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マギクラフト・マイスター  作者: 秋ぎつね
50 オノゴロ島競技決着篇(3900年)
1867/4280

50-08 自由演技開始

 そして次の種目はフリーの演技、『自由演技』である。

 これは観客全員が採点し、1人あたりの持ち点は100/観客数。200人なら0.5点ということだ。

 小数点の付くような採点は面倒なので、実際には10点満点で採点してもらい、それを集計時に観客数掛ける10で割ることになる。

『観客席の皆様は、お手元の操作パネルをご確認ください。そこに採点をご記入いただけますと、魔導頭脳『テスタ』が読み取りまして集計してくれます』

 マリッカが無茶振りしているなあ、と感想を抱いた仁であったが、

(いや、『テスタ』のことだから是非に、と言って立候補したのかもな)

 と、ほぼ正解を推測していたのであった。


 そして『自由演技』開始。持ち時間は1人3分だが、数秒程度の前後は大目に見てもらえることになっている。

 というのも、機種によって飛行速度が異なるからだ。

『ゼッケン1ナタリア、三葉機『ハルシオン』!』

『どんな演技を見せてくれますかね』

『楽しみね』

 そして、『ハルシオン』は離陸した。

 滑らかな離陸後、右へと旋回を開始した。

 1周、2周……螺旋を描きながら緩やかに上昇していく。

 5周すると高度は30メートルほどになり、水平飛行に移った。

 そこから一気に、90度の急降下。

 ぐんぐん速度を増し、地上から5メートルほどで引き起こし、水平飛行に戻る。

「おお!」

 観客席からも歓声が上がった。

 そのまま『ハルシオン』は水平飛行を続けたかと思うと、今度は垂直上昇を開始した。

『これは……』

 シオンがその意図に気が付いた。

『四角宙返りね?』

『あ、な、なるほど! シオン様の仰るように、ナタリアは四角宙返りを行っています!』

 元の高度に戻ったゼッケン1『ハルシオン』は、今度は左に旋回。ゆるい螺旋を描いて高度を下げていく。

 そして5周で高度5メートルほどに落としたあとは水平飛行。

 そこから宙返りに入った。

 その頂点で今度は逆宙返りを開始する。

「これは……」

 仁も思わず声を漏らした。

『縦8の字ですね』

 そう、ナタリアは縦8の字宙返りを行っていたのだ。

『お見事!』

 逆宙返りを行ったあと、もう一度正宙返りを180度行って縦8の字は完成だ。観客席から大きな拍手と歓声が沸いた。

 再び水平飛行から右ターン。そして左ターン。水平8の字かと思ったが……。

『おや? これは……』

『8の字を重ねたんでしょうか?』

『違うわ。これは……『四つ葉のクローバー』ね!』

 『四つ葉のクローバー』。それは、無線操縦の飛行機でよりも、Uコントロールと呼ばれる有線操縦の飛行機で行われるフライトパターンの一つである。もっとも、そちらは有線である関係上、機体の姿勢が全く異なるが。

『美しいですね』

『ははあ……ナタリアは、『静』と『動』を交互に行っているのね! よく考えているわ!!』

 シオンが、ナタリアの演技の組み合わせ、その意図を見抜いた。

 そして四つ葉のクローバーを演じ終えたナタリアの『ハルシオン』はゆっくりと着陸した。

 観客らはあらためて惜しみない拍手を贈ったのである。


*   *   *


 ところで、こうした採点は、印象、つまり主観に左右されやすい。

 最初の演技は印象的であるし、また、あとの演技が前のものより優れていると思っても10点を超えての採点はできない。

 これを考慮した結果、全員の演技が終わったあとに、録画した演技内容を全員分モニタで再生し、それを見終わってから採点することで公平を期するようにしていた。


*   *   *


『ゼッケン2、シュウ・ニドー、後退翼機『電光』スタートです!』

『三葉機とは全く異なる機種ですからね。内容が楽しみです』

 三葉機と後退翼機では、適正飛行速度が大きく異なる。運動性能も同じ。

 シュウの『電光』は離陸後、70度くらいの角度で急上昇。ナタリアの『ハルシオン』とは速度にして倍ほどの開きがある。

 そのまま大きな宙返り。連続でもう1度。さらにもう1度。

 繰り返すたびに宙返りの半径を小さくしていくシュウ。

『横から見たら渦巻きに見えるわね』

 空中から写しているモニタを眺めたシオンが呟くように言った。

 5回目の宙返りを、半径5メートルほどで行ったシュウは、『電光』を急降下させた。その角度はこれも70度ほど。

 地表から5メートルほどで引き起こし、今度は急上昇。これもまた角度は70度。

 高度30メートルほどで一転急降下。

 つまりジグザグ飛行を行っているのだ。

『凄いのはわかるけど……わかりづらいわね』

 いみじくもシオンが言うように、採点は観客の主観であるから、アピール度合いも大きく影響するのだ。

 そういう意味で、ナタリアの方がシュウよりも好印象を与えたようであった。


『ゼッケン3、ユージン・フォウル! 離陸……しました!』

 複葉機、三葉機を低速機とするなら、後退翼機、デルタ翼機は高速機。そして楕円翼機やテーパー翼機は中速機といえよう。

 ゼッケン3は離陸後、30度ほどの角度で上昇、高度10メートルほどで水平飛行に移る。

 そして、『ロール』と呼ばれるひねり飛行を連続で行った。

 その後インメルマン・ターンをして高度を30メートルほどまで上げたあと、水平飛行から下方向への逆宙返りを連続で3回行った。

『きれいな演技ね』

 シオンも感想を述べる。

 速度もほどほどなので、機体の挙動がよく見えるのだ。

 その後、逆宙返りの最も低い位置で水平飛行に移る。ということは背面飛行しているわけだ。

『安定していますね。見事な操縦技術です』

 上半角がついている機体で背面飛行を行うということは、より不安定な姿勢で行っているわけで、機体を安定させているユージンの操縦技術は素晴らしい。

 そしてもう一度逆宙返りを半分行って水平飛行に戻ったあと、スプリットSで低空での水平飛行を行い、そのまま着陸した。


『ゼッケン4、グリーナ・クズマ。楕円翼機『テンペスト』、離陸します!!』

 同じく中速機のゼッケン4は、滑らかに離陸したあと、わずかな水平飛行の後、カクッとした90度宙返りを行って垂直上昇。

 高度30メートルほどでもう一度カクッとした90度宙返りを行い、水平飛行に。その後またもやカクッとした90度宙返りで垂直降下を行った。

『四角宙返りですね』

『これもまた見事ですね』

 だが、そうではなかった。

 高度10メートルあたりでもう一度カクッとした『逆』宙返りを行ったのである。

 そして背面飛行を行ったあと、カクッとした90度逆宙返りで垂直上昇。高度30メートルほどでもう一度カクッとした90度逆宙返り。

 ここまで来れば、グリーナが『四角8の字』と呼ばれるパターンを描こうとしていることがわかる。

『斬新でしたね』

 四角8の字を決めたゼッケン4は、続く演技に入る。

 垂直上昇しながらロール(ひねり)を行ったのである。それはまさに『ドリル』のようであった。

 高度50メートルほどまでその状態で上昇した楕円翼機は、大きな逆宙返りに入る。

『今度は縦8の字ね』

『これもまた見事ですね』

 8の字を描き終えて再び高度50メートルに戻ったゼッケン4は、垂直に降下を開始。もちろんロール(ひねり)を行いながら。

 ドリルのような降下を行うゼッケン4は、高度5メートルほどで引き起こし。

 だが。

『ああっ、間に合いません!!』

 速度が出過ぎていたか、それとも引き起こしがわずかに遅れたのか。

 ゼッケン4は高度を落としすぎ、『墜落保護結界』に接触、その時点で終了となった。

 ちなみに、演技がそこで終わりというだけで、失格とはならないため、観客からの採点は行ってもらえる。


『ヒヤリとしましたが、『墜落保護結界』は有効でしたね』

『そうですね。……さあ、次はゼッケン5、シーリーン・エッシェンバッハの複葉機です!』

 こうした、観客に『見せる』ための演技には、低速機が有利なようである。

 シーリーンの複葉機は、これまでの4機と比べて目新しいパターンは描かなかったものの、『見せる』と同時に『魅せる』演技を行い、終了時には割れんばかりの拍手をもらっていた。


『ゼッケン6、シドニー・マレク! 翼が折りたたみ式の矩形翼機、離陸!!』

『翼は伸ばしていますね。やはり曲技飛行には揚力が必要ですからね』

 やや低速機的な飛行を見せるゼッケン6。

 だが、『見せる』ために速度を落としすぎ、時間切れとなって演技3分の2ほどで終了となってしまったのだった。


『ゼッケン7、ヴェルナー・ランドル、主翼が伸び縮みするテーパー翼機、離陸します!』

 これまた主翼は目一杯に伸ばしての飛行である。

 宙返りや背面飛行、8の字飛行などを組み合わせた無難な演技であった。

『うーんん、無難だったけど、もう一工夫ほしかったかな』

 とはシオンの感想である。


『ゼッケン8、フローレンス・ファールハイトの後退翼機『ブルースカイ』、離陸!』

 2機目の後退翼機である。シュウと同様、飛行速度は高い。

『おお、速度を生かした演技です!』

 5回連続宙返り、5回連続逆宙返りをこなして見せ、観客を沸かせる。

 そしてロール(ひねり)を入れた水平飛行からのインメルマンターン、そしてスプリットS。

 高度が落ちたところからの垂直上昇、そして垂直降下、もう一度垂直上昇、そして垂直降下。無線操縦飛行機で『フィギュアM』と呼ばれるパターンに酷似した演技だ。

『これは斬新ですね』

『面白いわ』

 全体的に速度を生かした演技であった。


『ゼッケン9、エルヴィス・アルコット! 複葉機『ダブル・ウイング』、離陸しました!』

 3機目(三葉機も入れて)の複葉機である。

 これまた、低速での優雅な演技を心掛けたようで、無難にまとめていた。


『ゼッケン10、ルビーナ・ギャレット! デルタ翼機『ナイル』、今、離陸!』

 参加機中で最も高速型の『ナイル』。

 ルビーナはそんな特性を生かした演技を行っていく。

 まずは連続宙返りを5回。そして連続逆宙返りを5回。そのまま連続縦8の字を2回行った。

『おお、これは凄い』

 その高速ゆえに、軌跡が残像となって見え、演技しているパターンがよくわかるのだ。

 さらにロール(ひねり)を入れての四角宙返りも行う。

『こ、これはすさまじいですね』

『元気なルビーナらしいわ』

 ロール(ひねり)を入れながらなので見応え十分であった。


 いよいよ次は仁の出番である。

 説明が多いので増量です。


 いつもお読みいただきありがとうございます。


 20180429 修正

(誤)『観客性の皆様は、お手元の操作パネルをご確認ください。

(正)『観客席の皆様は、お手元の操作パネルをご確認ください。

 なぜに orz


 20210504 修正

(旧)

 これは観客1000人が10点満点で採点し、合計点を100で割り、端数を四捨五入したものが得点となる。

(新)

 これは観客全員が採点し、1人あたりの持ち点は100/観客数。200人なら0.5点ということだ。

 小数点の付くような採点は面倒なので、実際には10点満点で採点してもらい、それを集計時に観客数掛ける10で割ることになる。

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― 新着の感想 ―
[一言]  自由演技の採点ですが、50-01話では「観客1人の持ち点は100/観客数」となっており、今回の話と食い違っています。当日になって変更となったのでしょうか。
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