表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
マギクラフト・マイスター  作者: 秋ぎつね
51 ヘール開発篇
1892/4280

51-06 ジパート間近のトラブル

 24時間が経ち、『アドリアナ』は、ヘールの大陸東、東海岸地方に戻ってきていた。

「そういえば、この大陸に名前はないのか?」

 今更だが、疑問に思ったので仁は『大聖』に尋ねてみた。

『はい御主人様(マイロード)、『始祖(オリジン)』たちは特に名前を付けなかったようです。1つしかない大陸なので、でしょうか』

 確かに、他に大陸がないなら、区別する必要はないわけである。

「うーん……」

 また、『始祖(オリジン)』のネーミングは独特……というか、あまり名前に拘らないらしいことを仁は知っている。

「いずれ付けたいな……アルスの大陸と区別しにくくなるもんな」

 そして、自分のネーミングセンスがあまり一般的ではないことも。


 とりあえず大陸名は後回しにし、そろそろ到着するはずの『アトラス』を、宇宙空間で待ち受ける仁。

『あと10分くらいで到着します』

 『大聖』から報告が入った。

「そうか、もうすぐだな。道中、異常はなかったのか?」

『大丈夫だとのことです。障壁(バリア)は問題なく機能したと報告がありました』

「それならいい」


 そして10分後、1キロメートルの距離を置いて、『アドリアナ』に対して相対的に静止する『アトラス』の姿が宇宙空間にあった。

「これでようやく計画が始められるな」

 期待を込めて仁が呟いた。


 『アトラス』はその秘めた力を解放する時を待ちながら、静かに宇宙空間に佇んでいる。

 護衛艦『シリウス』『プロキオン』『ベテルギウス』もそのそばにあった。

 仁は管理魔導頭脳に連絡を取る。

「『金時』、道中はどうだった? 何か問題はあるか?」

《はい、御主人様(マイロード)。全く問題ありませんでした。いつでも作戦に取りかかれます》

「よし、『ジパート』の位置も、最良ではないが、まずまずいい位置にある。まずは、ゆっくりと向かってくれ。状況を報告しながら、だぞ」

《わかりました。現在の距離、およそ3400万キロメートルですので、秒速100キロメートルでおよそ4日掛けて接近するのではいかがでしょうか?》


 今、ジパートの位置は、天の北極(正確には黄道北極)から見てヘールを12時、アルスを6時としたら、10時と11時の間……つまりヘールと45度くらいの位置にある。

 公転方向は、天の北極(より正確に言うなら公転面から垂直方向をいうべきだが、おおよその方角で十分なので)から見て左回り、つまり反時計回りなので、時間が経てば経つほどジパートはヘールから離れていくことになるのだ。

 そういう意味で、仁は早めに作戦を開始したかったのである。


「そうだな、それでいいだろう。『シリウス』『プロキオン』『ベテルギウス』も可能な限り随行してくれ。ただし、航行に影響が出始めたらすぐに引き返し、影響の出ないギリギリの距離で待機だ」

《わかりました》

 こうして、ついに『ジパート』からの資源調達作戦が始まったのであった。


*   *   *


 はじめの2日間は特に異常はなく、仁も手持ち無沙汰なため、『アドリアナ』内を回って整備という名の暇潰しをしていた。

 『アドリアナ』は巨大なので、さすがの仁でも2日間で全てを整備できるはずもなく、一応暇潰しにはなっている。


 だが、3日目。

御主人様(マイロード)、護衛艦『シリウス』『プロキオン』『ベテルギウス』が、自由魔力素(エーテル)濃度急上昇による誤動作のため、進行を停止しました》

 との報告が入った。

 仁はすぐ中央艦橋=司令室に飛んでいく。

「そうか。ノイズじゃないんだな?」

《はい、御主人様(マイロード)自由魔力素(エーテル)濃度急上昇に間違いはありません》

「そうか……」


 『始祖(オリジン)』の残した情報では、自由魔力素(エーテル)のノイズもあるということだったが、それは勘違いだったのか、長い年月の間に変化したのか、どちらかと思われる。

 ある程度予測していたとはいえ、『始祖(オリジン)』の残した情報は少なく、今初めて生のデータが得られるのである。

「それで、どんな感じだ?」

《はい。以前『エーテルの雲』に遭遇した時と似ていますが、もっと濃度が高いようです》

「そうだろうな」

 『エーテルの雲』は、アルス周辺の標準的な自由魔力素(エーテル)濃度の1000倍という途轍もない濃度であったため、力場発生器フォースジェネレーターをはじめとする魔導機(マギマシン)類が軒並み誤動作したのであった。

 その時に対策した護衛艦『シリウス』『プロキオン』『ベテルギウス』が危険を感じて撤退したということは、さらに濃度が高かったということだろう。

《仰るとおりです。その濃度、およそ1万倍》

「1万……」

 『エーテルの雲』の10倍では、対策してあっても魔導具や魔導機(マギマシン)が暴走する可能性がある。事実、危険を感じて護衛艦3隻は撤退したのだ。

「なるほど……『始祖(オリジン)』の記録とはやはり異なるな」

 調査したのが何万年前なのかは不明だが、その間に状況が変わったと考えるのが妥当だろう。


「セランからの距離はどのくらいだ?」

《はい。1億2000万キロメートルくらいです》

 アルス・ヘールがだいたい1億5000万キロメートル、ジパートが1億800万キロメートルなので、2つの軌道の中間よりもややセラン寄りということになる。

「どうして急激に濃度が高まるんだろうな?」

 ここまで急激に強度が変化するというのはおかしいのではないか、と仁は感じていた。

「まさかと思うが、自由魔力素(エーテル)の凝集は人為的なものじゃないだろうな?」

 ジパートにも文明があり、何らかの目的で自由魔力素(エーテル)を集めている可能性を仁は危惧したのだ。

《それは今のところわかりません》

 ジパートにたどり着いてみなければわからないとのこと。

《ですが、自然発生的なものであると判断できる材料が幾つかあります》

「それは?」

《まず、エリアの広さです。広すぎます。おそらく半径1億2000万キロメートルの球形エリア全てがこの濃度ではないかと思われます》

「それが正しいなら、確かに人為的とは思えないな」

 そんな途方もない空間に自由魔力素(エーテル)を満たすなど、正気の沙汰ではない。

 それ以前に、そんなことが人の手で行えるとは到底思えなかった。

《『シリウス』『プロキオン』『ベテルギウス』には、エリアの測定をさせておりますが、今のところ間違いなく、球形の範囲に自由魔力素(エーテル)が凝集しています》

「うーん……」

 自由魔力素(エーテル)の成り立ちについても、詳しいことはわかっていない現状、なぜそれだけの濃度になっているか……を考えても始まりそうにない。

「わかった。高自由魔力素(エーテル)エリアの範囲測定は継続してくれ。で、『アトラス』は無事なんだな?」

《はい。自由魔力素(エーテル)ノイズではありませんでしたが、施した対策は有効に働いています》

「それならよかった」

 ここでもう一つ、仁は気になったことを口にした。

「ジパートに近付くにつれて濃度が高くなるというようなことはあるのか?」

 この質問に『大聖』は即答した。

《いえ、そういうことはないようです。『アトラス』とは(サブ)自由魔力素(エーテル)波による通信で繋がっておりますが、濃度は突然高くなり、その後はほぼ一定であるということです》

「うーん……」

 再び仁は唸った。

「『アトラス』の速度を半分に落とし、より周囲への警戒を強めさせろ」

《わかりました。早速連絡します》

 自由魔力素(エーテル)濃度が何故高くなるのかも分からない今、より慎重に行動せざるを得ないだろうと仁は考えたのだ。

《予定ではあと1日弱でしたが、2日掛けることになります。よろしいですね?》

「もちろんだ」


 仁は考えている。

 この高濃度の自由魔力素(エーテル)を発生させているのが太陽セランであることはほぼ間違いない。

 自由魔力素(エーテル)は様々な物理エネルギーに変換できる、クリーンなエネルギー源だ。

 太陽セランの中で、どんな反応が行われているのか、非常に気になる仁なのであった。

 いつもお読みいただきありがとうございます。


 20180524 修正

(旧)今、ジパートの位置は、天の北極から見てヘールを12時、アルスを6時としたら

(新)今、ジパートの位置は、天の北極(正確には黄道北極)から見てヘールを12時、アルスを6時としたら

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ