少し言うと、マルチコアのCPU、そのコアの幾つかがここヘールにあるようなものだ。
それはともかく、仁はてきぱきと作業を進めていく。
助手は礼子。
新素材『ネオ』系もふんだんに使い……といっても構造材と外装に、であるが……老君の端末を仕上げていった。
所要時間、およそ2時間で完成。
「これでよし」
この惑星ヘール全体を見渡せる『覗き見望遠鏡』が特徴だ。
蓬莱島では強固な岩盤に固定せざるを得なかったが、『ネオ・アダマンタイト』を使用した基礎・土台により、10分の1以下の大きさで済むことになった。
その他、これから増やしていくであろう拡張機能を想定し、余裕のある設計となっている。
「老君、どうだ?」
『はい、御主人様。全く問題なし、です。本体以上に快適な操作性です』
「そうか、それはよかった」
今のところ、移動用端末としての『老子』は作っていないが、いずれ何らかの形で同等のものを作るつもりだ。
そして、次は礼子のバージョンアップ。
「礼子、お前の骨格を『ネオ系』に交換するぞ」
「はい、お父さま。お願い致します」
今の礼子の骨格は『ハイパー・アダマンタイト』。マギ・アダマンタイトを分子圧縮した素材だ。
今度は、『ネオ・アダマンタイト』を分子圧縮した『ネオ・ハイパー・アダマンタイト』となる。
デフォルトの強度は1.2倍くらいだが、魔力で強化するとハイパー・アダマンタイトの4倍以上となる。
重さは変わらないので、礼子の体重もそのままである。
「うーん、やっぱりいろいろ細かなバージョンアップがされていたな」
400年前の仁が、おそらく晩年まで手を加え続けた愛娘礼子。
複体である今の仁が知らない改造跡もあったのだ。
細かい整備も加え、1時間で終了。
「これでよし。どうだ、調子は?」
礼子は起き上がってセルフチェックを行う。
「はいお父さま、とてもいい調子です。ありがとうございました」
「そうか。それならよかった」
ちょうど昼時になったので食事にする。
久しぶりにたぬきそばを作る仁。
礼子がそばを打ち、仁は久しぶりに自分で汁を作った。
「うーん、久々だから勘がつかめない」
などと言いながらも、まあまあ及第点の味となった。
* * *
昼食後、次はどうするかと仁が考えていると、礼子から進言があった。
「お父さま、お身の回りのお世話をするメイドゴーレムを用意なさっては?」
「それもそうだな」
午後はヘール用のメイドゴーレムを作ることにした仁。
「こっちはむこう(蓬莱島)みたいに雑用は多くないから、2体でいいな。……なら、対になる事象をイメージするか……」
などと独り言を呟きながら、仁は作業を進めていった。
骨格をはじめとする金属素材は全部『ネオ』系。というかここにはそれしかないのだが。
筋肉や皮膚などの生態系素材は蓬莱島からの持ち込みとなる。
「ゴーレムではなく自動人形にするか……」
そして出来上がったのは2体の侍女自動人形。
身長155センチ、スレンダーな体型。というのも、
「こっちは和風メイド……というかお手伝いさんだな」
あまりメリハリのある体形は着物が似合わないからだ。
そして、和服なので割烹着風エプロンにした。
「これで、よし」
「お父さま、名前はどうしますか?」
「ああ、そうだな。双子の姉妹だから……」
礼子の配下はソレイユ(太陽)とルーナ(月)にしたことを思い出した仁は、
「『月乃』と『星乃』にしよう」
と決めたのであった。
いつもお読みいただきありがとうございます。
本日午前10時、異世界シルクロード(Silk Lord)も更新しております。
https://ncode.syosetu.com/n5250en/
お楽しみいただけたら幸いです。
20180609 修正
(誤)「お父さま、お身の回りをするメイドゴーレムを用意なさっては?」
(正)「お父さま、お身の回りのお世話をするメイドゴーレムを用意なさっては?」
orz
(誤)だが、条件のよい土地はすでに人類が住んでおり、『北方民族』のは入り込む余地は少ない。
(正)だが、条件のよい土地はすでに人類が住んでおり、『北方民族』の入り込む余地は少ない。
(旧)今のところ、端末としての『老子』は作っていないが
(新)今のところ、移動用端末としての『老子』は作っていないが
20200428 修正
(誤)『はい、お父さま。お願い致します』
(正)「はい、お父さま。お願い致します」




