51-13 家の構想
仁と700672号の話は続いている。
「……蓬莱島を惑星アルスから切り離すには、技術的な問題はないのかな?」
「そうですね。地下のマグマは落ち着いていますので、地下水脈だけでしょうか」
温泉が出なくなる可能性があるのが残念である、と仁は思っていた。
「どれくらい深くから掘り上げるのだ?」
「そうですね……地下30キロも掘れば十分でしょうか」
蓬莱島の差し渡しは長い側で90キロ、短い方で70キロくらい。
蓬莱山の高さは3000メートル。地中部分の資源は深さ10キロくらいまで掘り進んでいるから、30キロなら十分だろうと仁は判断したのであった。
「あとは、せっかく生け簀もあるので、少し海も残せたらと思ってます。ですのでタツミ湾は閉じてしまったほうがいいのかなと思ってます」
あるいは、蓬莱島の周囲に囲いを作って、その中に海を残しておく方法もあると仁は言った。
「ふふ、それをこともなげに口にできるのが、ジン殿の凄いところだな」
「とは言うものの、蓬莱島がなくなったら海流がどう変化するか予想がつきませんし、凶魔海蛇の南下も抑えられなくなりますからね。気軽に実行はできませんよ」
「うむ、そういう認識があるなら尚のこと安心だ」
700672号は楽しそうに笑ったのである。
「あと、ツェツィ島は資源云々というような島ではないですからね。マグス岬と共に公表して、保存措置をとってもらえればと思っています」
「そうだな」
さすがの仁も、墓所であるツェツイ島を地盤ごと掘り上げる気はなかった。
「……と、まあ、まだまだ計画とも言えない、案の段階ですけどね」
もちろん、今のままそっとしておくという選択肢だってあるのだ。
その場合将来的に、『ここが『魔法工学師』の拠点である』と宣言する必要があるだろう。
「それはそれでいいと思ってます」
「なるほどな」
一般の人々が世界一周飛行を楽々でき、アルス上の海をどこへでも行ける、そんな日が来たら、の話であるが。
「計画を立てている、そんな時間も楽しいですしね」
「うむ、それはわかる」
仁の言葉に700672号も頷いた。
「計画段階は可能性というか、選択肢が最も大きい時だからな」
「あ、そうですよね」
計画が具体的になっていくにつれ、選択肢は減っていくわけだ。
「決まったあと、今度は形ができていく時も楽しいですけどね」
「ふふ、ジン殿はモノ作りしていさえすれば楽しいのだろう」
「そうかもしれません」
そして2人は笑い合った。
「父さま、いつこちらへ移り住むのですか?」
仁と700672号の話が一段落付いた時、ネージュが尋ねてきた。
「まだ具体的なことは何も決まっていないかな」
静かな声で700672号は答える。
「私としましては早くこちらに住みたいです」
「そうか……」
今の住処は『天翔る船』の中、やはり狭いし、閉塞感を感じているのだろう、とそばで聞いている仁は思った。
「俺も協力しますから、できるだけ早く移住してくださいよ」
「ん? うむ、そうか。……そうだな」
700672号も、ネージュの気持ちはわかるとみえ、仁の申し出に頷いたのだった。
* * *
「さて、まとめないといけないな」
いろいろな案が出て、収拾が付かなくなってきた今、きっちりと優先順位を決め、動き出す時だろうと仁は判断し、700672号、礼子と共に『アドリアナ』の中央艦橋にいた。
ここなら、蓬莱島の老君ともオンラインで協議ができるからだ。
700672号の意見は外せない。何しろ、この惑星ヘールの元の主人である『始祖』、その直系と言える存在なのだから。
因みに、ネージュとルージュははしゃぎ疲れて『コンロン3』の中で眠っており、林業ゴーレム『フォレス』を1体呼び寄せ、見守らせている。
「最終的に、資源用の『衛星アルファ』は軌道上に置き、適宜資材は転移門を使って取り寄せることにします」
「うむ、それがよさそうだ」
資源については最終的にこれでいくこととなった。
「環境整備については、今のまま進めたいのですが」
「それについても異議はない。ジン殿はよくやってくれている」
「ありがとうございます。そして、700672号さんの住居ですが」
仁としては一番気になっているのだ。
「おお、それについてはネージュとルージュが希望をまとめてくれた物があるから、それをベースに決めようと思う」
「そうだったんですか」
少しだけ、とんでもない要望が入っているのではないかと身構えた仁であったが、そんなことはなく、比較的まっとうな案が並んでいた。
『始祖』と同じドームにする、というのが第1案。
第2案は山腹を掘削して洞窟を部屋にするというもの。遊び心はあるが、景観をできるだけ損なわないように、という意図のようだ。
そして第3案が普通の家を建ててみたい、というものだった。
「どれも迷いますね」
「うむ、あの子たちはこれまで自分の要望というものをほとんど口にすることはなかったからな」
それを聞いた仁は、
「じゃあ、全部叶えてあげましょうよ」
と提案する。
「この要望、別に相反するわけじゃないですから、岩壁に穴を掘って展望台みたいな『石窟』を作ればいいですし、ドームは離れ、そして普通の家、と」
700672号は小さく笑った。
「ふふ、ジン殿らしいな。だが、確かにそうだ。……協力してもらえるか?」
「もちろん、というより最初からそのつもりですよ」
こうして、さらに具体的な設計が始まった。
「中心は『家』で、そこからドームと石窟に行けるようにしましょう」
「ほほう、面白い造りだな」
仁は紙にラフスケッチを書いて見せた。こうした図面の類なら仁はお手の物だ。
「それぞれを連絡通路というか渡り廊下というか……で結んで、こうして」
「ふむふむ。……なら、ここはこうした方がよくはないかな?」
「あ、いいですね。でしたらこっちもこう……」
700672号もこの検討が楽しくなってきたようで、仁と共に熱心に案を出すのであった。
「できましたね」
「うむ」
『石窟』は、仁がかつて訪れた、セルロア王国にあるショウロ皇国との『国境の街』トスコシアを少し参考にした。
それからテレビで見た敦煌の石窟寺院などもだ。
「一応窓にはガラスかキュービックジルコニアをはめ込みましょう」
虫、雨、砂埃などを防ぐためである。
「家の方は、付近で採れる石材を使ったショウロ皇国では普通の造りです」
「うむ」
普通の、とは言っているがそれは400年前の話で、今は少し流行が変わっているかもしれないとは考えていない仁であった。
「で、ゆったりと寛げる空間としてドームを造り、居間としたらと思います」
「ジン殿の発想は面白いな」
700672号も満足してくれたようだ。
ちなみにこの後、構想図をネージュとルージュに見せたところ、2人とも大満足したということだ。
いつもお読みいただきありがとうございます。
20180531 修正
(誤)「『始祖』と同じドームにする、というのが第1案。
(正) 『始祖』と同じドームにする、というのが第1案。
(誤)「計画を立ている、そんな時間も楽しいですしね」
(正)「計画を立てている、そんな時間も楽しいですしね」




